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麻雀ルール統一への道 ジェマ会長の来日

【ジェマさんの第一歩】

 初めてジェマさんに会ったのは10年以上前でした。飯田橋の喫茶店だったと記憶しています。
 私の友人で翻訳家のライアン・モリスさんと漫画家の片山まさゆきさんが仲介してくださって、当時のEMA(European Mahjong Association/欧州麻雀協会)のマーティン・レップさんとジェマさんとお会いすることになりました。
 マーティンさんは後にWRC(World Riichi Championship/リーチ麻雀世界選手権)を創設し、ジェマさんは現在、WRCの会長になられています。
 ライアンはともかく、なんで片山さんがいらっしゃったかというと、この時すでに海外の麻雀プレーヤーの中に片山ファンが多くいて、ヨーロッパでの大会パンフレットに片山作品のイラストを掲載したこともあったからなのです。
 こちらは日本プロ麻雀連盟の森山茂和会長と私が出席しました。
 この会のテーマは「日本式ルールの世界選手権を開催する」というものでしたが、正直、私は森山会長が難色を示すと思っていました。この当時、まだ海外の麻雀プレーヤーの数が少なかったからです。
 ところが、マーティンさんとジェマさんのお話を聞いて、森山会長は「素晴らしい」といきなり賛同されました。
 ちなみに、ジェマさん(イギリス人)とライアン(アメリカ人)は日本語がペラペラなので、マーティンさん(オランダ人)の英語をジェマさんが翻訳し、すっごい難しい専門用語とかはライアンが助太刀するという状況でした。片山さん(千葉)と私(兵庫)と森山さん(山口)は英語は本当にちょっとだけなので、聞き取れたフリをしてうなずいたりはしていました。
 そういう状況の中でも森山さんは理解が早くて、私は驚いていたのですが、実は以前ヨーロッパの大会に参加したことがあったのです。
 プロ連盟に所属するアメリカ人選手のジェンプロとガースプロが森山さんに欧州の日本式麻雀大会出場をオファーしたことがあったのでした。森山さんは実際に参加して現地の雰囲気なども見てきたから、話はそこそこ早かったのです。

左からガース、黒木、森山、ジェマ、ジェン、マーティン。飯田橋会談とは別のタイミングで撮られた写真。

 ジェマさんが「日本人のプロ選手にたくさんきてほしいのですが」と遠慮がちに言うと、森山さんは「何人ですか? 多すぎて迷惑じゃなければ40人とか50人ぐらいは何とかしますよ」とハッキリ言いました。
 ジェマさんは驚いていましたが、森山さんは「こういう素晴らしいことを海外の麻雀ファンが提案してくださっているのに、日本のプロ麻雀界が全面的に協力しないというのは考えられません。他団体さんにも協力を呼びかけますし、それでも少なかったら私が責任を持ってウチの選手たちを連れていきます」と言ったのでした。
 また「卓は何とか揃えたのですが、麻雀牌とマットのセットが足りません。どこかまとめて安く購入できるところをご紹介いただけませんか」というジェマさんの相談に対しては「いくつ必要ですか? 足りない分をプレゼントします」と言ったのでした。
 ジェマさんはさらに驚いたのか、目の下を指で拭きながら「本当に良いのですか?」と言い、日本人がするように、でも、少しぎこちなく頭を下げられました。
 さらに、プロ連盟が公認するインターネット麻雀サイト「ロン2(現・龍龍)」が協賛することも約束して、その日の話は終わりました。
 2014年の7月にパリで第1回リーチ麻雀世界選手権大会が行われました。2017年にはラスベガスで第2回大会が行われ、コロナによる中断を経て、2022年にはウィーンで第3回大会が開かれました。
 その間にもジェマさんは何度か来日されていますが、今回の訪日は、10年前のあの時よりも大きな意味を持っているのかもしれません。

【ルール統一へ向けて】

 2023年5月中旬、ジェマ会長がイギリスから来られました。
 2025年に東京で行われる第4回世界大会に向けて、日本の麻雀マスコミ各社へご挨拶に来られたのです。ご挨拶まわりには、初代世界チャンピオンの山井弘プロと、プロ連盟の競技部長代行として藤原隆弘プロが同行しました。
 東京での世界大会の詳細は決まっていませんが、リーチ麻雀の本場である日本での開催ですから、過去最大規模のものになることは間違いありません。
 ジェマ会長はご挨拶の際に「ルール統一」のお話もされました。「すべて、寸分の狂いもなく同じルールにしてくれ」という話ではなく「統一の意思をお互いに見せよう」という提案でした。
 もしよければ私が過去に書いた記事をご覧ください。

 要点だけを抜粋すると、以下の通りです。

《この「世界」ルールを基にして、各大会の「こだわり」の部分だけを明記すればいいのではないかと、そう考えたわけです。
 たとえば「モンド杯」であれば、以下のようにすれば良いのです。

・25,000点持ちの30,000点返し
・順位点は1位+20/2位+10/3位-10/4位-20
※その他はWRC(世界選手権)ルールに準ずる

 すでに日本の麻雀ルールの「根幹」は統一されています。
 でも「最強戦ルール」とか「Mリーグルール」と銘打ってしまうことで「違う」という印象になります。
 それを「世界選手権ルール」という名称で統一し「ただし順位点は10-30です」とすることで「統一感」が生まれるというわけです。
 「感」というと胡散臭いかもしれませんが、他の競技もほとんどが同じ状態になっています。
 「麻雀のルールはバラバラなのがおかしい」と指摘されることが多いのですが、野球だってサッカーだって、アマとプロは違うルールですし、アマの中でも男女や年齢によって違うルールを採用します。地域の特有のルールもありますし、グラウンドごとのローカル・ルールだってあるのです。
 それを「六大学ルール」とか「選抜高校野球ルール」と言わず「野球のルール」としているから「バラバラなのがおかしい」という指摘も聞こえてこないのだと私は思います。

【統一するからこそ変更が可能となる】

 「ルール統一に賛同する」ことによる最大のメリットは「異なる細部が徐々に一緒になっていく」ことと「全体がより合理的になる」ことです。

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