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「松ヶ瀬がなってよかったよ」

 世界を謎の疫病が覆いつくしてから約一年半、我々はもはや入口に置いてある消毒液にも、毎朝つけるマスクにもなんの疑問をも持たない。新しい日常が誕生し、マスクなんてせずに酒飲み散らかしていたかつてが、大昔のように感じられる。
 再びかつての日常を取り戻せる──完璧に──日が来るのかは誰にもわからない、だがひとまず東京都の緊急時代宣言は取り消された。まだ時間の制限などはあれど、飲食店も以前のように営業を再開しはじめている。
 というわけで──おれは吉祥寺の地下、シケたバーのカウンターに一人で座っていた。相変わらず小汚い店、コンビニの自動ドア並みには愛想のいいマスター、すなわち戻ってきた──すぐ手の中からすり抜けてしまいそうな──日常。
 モニターに映っているMリーグを、おれは酒で淀んだ目で眺めている。EX風林火山の選手として、松ヶ瀬隆弥が出場していた。
 ほんの数カ月前には、そこにおれが座っている未来が存在した。その「未来」は残念ながら違う「現在」となって今おれの眼前に存在している。風林火山オーディション、それももうはるか昔のことのように感じられる。

 Mリーグでも競技麻雀でもない、いつもの麻雀。

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 どうなるかな、と思っていた手牌にいちばん簡単なツモが来た。三暗刻できあい、ドラ暗刻のテンパイ。これは──四暗刻になる、未来が見えた。その前に出たりツモったりしなければいいな。


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