萩原聖人さんプロ連盟入りの舞台裏【前編】(黒木真生)
【暗躍】
萩原聖人さんがMリーグ開幕に合わせて日本プロ麻雀連盟に入った際、私が「暗躍」したという噂があったようだが、実際に私は「暗躍」した。いや、私はそのタイミングだけでなく、20年ぐらい前から「暗躍」し続けてきた。ずっと、ことあるごとに、萩原さんに連盟入りを打診してきたのである。それを「暗躍」というのが正しいかどうかはわからないが。
萩原さんの本業はご存知の通り俳優である。所属するのはアルファエージェンシーという事務所で、豊川悦司、余貴美子、柄本佑、中村ゆり、平田満という顔ぶれ。本当にガチで「役者!」というラインナップの、硬派な事務所さんなのである。
写真集や歌などはほとんど出さないし、バラエティ番組に出演しているところも、ほぼ見たことがない。私などが語るのはおかしいので断言はしないが、おそらく、その手の話は受けないのだろう。
私が萩原さんと初めて会ったのは約25年前。そんな凄い事務所の「エース格」だった萩原さんは「近代麻雀」や「われめDEポン」によく出ていた。
この時は麻雀を打たせていただいたのだが、現在とは違い、萩原さんは典型的な「感覚派」だった。
ペンチャンだろうがカンチャンだろうが「アガれる」と思ったらリーチを掛け、そして本当にアガっていた。「近代麻雀」では「愚形の覇者」と呼ばれていた。
おそらくだが、捨て牌相などを見て、いわゆる愚形と呼ばれる待ちでも「山に残っていそうだ」と感じたらリーチしていたのだろう。
その部分はもちろん、現在も生かされているのだが、今はプラスアルファで「点数状況」や「着順」などを意識して押し引きを決めることもある。
これはある時期から若手プロたちと数多く麻雀を打った結果だと思われる。萩原さんはどん欲なので「それが正しいのかどうか、それで勝てるのかどうか」は別として、まずは知りたかったのだと思う。
ある時期から麻雀の質問が完全に「プロ雀士」のようになったし、ただし会話の最後には「でも俺はそういう麻雀は打ちたくないな」と「本当の意味でのプロ雀士」のように結論付けるのだった。
私がちょっと困ったのは、人の手出し、ツモ切りを全部覚え始めたことである。前は要所要所だったのが、今はほとんど全部をチェックしている。そして、私がちょっと気を抜いて牌の切り順を間違えると、流局時などに指摘される。
「こっちの方が安全なのに、なぜこっちを先に捨てたの?」
とか言われるのだ。
いやすみません。ちょっと間違えて。
「しっかりしてよ。練習にならないじゃん」
Mリーグが始まる何年も前からこの調子だった。
何でもとにかく一生懸命なのである。自分にも、一緒にやる仲間にも手抜きは許さない。
萩原さんは子供の頃から芸能界という生き馬の目を抜くような厳しい世界で育ってきたから当然なのかもしれないが、我々のような「人生ドロップアウト現実逃避組」には、少々しんどい部分があった。
そのしんどさに耐え切れず、20数年前、私は萩原さんに対してあり得ないような不義理をした。
【モンド杯の放送打ち切り】
1997年からプロ雀士の対局番組を放送し続けているCSの「MONDOTV」というチャンネルがあるが、実は1999年の「第3回モンド21杯」で打ち切りが決まっていた。
その時に誰も何もしなければ、おそらく麻雀界の歴史は大きく変わっていただろう。もしかしたら最強戦もなくなっており、Mリーグは発足していなかったかもしれない。それぐらい、振り返ってみると「おおごと」だったと思う。
たまたま、何かの打ち合わせの場で、馬場裕一さんが制作会社の社長から打ち切りの話を聞いた。
馬場さんは「麻雀企画集団バビロン」という麻雀ライター集団を結成したばかりで、その話を一種のチャンスと捉えた。
「若手プロだけの番組にしてはどうでしょう? まだどこにも出ていないような若手なら出演料は格安で大丈夫でしょうから、低予算で作れます。賞金などはバビロンで負担します」
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