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ケネス徳田伝説③ 親切と言葉の暴力

【カード顔面投げつけ事件】

 かなり前のことだが、特急列車で長距離を移動することがあり、徳田と2人で時間つぶしにポーカーをした。どんなルールだったか細かいことは忘れたが、とにかく、私がずっとブタでレイズしまくって、徳田はオリ続けて私がチップをせしめていた。
 数回連続で同じような展開が続き、今度は私がまたレイズしたら、徳田がコールした。私が1ペアを見せたら、徳田は札を開きながら「こっちは2ペアなんだよバーカ!」と言って私の顔面にカードを投げつけた。
 イラっとした私は軽く正拳突きのように徳田のみぞおちにドン、とこぶしを入れたら、徳田は「ウウッ」と言ってカードを拾っていた。
 2人は何もなかったようにポーカーを続行した。
 最終的に徳田が勝った。

 徳田のことをひどい奴だと思うかもしれないが、勝負事でアツくなるとそうなるだけで、根は優しい。
 夕刊フジ杯の現場で出されるお弁当を、病気で来られなくなった馬場さんのところに1日2回、届けてやっている。夏目坂スタジオから歩いて片道10分ぐらいのところに馬場さんは住んでいるのだが、往復20分が2回で合計40分だから、そこそこ大変だ。
 
 徳田は独身時代、大久保に一軒家を借りて住んでいた。高校時代の友人2人と徳田の3名で金を出しあって、今で言うシェアハウスのようなことをやっていたわけだ。
 そこに、わけあって住処を失った知り合いの編集者が転がり込んできた。普通ならそういう人を家には上げないものだが、徳田は住ませてやった。
 しばらくして、その人は交際していた女性とトラブルをおこし警察沙汰になった。結局逮捕されてしまい、徳田の家が家宅捜査の対象となった。居候のせいで、徳田の家に黄色い「KEEP OUT」と書かれたテープが張られた。

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 普通、大迷惑だと怒るべきところだが、徳田は全然気にしない。
 刑事さんから「関係ないのにすみませんね」と缶コーヒーをもらったと嬉しそうに話していた。
 留置所にも刑務所にも面会に行くなど、徳田はそういう人を見放さない。
 だが、まったく悪くない私の顔面にトランプを投げつけることはする。
 そういう人格なのだ。

【敬称略の男】

 そういう性格だから、周囲も徳田にたいしては親愛の情と怒りの感情を同時にぶつけ、結果「呼び捨て」になる。
 普通、仕事関係で知り合った人からは「さん」づけか、フランクな人でも「くん」づけだ。テレビ業界の人は「ちゃん」づけのケースもあるが、徳田だけは「とくだ!」である。
 
 あるテレビ制作会社の社長が麻雀を打ちながら「私はプロ雀士を尊敬しているので、どんな若手でも年下でも、絶対に○○プロと呼ぶのですが、たった1人だけ呼び捨てさせてもらいます」と言った。
 一緒に麻雀を打っていた徳田が「へー」と言うと、その人は「お前のことだよ、とくだ!」とイライラしながら言った。
 徳田は意に介さず「そういえばお子さん元気ですか?」と聞くと、その社長は急に表情を和らげ「かわいいよー。本当、かわいいさかりだよー」と言った。間髪入れず徳田が「ヒステリー起こしてないですか」と聞くと、社長は「起こしてないよ!」とブチ切れた。
 徳田は笑いながら「ほら、そういう風に、ヒステリー」と指をさし「指さすなよ!」と、その人はまた怒った。
 
 麻雀ゲームソフトを販売していた社長のNさんも、私のことは「黒木さん」と呼んでくれていたのに、徳田のことはなぜか「とくだ」と呼び捨てだった。
 ほかにも、仕事関係で徳田のことだけ「とくだ!」と呼ぶ人は多いのだが、一番驚いたのは警察官に「なんだ、徳田か」と言われたことだった。
 
 新宿通りを四ツ谷方面に向かって徳田の車で走っていると、後ろからきたパトカーに止められた。
 で、近づいてきたお巡りさんが徳田の顔を見るなり「なんだ、徳田じゃないか」と言ったのだ。
 馬場さんは「え? 知り合いなの?」と驚いていたが、徳田は「さっき歌舞伎町で職務質問受けた警官です」と言っていた。
 いや、普通、日本の警察官は一般市民に対し、安易に呼び捨てなどしないはずなのだが、なぜそうなったのか。馬場さんは「なんで呼び捨てされるんだよ」と笑っていたが、徳田はしょっちゅう職務質問を受けるから嫌気がさしているのか、かなりムスっとしていた。

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