Mリーグ最終戦の最終局はどうするべきか【前編】(文・黒木真生)
【Mリーグ機構からの発表の意味】
昨年のMリーグ最終戦は「EX風林火山」がダントツ状態で、その後を「KADOKAWAサクラナイツ」と「渋谷ABEMAS」が追いかけていた。4位の「赤坂ドリブンズ」は優勝の可能性がほとんどないどころか3位になるのも難しいという状況だった。
こういう場合、4位チームはどう打ったらいいのか難しい。
①徹頭徹尾、目立たないように「黒子打法」を貫く。
②できるだけ普通に打って、最後の最後、優勝の瞬間だけ大人しく「黒子打法」に徹する。
③最後までその局ごとのベストを尽くす。
競技姿勢としては上記の3パターンがあるが、ドリブンズの村上淳プロは③を選んだ。しかも、かなり徹底して③の姿勢をブレさせなかった。
ラス前には風林火山の勝又健志プロに差し込みまでして局を進めた。
オーラスは勝又が親であり、ノーテンで優勝なので1局だけの勝負となる。
この時点で優勝はほぼ勝又の風林火山で決まっており、サクラナイツ内川幸太郎とABEMAS多井隆晴の2位争いに注目が集まっていた。
何せMリーグの賞金は2位2,000万円、3位1,000万円と大きい。その差は1,000万円なのだが、この1,000万円が、たった2,000点のアガリでどちらのものになるか決まる、という状況だったのだ。
だが、最後もアガったのは村上プロだった。
これが物議をかもした。
「半年以上ずっと応援してきたのに、最後の最後に意味のないアガリをされた」と憤る人もいた。
一方で「最後までちゃんと勝つために打たないと、特定のチームに有利になるかもしれないから不公平。競技者としては村上プロのように打つのが公平」という意見もあった。
そして9月28日にMリーグ機構から発表されたのがこちらである。
▼競技姿勢の方針
Mリーグは、チームにとっての最大の目標であるシーズン優勝、一つでも上の順位を勝ち取るために、チームと選手が一丸となって全力で競技に臨む姿勢を重視する。
Mリーグは、チームのシーズンの順位はもちろんのこと、累年の成績・ポイント(累積ポイント)も未来永劫残っていく価値と考える。
Mリーグは、頭脳スポーツとして、チームの順位を向上させることが難しくなった場合においても、チームポイントを伸ばすために、全力で競技に臨む姿勢を尊重する。
これを受けて、また賛否両論、色々な意見がネット上に書きこまれ、議論になってもいる。
【何をしても良いというのが結論】
これは要するに「何をしてもいいですよ」という意味である。
極端な話、最終戦オーラスに「1,300・2,600点をアガれば優勝だけど、この手は1,000点にしかならない。累積の成績やポイントも大切だから1,000点でアガろう」というプレーをしても仕方がないということになる。
それが本当に「仕方がない」とは誰も思っていないとは思う。だが、Mリーグ機構がそういう発表をしたのであれば、そうしなければならない理由があったのだ。
その理由について述べる前に、まずは麻雀界の過去の話をしたい。
私が日本プロ麻雀連盟に入った頃、タイトル戦の決勝オーラスに、ぜんぜん関係ない人がアガって終了することは珍しくなかったし、特に問題にもなっていなかった。
それは当然「優勝争いの邪魔」ではなかったし「その人の都合」もあったからである。
「その人の都合」とは「賞金額」である。かつては優勝から4位まで、賞金が違っていた。だから4位の人は3位を狙うし、2位の人がその立場を守るため優勝を諦めることもあった。
だから3位が3位のままアガっても「ごめんね」で済む場合も多かったのである。
つまり、昔のプロは「賞金」のために戦っていた。だからこれで問題はなかった。
ところが、映像対局の時代になって事情が変わってくる。プロは「ファンの評価」も大切にしなければならなくなってきた。要するに他ジャンルのような「ちゃんと観客がいるプロの世界」に少し近づいてきたわけである。
そうなると、従来のシステムではかなりまずいことが起こり得る。
「これアガったら賞金は3位の30万円から2位の50万円に上がるけど、優勝争いしているから我慢するしかないな」という真面目な人がいて、テンパイだけ維持してアガリを見逃していたら、4位の人が「ツモ!」とアガってしまった。これでその真面目な人は4位になり、賞金は30万円から10万円に減った。
それでもその真面目な人は一部のファンから「よっ!真面目!」と評価されるだろう。ただ、それが20万円以上の価値があるのかどうか、誰にもわからない。
逆に4位から3位になるアガリをした人は「オイオイ邪魔すんなよ」と怒られ「さもしいやつ」という評価になるだろうが、30万円を手にすることができた。その評価が差額の20万円と比べてどうなのか、これまた誰にも分からない。
大会運営者としては、こういうことを放置して「あとは野となれ山となれ」というやり方もある。選手の自主性に任せますという方法だ。
だが「その方法で何とかなるほど所属選手たちが大人じゃない」ことも大会運営者はよく知っている。
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