「麻雀には過程しかねえ」の真実【文・友添敏之】
嬉しい野次の主
「麻雀には過程しかねえ!」
大声で叫ぶ男がいた。
立食形式で食事とお酒とおしゃべりを楽しんでいた人々は、突然の出来事に騒然とした。
名だたる麻雀プロが数百人集まったホテルニューオータニのパーティ会場、2014年の初春だったその日に、年に一度の最高位戦日本プロ麻雀協会表彰パーティが開催されていた。
金子さん、新津さんなど最高位戦のレジェンドは勿論、近藤さんや村上さん土田さんなどスター選手は全員参加していた。
そして、他団体からも、連盟の森山会長、協会の五十嵐代表、麻将連合の井出代表、RMUの多井代表と各団体のトップも全員参加していた。
参加者はみんな着飾っていた。
楽しく華やかなパーティ。
そこで突然、知らん男が壇上で大声を出した。騒然としない方がおかしい。
声の主は勿論俺だ。これを書いてる本人友添です。
コロナ渦で数年お休みしていたけど、最高位戦では期末に年一度、タイトルの表彰式という形でパーティが行われる。
芸能界からの参加者もいる。華やかな催しだ。
なぜ僕がその壇上にいたのかというと、第38期の新人王が僕だったからだ。
その年の夏にプロデビューした僕は関西本部の第一期生として関西C3リーグで優勝。
関西からは優勝者だけが参加できる新人王戦本選に進出し、ベスト16から勝ち上がってそのまま優勝した。
35歳からのプロデビューということでかなり遅咲きやけど、
「俺の実力なら当然の結果やなフフン♪」
と調子に乗っていた。
そこに朗報が。なんと、タイトル獲得者はパーティで表彰されるという。さらに、そこで数分のスピーチが許されるという。
最高じゃないか!
地方で誰にも知られずにデビューした自分が、たくさんの人に知ってもらえる大チャンスだ。自分を最大限に表現しつつ、みんなの記憶に残るパフォーマンスをしなきゃもったいないということで、僕は大いに考えた。
その結果が冒頭のセリフと、マイクを使わずにまず叫ぶという表現方法だった。
そしてスピーチではこう続けた。
「僕はハッキリ言って麻雀が強い。この会場にいる中で一番強いし、恐らく日本で一番強いだろう。
だから皆さん覚悟してください。でも同時に安心してください。
プロには色んな形がある。一番人気があるプロ。一番教えるのが上手いプロ。一番カッコ良いプロ可愛いプロ。一番実況解説が上手いプロ。
色んなプロがいるべきだし、どんなジャンルでも良いからプロとして一番であることを目指して頑張ってください。
僕は打つのが日本一速い、さらに麻雀プロの中では恐らく一番お洒落。そして強い。
これから僕はガンガン活躍するし皆さんはそれに敵わないかもしれないけど、それぞれの“一番”を目指して頑張ってください」
だいたいこんなことを言った。
思い出しながらコレ打ってるけど、ハッキリと言える。恐ろしい新人だ。
話している最中も会場がザワザワしているのは感じていた。しかしそんな中、「よ!いいじゃないか!もっと言え!」と明るめのトーンで野次を飛ばしている人がいた。
それは森山会長だった。
俺は思った。「おお、麻雀界にもわかってる人がいるやないか。」と。
当時はプロ業界のことをほとんど知らんかったから、森山さんのことも存じ上げなかった。ただ、背丈も大きく貫禄ある人が若手の大口に寛容なのはかっこええなと思ったのだ。
やろうと思ったことをやり切った僕は満足して舞台を降りた。
RMUの代表も食いつく
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