プロ雀士スーパースター列伝 馬場裕一 苦闘編
【15分の決断】
旅打ちから東京に戻ってからしばらくはサウナやカプセルホテルに泊まっていた。
いつ「麻雀企画集団バビロン」に入れてもらえるのだろうか。そんなことを考えていたのだが、これは完全な「甘え」だった。
私より若い世代は、親や教師から色々なことをやってもらいすぎるから「何でも自分から動く」という発想がない。
今、オッサンになって様々な経験をしたから「そんなの自分から『入れてください』と頭を下げるのがスジだろう」と思うのだが、当時の私は甘えていた。それは客観的に見たら傲慢でもあるだろう。
今の若手プロたちも、遠慮しているつもりなのだろうが、これもある意味で傲慢なのだ。グイグイ来る人たちは、一見あつかましくも思えるが、実はそちらの方が謙虚だともいえる。
バビロン総帥の馬場裕一さんも、自分から「入れてください」と言ってこない私に対してイライラしたと思う。
ついに馬場さんが私を高田馬場のさかえ通りにあった喫茶店「ルノアール」に呼び出した。
「これから麻雀プロとしてどうするつもりなの?」
漠然としたことを聞かれたが、実は自分でも迷っていた。
東京に住んで、このまま雑誌の仕事を続けるのか、それとも神戸に帰って税理士試験の続きをやるか。
試験は「簿記論」だけ合格していたが、他の4科目の勉強をするのはしんどそうだった。
同じしんどいことをやるなら、雑誌の仕事の方が楽しい。
そんな話をしたのだが、馬場さんは「そういう途中の話をされても分かんないよ。決めるのは君なんだから」と言った。
突き放されたように感じたが、いま思うと、馬場さんが初めて私のことを「大人」として扱ってくれた人かもしれない。
「なに、自信がないの?」
自信などあるはずがなかった。
「すでに連載持ってるんだし、やれてるってことは、これからもやれるじゃん。やれば良いだけじゃん」
私が「ビクトリー麻雀」という雑誌で仕事がもらえていたのは、コネや温情だと思っていた。
「バカだなあ。コネや温情でチャンスや金をくれる人はいても、一度やらせてみてダメだったら、そこで終わりだよ。マスコミの世界はそんなに甘くないって。実力や見どころがなかったら即切られて終わりだよ。あまり甘く見ちゃダメ。失敗するよ」
自信がないというのは、謙虚なように見えて、その実は業界をバカにしていることにもなる。
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