
「八方美人には理由があります」もめない男、平澤元気は静かに語る
平澤元気さんは、最高位戦日本プロ麻雀協会のプロ。
最高位戦に入る前は全日本麻雀協会というプロ団体に所属していた。マイナビ出版などから20冊以上の戦術本を出版していて、YouTubeでも麻雀に関することをいろいろ発信している。天鳳は最高十段、最高位戦ではこのたびB2に昇級した。
この異色のプロにお話を伺った。
ネットで人ともめない3つの理由
麻雀の世界は、しょっちゅう細かいもめごとが起こる。このnote麻雀ルポの記事に関連しても、いろんなご意見をいただいたり、ツイッターでのやり取りがある。それを「炎上」と呼ぶ人もいるが、とにかく麻雀の世界はモノ申したい人が多い。
麻雀が知的なゲームである以上、数値化・言語化が頻繁に行われるのは当然のことだろう。
しかし平澤元気さんはもめない。
これだけいろいろなことを発信していて、人に叩かれたり文句を言われたりすることもあると思うのだが、ツイッターのタイムラインで平澤さんが炎上しているのは、ついぞ見たことがない。
むしろ、いつもいいことを言っている印象だ。よく言えば穏やかで平和主義、悪く言えば八方美人で事なかれ主義。なぜ平澤さんはこういう人のままでいられるのだろうか?
「僕が麻雀で人ともめない理由は、3つあります」
明確な理由があったのか。それは是非聞きたい。
「1つ目は、打牌批判は価値観を共有している人たちの間でしか意味がないと思うからです。
僕が昔、フリー雀荘のZOOで働いていた時、一人のおじいさんがやって来ました。その人は『俺は昔、阿佐田哲也と打ったことがあるんだ』と自慢していました。僕がそのおじいさんと本走で同卓した時、334から3を切ってリーチをかけて2をツモアガったら、僕がアガった手を見て『よくそんな恥ずかしい待ちで曲げられるな』と言ったんです。
その時、僕は感動しました。
それこそ、麻雀の神様と呼ばれた阿佐田哲也さんのスピリットを持った生身の人だったのです!また、同時に納得もしました。阿佐田哲也さんといえば迷彩が有名。その麻雀を「正解」とする人にとっては、334からテンパイ時に3を切るのは「ヘタクソ」となるのが自然です。
本当の意味での麻雀の正解なんかわかりません。このおじいさんに対して、牌効率や期待値の話をしても意味がないのです。どれだけきちんと説明しても伝わるかどうかわからないし、それは自分としても意味がないことです。結局、何を切るかという打牌批判は、何をもって正解とするかということに対する価値観を共有している人たちどうしでしか意味がないのです」
というわけで平澤さんは、誰が何を切ったことがどうだこうだというもめごとには参加しない。あと2つの理由は?
「2つ目は、<どちらの気持ちも両方わかる>からです」
ただし、平澤さんが言う両方とは、「Aを切るかBを切るか」の両方ではなく、「何を切るかを言いたい」と「その話を聞きたくない」の両方である、
「従来からの麻雀ファンやプロ、つまり麻雀を打つのが好きで頑張ってきた人達には『正しい牌を切りたい』『正しい牌を切ってほしい』『全体のレベルが上がってほしい』という気持ちがあると思います。ごく当たり前のことですよね。
ところが、最近になってMリーグやVチューバーで麻雀を知ってファンになった人たちには、そういう気持ちを持たない人もいます。むしろ『麻雀が上手な人どうしが何切るや手順のことでもめているのを見るのがイヤだ』という人もいます。これもわかります。
現在は麻雀人口を増やすために「初心者やライト層を守ろう」という雰囲気が強く、もちろんそれは正しいと思います。でもそうなると麻雀の議論をしたい人達の場がなくなってしまいます。初心者が快適に麻雀を楽しめる世界にするのと同様に、議論をしたい人の場を守ることも、僕は必要だと思っています。
麻雀の世界に落ちてくる金額の多寡で言えば、MリーグやVチューバ―きっかけでファンになった初心者のほうが、従来のファンよりも空前絶後に多いです。数年前に僕の友人が麻雀大会をしたとき、4000円の参加費は高いと言われましたが、今や1万円を超える麻雀のイベントがたくさんあります。
100人で平和に暮らしていたムラに(現状の麻雀のムラが平和とは限りませんが)、1000人の外国人が移住してきて、全員に選挙権がある状態を想像してみてください。数から言えばそんな感覚です。
そうなると文化や習慣、決め事、いろんなことが変わるのは当然のことです。そこは最後には多数決の原理だけになりますけど、本当は元々いた人も新しくきた人もどちらも楽しいのが理想じゃないですか。
この状況で、僕は両方の気持ちがわかるので、安易に自分の考えを言うことはできないです」
3つ目は?
ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?