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MVP獲得記念コラム 鈴木優は門前型? 副露型? 頂を目指す青白き炎  文・沖中祐也

映ってはいけないワタシ

それは草木も眠る丑三つ時。
優は1つのコメントに戦慄していた。

「左の人は誰ですか?」

モニターに映ってはいけないものが映ってしまったのか。
ビビリの優は「ちょっと、ホントにそれだけはやめて!」と慌てふためく。

なんのことはない。

私のことである。

私・沖中祐也はこの2年間、アシスタントとしてYouTube上で公開されている優の牌譜検討をサポートしてきた。
近代麻雀に連載されているコラム「恐れ知らず」の取材も兼ねてのお手伝いだったのだが、回を重ねることに優の思考はもちろん、対局に望む姿勢から麻雀に対する考え方まで、非常に自分の糧になっていることに気付いたのだ。

今シーズン、見事MVPを取るほどの活躍を果たした優は、我々凡百の麻雀プロと何が違うのか。
ずっと近くで見てきた私が分析していく。

美談では終わらせない

優が開幕前から「今シーズンはMVPを獲る」と宣言していた。スタートにもたつき数ヶ月泣かず飛ばずの成績だった時期も、ずっと自分に言い聞かせるようにMVPを獲ると呟いていたのだ。
そして12月にMリーグ記録の5連勝を達成。ランキング首位に躍り出て、チームメイトの瑞原明奈や風林火山・勝又とのデッドヒートを制して見事MVPを獲得した。

 宣言通りMVPを獲るなんてまさに有言実行…すごい…抱かれたい…というような美談で終わらせてもよいのだが、そう簡単な話ではない。私はひねくれ者なのである。
 なぜなら「絶対にMVPを獲る」という宣言は、麻雀という不確定要素の多いゲーム性においては意味のない言葉だし、ひいてはファンに対する裏切りに繋がるかもしれないと私は考えているからだ。
勝てるかどうか分からないのに「絶対勝つ」と宣言することに果たしてどれほどの意味があるのだろうか。勝つ確率が0.1%でも上がるのであれば良いが、むしろ勝利宣言することによってプレッシャーが掛かったり感情が揺れたりして判断に悪影響を及ぼしかねない。
肩に力が入り、過剰に押したり逆に怯えたりしてしまうのだ。
だから、麻雀を打ち込んだ人ほど「絶対に勝ちます」とは言わず「ベストを尽くします」とか「後悔のないように打ちます」というような無難な言葉でお茶を濁しがちなのである。
 それでも優は大事な対局を前に「絶対に勝つ」と宣言することが多い。優も麻雀が思うようにいかないゲームであることは重々身に滲みてわかっているはずなのに、なぜだろうか。

「Mリーガー1年生を経験して、成績こそ振るわなかったもののこの舞台で活躍できる手応えを感じていました。
Piratesのファン。ひいては全国から僕のことを応援してくださる人に対して鈴木優は通用すると。いつの日かは退くMリーガーでいた証である記録を残したいと。その2つの観点からシーズン前にMVP宣言をしました!
言霊という言葉もありますが、自分自身が自信を持てないのに誰がそれを信じて応援し続けられるのか。
自分にプレッシャーを与えるためにも目標として掲げました!」

 太字の部分にハッとした。
 誰が「負けても仕方ないよね」と言っている人を応援したくなるのか。

「応援してくれる人より先に諦めてはいけない」
 これはかつての教え子である魚谷侑未の言葉だが、そこにも優イズムが受け継がれていることがわかる。
 偶然性の高い麻雀だからこそ、自らを鼓舞し、パフォーマンスを最大化して戦う必要があると優は考えている。
 私は麻雀の持つ偶然性という険しい壁に恐れをなして、どこか「負けても仕方ない」という言い訳を用意したかっただけなのかもしれない。
 

優の持つ二面性

 次の牌姿を見てもらいたい。

 対面から8mが打たれた場面。みなさんはポンするだろうか?

 タンヤオに赤があり、打点はそこそこ。シンプルにポンする人の方が多いとは思うが、Mリーグという舞台は1つ副露するとなかなか次が鳴かせてもらえない。親ならばなおさらである。雀頭がないし、スルーしてリーチを目指す選択も有力と言える。
 
 「ポン」

 しかし優は鳴いた。
「ドラが中なので、ポンすることにより中やダブ東を切りづらくさせ、相手の進行を遅らせる効果が大きいと感じました。最低5800点と打点もありますしね」

 結果は終盤にテンパイが入るも、1人テンパイで流局。

 優の狙い通り、中を持った他家が受けに回らざるを得なくなっている。
 8mをポンしなかったら、相手がイーシャンテンなったくらいで中が切られ、他家のアガリになっていたかもしれない。

 もう一つ例を見てみよう。

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