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女流プロねっとり観戦記①12月3日(黒沢咲)【文・千嶋辰治】

自己紹介(飛ばしても可)

今日の昼間、滅多に鳴らない私のスマホの着信音が鳴った。

電話の主は、近代麻雀の金本編集長。

「あー、どうも。金本です。ご無沙汰してます~。」

金本編集長とは、昨年の麻雀最強戦アマチュア最強位決定戦でお会いして、同い年ということもあって色々お話をさせていただきました。

そのご縁もあって、先日、北海道最強位決定戦の観戦記を書かせていただくことになり、キンマwebに記事を載せていただいたところ。

「noteでMリーグの観戦記を書いてらっしゃいますよね?あるテーマで、ウチのnoteに記事を書いてみませんか?」

と勧めていただき、早速本日から観戦記を扱っていただくことになりました。

が、観戦記を書くに当たって、2点ばかり気になることが。

一つは、「記事を書いてみませんか?」の後に金本さんが、
「炎上するかもしれませんが(笑)」

と、どこかで聞いたことのあるフレーズ。

いや、中野の某公園で突然何かやるわけではないので大丈夫でしょ?

とは本人にはもちろん言わなかったが、もう一つ気になったのが、観戦記のテーマであるタイトルだ。

「(流れ派40代おじさんの)女流プロねっとり観戦記」

43歳のおっさんが、女流プロのMリーガーを独自の視点で「ねっとり」応援する観戦記…。

何をもって「ねっとり」なのかは、これから観戦記を書いていく私にもわかりませんが、タイトルだけは危険球ギリギリの内角高めを鋭く突いた剛速球。

せめて名前負けしない観戦記をお届けできるように…。
毎回、一人の女流プロにフォーカスを当てて、その魅力をお伝えいたしたいと思います。

黒沢咲の打点と美しさ

ということで、第1話は、TEAM雷電の黒沢咲。

私が本当にラッキーなのは、今日の第2試合に黒沢さんが登場したことだ。私は連盟の黒木真生さんと同じで、阪神ファンで雷電ファンだ。

第1試合で我らハギーこと萩原聖人さんが、久々の坊主頭で良い流れを作ってくれたこともあり、記念すべきこの観戦記の初回は、我がTEAM雷電の黒沢咲さんの戦いぶりをフューチャーすることにした。
(以下、文中敬称略)

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TEAM雷電はここまで500以上のマイナスを計上し、11月2日以来トップから遠ざかっている状況。
特に黒沢は、開幕戦のトップ以来、約2か月もの間勝利に恵まれていない。

しかし、麻雀には厳然とした「流れ」というものが存在すると信じて疑わない私としては、第1試合の萩原の好ゲームにかなりの手応えを感じていた。
最終的には渋谷ABEMASの松本吉弘に逆転を許したが、近況の涙を誘うような不運が嘘のように、萩原の手が軽くなっているのが感じられたのだ。

まさに、誰が言ったか知らないが、「月が変われば『ツキ』も変わる」もの。
黒沢の立ち上がりはまさに、『ツキの変わり目』を迎えたことを実感させるものだった。

まずは、東1局の黒沢の手牌をご覧いただきたい。

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ドラの西をトイツで手にして、さらにマンズで2メンツ1トイツ。
さらに、第1ツモでソウズが好形に変化した。

圧倒的な好配牌を手にした黒沢だったが、彼女にとって、この手は3シャンテン。
黒沢としては、ドラや6万、あるいは白を重ねて、ソウズをすべて払ってしまいたい衝動に駆られていることだろう。

その証拠に、

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234三色のタネになりそうな3ピンを引いてくるも、

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逡巡の後にツモ切り。
白を切って手なりに受けることもできるのだが、こうやって自分の手に「手役」という型を入れようとする打ち筋は、観ていてとても清々しい。

Mリーグのルールはとにかくメンタンピンが強い。

一発裏ドラ、さらには赤ドラの存在があり、手役が出来なくてもそこそこの打点がリーチによって得られてしまうからだ。
さらに、1着順に2万点もの順位点が加減されてしまうので、よりスピードが重視された結果、「手役」というものが軽視されがちだ。

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3ピンをツモ切った後で、1ピン、2ピンと引いて河にメンツが並んでしまう。
人はこれを「エラー」と呼ぶのかもしれないが、手役を追う打ち手としては意に介するものではない。

東1局は、とにかく大きな絵を描くこと。
点数の多寡を競うのも良いのだが、数字に縛られない美しさを求めるのもまた麻雀の魅力。
黒沢の麻雀は、その両者を高位で実現し得るものと私は感じている。

さて、黒沢としては、マンズの一色手を狙っていたのだろうが、

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やってきたのは赤5ソウ。
これでドラが3枚になったので、即リーチ。

それにしても、他のプレイヤーにとっては、このリーチは脅威そのものだろう。
Mリーガー随一の高打点探究者の黒沢が、平然と1メンツを河に並べて、1枚切れの白を切ってのリーチ。
手の内がどんな十分形になっているのか、考えるだけでも恐ろしいはずだ。

が、そこへ突っかかったのは白鳥。

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絶好のカン3万を引き入れて、手格好は十分なのだが、場にはすでに1ソウが3枚切れている。
しかも、アタマが東でピンフにならず、黒沢の現物である1ソウをヤミテンで狙えない。
不安要素もありながら、白鳥はリーチと打って出た。

白鳥のように、不安要素があるにも関わらずに打つリーチはまさに「運否天賦」。
しかし、こちらは特技が「ドラ引き」である黒沢。
チームメイトの瀬戸熊直樹が言うように、このリーチは黒沢のツモ和了りが「鉄板」だった。

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力強く得意のドラ、得意の西をツモり上げて3,000-6,000。
澱みきっていた雷電の運気は、12月の声を聞いて堰を切って流れ始めたようだ。

沢崎の親リー現物待ちで追っかけ

次局の東2局は園田賢の1人テンパイで流局し、迎えた東3局1本場。
沢崎が先制リーチ。

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と、黒沢もこのリーチに追いつく。

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予定調和のように赤5ソウを引き入れて、トップ目なのでヤミテンを選択する打ち手も多いだろう。
しかし、黒沢は沢崎の現物待ちを追っかけリーチ!
より、攻撃的な選択が出来ている黒沢。
この成否よりも、戦う「気」が満ち満ちているのが好印象だ。

結果は先行した沢崎に凱歌が上がったが、これで雷電のトップがグッと近づいたように感じた。

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園田の親リー現物待ちで追っかけ

さらに、黒沢は戦う。
南1局では、親の園田が先制リーチ。

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これに対して、同巡に黒沢が役ありの7ピンをツモってテンパイ。

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園田の宣言牌の1ソウを、他家からヤミテンで狙えるタイミングなのだが、黒沢は意気揚々と9万を叩きつけてリーチ。
沢崎に逆転されてしまっているということもあるが、恐らく黒沢は何点持っていてもリーチなのだろう。

それにしても、不運なのは先行リーチの園田。

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4枚目の9ソウをツモ。
黒沢に無筋であること以上、カンをしない道理がないのでこれをカン。
そして、リンシャンから掘り起こしてきたのが、

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黒沢のロン牌の4ソウ。

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園田のカンによって、表ドラ(四万)1枚、裏ドラ(7ピン)が2枚乗って、黒沢に12,000点を献上。
チームランキングで当面のライバルとなっている赤坂ドリブンズをハコ下の奈落へ突き落すこの和了は、額面以上の価値があった。

ツモる瞬間赤に変える

この一発で先行を許した沢崎を逆転するも、沢崎との息詰まるトップ争いは続く。

再び微差ながら逆転を許して迎えた南3局2本場。
沢崎の手をご覧いただきたいのだが

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前巡に対面の園田が9万を切った。
ツモり三暗刻が見える手なのだが、9万が暗刻になりにくいと観るや、9万のトイツ落としからタンヤオに向かって急ハンドル。
トイツ手への変化も一応あるので、この場面でトイツ落としに出るという発想は凄みを感じた。

そして、沢崎は白鳥から打ち出された2ピンをポンして、安手で連荘狙い。

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この「上りポン」によって、本来沢崎に入るはずだった赤5ソウが黒沢の手に。

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これでイーシャンテン。
さらに

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絶好球の7ピンをもキャッチして即リーチ。

そして、高めの赤5万を軽々とツモ。

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何故に、この人には赤とドラが集まるのか…
ツモる瞬間に、5ソウを器用に赤く染めているのではないかとすら思わせる豪快な一発で、本日3回目の跳満和了。
ライバルである沢崎に親かぶりを突き付けて、このゲームのトップを決めた。

抜けた長いトンネル

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チームとしては19戦ぶり、11月2日以来のヒーローインタビュー。
そして、個人としては開幕戦以来2か月ぶりという勝利を飾った黒沢の姿は、とにかくほっとしたという様子だった。

「たくさんの方から応援とか期待とかいただいていたのに、全然だめだった。長く感じた期間だったが、トップを獲れてうれしい。」

短いながらも、長いトンネルを抜けた喜びに満ちたコメントだ。

「(第1試合の萩原から)仇とってきてくれと言われたので、これは全部を出し切ってやるという気持ちだったし、今日は雷電ユニバースの皆さんが集まって応援してくれているとも聞いている。今日は特に頑張りたいなという気持ちが強かった。」


残暑厳しかった10月のトップから長いトンネルを抜けると、そこは小雪舞う12月だった。

川端康成の伊豆の踊子ではないが、季節が一つ移ろう程の時間、黒沢は耐えに耐えた。
これをきっかけにさらに活躍を続けて、来年の春には笑っていてほしいと私は思う。

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