プロ雀士スーパースター列伝 桑田憲汰 編
【不発のダンクシュートリーチ】
「全日本プロ選手権」の予選が終わると、その場で勝ち上がり選手に取材をする。
ABEMAでの対局に備え、通り名を付け、入場の際の呼び込み原稿を書き、意気込みなどを語るVTRの撮影をしなければならない。
桑田憲汰が日本プロ麻雀連盟の関西本部所属であることは知っていた。
今は何をしていますか?
「麻雀屋さんで働いてます」
普通やね。
「すんません、普通です」
何か、他の人とは違う部分とかありませんか?
「あんまりないですね、ごく普通です」
学生時代にスポーツやってたとか、そういうのないですか?
「バスケやってましたね。バスケの推薦で高校行きました」
それすごいやん、先に言うてよそういうの。その高校は強かったんですか?
「けっこう強かったんですけど、すごい強豪校があって、そこが毎年優勝するから、うちらは常に2位で全国大会へは行けずでした。いまNBAで活躍している渡邊雄太さんが一学年上にいてましたからね。その時から190センチ以上ありましたし」
それすごいやん。何で先に言うてくれへんの。まあ、大阪でいつも2位だったと。
「いや大阪じゃなしに、ぼく香川です」
それもできたら先に言うてくれる? まあええわ、そしたら、大阪へは大学とかで?
「いえ、高校であまり背が伸びず180センチで止まってしまったんで、バスケは諦めました」
ふーん。
何かちょっと、つかみどころのない奴やな。そう思った。
こういった簡単な取材を8人に対して行う。一番の目的は通り名を付けることなのだが、桑田にはバスケしかないように思えた。この時は。
私はバスケの知識がほとんどない。もう、浮かばないから「必殺!ダンクシュートリーチ」でもええかな? リーチする時にダンクシュートっぽくできへんか?
「それどないしたらいいんですか。叩きつけてええってことですかね。ウフッ、ウフフフフ!」
桑田は独特の笑い方をする。
ええよ、叩いたれ。私が言うと、桑田は「でも僕ダンクシュートできへんかったんですよ。あと5センチぐらいあったらいけたんですけど」と言う。
ええよ、もう、それでいこ。
そこで私の取材は終わって、カネポンこと金本晃「麻雀最強戦」実行委員長によるVTR撮影の方へ桑田は移動した。
スタジオで対局し、桑田は優勝してファイナル進出を決めた。その後、ファイナルでも快進撃を続け、5連勝で最強位となった。
だが、最後まで「ダンクシュートリーチ」が掛けられることはなかった。
【楼蘭でオドオドする最強位】
桑田が初めてテレビ対局のスタジオにやってきた日。まったく緊張しているようには見えなかった。
普段の彼を知っているわけではないが、予選で取材した時と比べて、変わったところはなかった。
別の卓を控室のテレビで見ながら「これはこないした方がええと思うけどなあ。ああ、そうするか。なるほどなあ。でもこっちの方がええと思うなあ」とブツブツ独り言を言っていた。
言っていることは論理的で正しいように思えたが、初めての最強戦で、テレビ対局で、しかも関西人(香川県出身だが今は大阪在住なので立派な関西人だ)にとってアウェイの東京で。肩の力を抜いて、自宅でテレビを見ているかのうように、ブツクサ言っていたのである。
こいつ、肝すわってんな。
そんな風に見えた。
ファイナル決勝。最後の最後に、ドラではない、嫌な方の3ソーをツモってテンパイしてしまった。
桑田は考えて、リーチと行った。
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