人はなぜチョンボをするのか
【上達スピードが早すぎる】
4月8日の麻雀最強戦「最強&インフルエンサー決戦」の決勝戦でチョンボがあった。
中田花奈プロが、
このテンパイから一萬でロンアガリしてしまったのだ。当然ながらこれは役がないのでチョンボとなる。
また、3月にあった桜蕾戦でも似たようなことがあった。役牌後ヅケのつもりで仕掛けた結果、その役牌が雀頭でリャンメンのテンパイとなったのだが、そのリャンメン待ちをツモってアガってしまったのである。これももちろん、役がないのでチョンボとなる。
これだけを聞くと「なんでそんなチョンボするの?」と思われるかもしれないが、私には理由が分かる。
原因は間違いなく「実戦の打荘数不足による脳のスタミナ切れ」だ。
中田さんにしても、桜蕾戦でチョンボをした人にしても、普段から役の認識が怪しというわけではない。さすがにそういう人はプロテストに合格できないので、ハッキリと「役の認識があやふやだということはない」と断言しておく。
なのになぜ、肝心なところでチョンボをしてしまうかというと、効率的に麻雀を学習できる環境があることによって、実戦で「無駄に多く打つ」というトレーニング方法が軽視されているからだ。
私もプロテストの委員会に入っているので分かるのだが、最近の受験者は、明らかに昔よりも麻雀の学習スピードが早い。筆記試験や実戦での手順などを見てから雀歴を聞くと「え? まだそんななの?」というぐらいに短い人が多い。
一方で、手つきがおぼつかない姿を見ると雀歴の短さに納得する。配牌をとるスピードも遅い。配牌を片手で立てられない。理牌も遅い。打牌も遅い。
私がプロテストを受けた時は配牌を片手で立てながら相手の顔を見て「ドラ表示牌チラ見して自分の手と見比べたりしてないかなー」とチェックするぐらいの余裕はあった。親番なら理牌などする前に、配牌が完了した瞬間第1打を切った。それは私が学生時代に毎日半荘15回以上を打ち、年に1日か2日しか「ノー麻雀デー」がないという日々を4年間繰り返したからである。少なく見積もっても2万半荘以上は打っていた。これは別に自慢ではなく、当時のプロテスト受験者というものは、それぐらい「リアル麻雀廃人」たちの集まりだったのだ。
にもかかわらず、当時の私は今のテスト生よりも麻雀戦術の知識がなかった。むやみに打ち続けていただけで「学習」という作業をほとんどしなかったからである。
最初の千半荘ぐらいは(70符や90符などのレアケースの)点数計算ができない状態でやっていたし、①③④⑤⑤⑥の形から平気で①を切って、②を引いてから「あ!」というようなヘボ麻雀を打っていた。これは私の頭が悪いからかもしれないが、実際にそうだったのである。
でも、今の受験生たちは、普段の打荘数の欄に「月に20回ぐらい」などと書いてくる。私たちからすると「それ1日で打てるやん」である。その回数と雀歴から計算すると、まだ千半荘も打っていないはずなのだが、ちゃんと点数計算はできるし、牌効率のミスもしない。
私たちの頃と違ってインターネット上に麻雀セオリーがまとめられているし、基本的な学習に役立つ麻雀戦術本も多数出版されている。私が無駄だらけの麻雀を打ち続け、大学の単位と引き換えに4年間かけて得た知識を、今の子たちはネット検索で手に入れてしまうのだ。私たちがゲーム代だけで600万円以上を支払って得てきたものが、たった数千円で得られてしまう。そんな時代になったのだ。
あとはインターネット麻雀で自分の脳に定着させていけばいい。ほどほどにネット麻雀を打って、週に1日ぐらいはリアルで麻雀牌に触る。プロになりたければ過去問を解けばいい。
チンイツの待ち当てや牌効率も、本を買って少し勉強すればできるようになる。タイトル戦最終局の条件計算問題も、要するに算数でしかない。
それぐらいのトレーニング方法でも、地頭が良い人なら十分プロテストに合格できてしまうし、試合で勝つことも可能だ。
実際に中田さんも、桜蕾戦でチョンボをしちゃった人も、テストの点数は非常に良かったのである。
【脳のスタミナ切れ】
麻雀上達がショートカットできるのは非常に良いことだ。大学を中退したり会社を辞めることなくプロ雀士になれる。
でも、打荘数は多ければ多いほど良いのもまた事実だ。
文字情報で学習したものは、言語化しなければ生かせない。だが、身体で覚えたものは無意識にこなせるようになる。
大学生の頃、徹夜麻雀ばかりしていて、つい対局中に寝てしまった。ハっと目が醒めるとすでに6巡目で、中をツモ切るところだった。配牌をとった記憶もないのだが、目の前の河には5枚の牌が捨ててある。いつもより綺麗に並んでおらず、牌と牌の隙間があいているが、私が自分で切ったのだろう。
手牌と捨て牌を見比べてみると、①③④とあるのに①を切っておらず字牌が並べられているが、デタラメに切ったわけでもなさそうだ。
私は笑ってしまった。寝ながら麻雀を打てるなんて、すごい能力を得たものだと思ったのだ。
対面の人に「ボク、寝てましたよネ」と聞くと「いやー、打ってたけど、確かにちょっと、いつもより打つのが遅いなーって思ってたよ」と言っていた。
それぐらいアホみたいに麻雀を打つような人は、いちいち「何待ち」とか「これは役がない」とか「これは何点」とか考えない。勝手に口から点数が出てくるし、アタリ牌が出たら勝手に手牌が倒れている。そういう人なら、役なしのチョンボをすることはないだろう。
もちろん、文字情報で覚えた人だって、そんなチョンボをすることは滅多にない。
だが「考える」ということは脳がカロリーを消費する。そういった基本的なことだけでなく、点数状況、相手の捨て牌の手出しツモ切りを暗記する行為、相手の鳴きの意味、相手の手の進行具合。そういったことを1打ごとに考えていたら、どんどん脳のスタミナは消費される。
アメリカに住んで毎日英語を喋っている人は、1時間程度の英会話で疲れることはないだろう。
だが、日本の大学の受験英語だけをやった人は、それがたとえ偏差値70超えの人だったとしても、ネイティブと1時間話すことになったら、多少は脳が疲れるはずだ。
似たような現象が麻雀でも起こる。
中田さんは芸能人だから、カメラが回っているところでは明るく振舞い、堂々としていた。
だが、バックヤードでは1人の新人女性プロの顔をしていた。緊張もするし、不安もある。勝ちたいし、番組も盛り上げたい。
普段の対局よりも、気づかない内に脳がスタミナ切れを起こし始めていたと私は思う。
中田さんが言うように一萬を二萬に見間違えたのかもしれないが、いずれにせよ、脳が起こしたエラーだろう。
どのような勘違いをしたにせよ、目が悪いわけでも口が悪いわけでもない。脳にエネルギーが足りなくなっただけなのだ。
【多く打ちすぎて起きるチョンボ】
逆に、打荘数が多い人ならではのチョンボもある。
私が昔、旅打ちの時にやってしまったのは④⑦待ちなのに③で「ツモ」と言って手牌を開けてしまったチョンボだ。
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