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ケネス徳田伝説 ドロドロの肘でお葬式参列

【パリのスリ師を警戒させた男】

 2014年、フランス・パリで日本式麻雀の世界選手権が行われた。World Riichi Championshipで、略称WRCという大会だった。
 その模様を、開設されたばかりの日本プロ麻雀連盟チャンネルで生放送するために、ケネス徳田も同行した。
 
 パリはスリが多いので有名で、ガイドさんから何度も何度も「スリに気を付けて」と言われた。
 「あいつはスリです。あれもスリ。この人もスリ」

 街中の広場で指をさしながらスリを確認する。新宿でハトを見つけるぐらいイージーにスリが見つかった。
 目の前で実際にスリ行為が行われ、それを見ていた警官がピッピーと笛を鳴らす。
 それを聞いた10代の若い男の子のスリが走って逃げる。
 赤信号を無視して逃げるので危うく車にひかれそうになっていた。
 彼は犯罪者なのだが、見ていた我々はみんなで「ケガしなくてよかった」としか思わなかった。
 
 あまりにもスリが横行しているので、すぐに感覚がマヒしてくる。
 警官も笛を鳴らすだけでつかまえようとしなかった。まるで学校でふざけている程度の扱いだった。

 「もう刑務所がいっぱいで、スリを捕まえても入れるオリがないんですよ」
 
 ガイドさんはそんなことを言っていた。
 
 パリを歩いていると、何回も同じスリと出くわす。10代の可愛い女の子たちが挨拶してくれるので悪い気はしないのだが、その子たちもスリなのだ。
 ちょっとでもスキを見せたら金やスマホを盗まれる。

 藤原隆弘プロが瓶ビールをラッパ飲みしながら歩いていたら、大人の男性がハグしてきた。藤原さんはハグに応じていたが、その男性は藤原さんのポケットに手を突っ込む。
 藤原さんがその男性の手首をつかむと、男はそれをふりほどいて慌てて逃げていった。

 日本では考えられないぐらいのスリ天国だった。

 「地下鉄もスリだらけなので気を付けてください」

 そう言われて地下鉄に乗った。私は周囲を見て、あの子もスリ、たぶんこの子もスリ、とだいたい分かるようになってきた。
 
 少し離れた席に座った徳田を見ると、思いっきり寝ていた。
 アロハシャツの胸のポケットにスマホを入れていて、それが半分ぐらい出ている。
 バッグは下に落ちていて、ビーチサンダルを履いていた。
 完全に無防備な状態で、スリが仕事をするなら「今でしょ」という状況であった。
 
 だが、周囲のスリたちは動かない。徳田をジロジロ見て、仲間に目配せするが、動かない。

 その子たちが動いたら、さすがに私は徳田を起こそうと思っていたが、結局、目的地まで徳田は熟睡していた。

 たぶん、あまりにも無防備すぎて、逆に怖かったのかもしれない。
 徳田はパリのスリをビビらせたのである。
 
 最終日には、バスを待っている時に「ああ、う○こしたい!」と叫んで、カバンをボン、と路上に置いて近くのカフェに入って行った。トイレを借りたかったのだろう。

 そのカバンのポケットからは、長財布とパスポートが顔を出している。
 
 ほら、スリのみんな、お宝やで。

 そう言っているようだった。

 周囲にはプロ雀士がたくさんいたが、誰も徳田のカバンを気にかけてはいない。
 徳田が「見ておいてください」と一声かければよかったのだが、ドン、と無造作に置いて行ってしまったので、視線を送っているのは私だけという状況だった。

 でも、スリは来ない。あからさますぎて来ないのだ。

 結局、徳田は1ユーロもスリ被害に遭うことはなく帰国したのであった。

【お焼香の前で柏手事件】

 ある麻雀番組のディレクターさんのお父様が亡くなられた。そのお葬式に私と徳田が参列したのだが、別々に行ったのに、なぜか席が隣になってしまった。偶然、私の左隣に徳田が座るように案内されてしまったのだ。
 
 こと葬儀やお通夜に関しては、徳田の隣は絶対に嫌なのだ。
 
 何かしらの手段で、絶対に笑わせてくるからである。

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