私設Mリーグダービー③メタボリック健からの「贈り物」
仲間内でMリーガー4人を取って(チームはバラバラ)4人の総合成績を競い合うことを始めた著者たち(おじさん)。
勝手にオーナー気分が味わえて楽しいらしい。詳しく読みたい方はこちら↓(読まなくてもこの話は楽しめます)
1位と3位しか決まらないまま、ドラフト3日前を迎えてしまった。
健は誰を指名してくるだろう?
貴の1位は寿人? それともまた松ヶ瀬?
マルコがいなくなってしまった高見の女流枠は?
新規の水谷さんの戦略は?
そんなことばかり気になって仕方ない。
われわれのMリーグダービーは、今シーズンにツキそうな人を探すだけのゲームなのか? いや、違う。断じてそんな薄っぺらなゲームではない。
これは選ぶ側の麻雀観や、思想も問われているのだ。
だったら負けても自分が納得のいく選手をひたすら獲得すればよいのでは?
だけどそれをやって、昨年やられたんだよな……。
そもそも麻雀の強さって、何なんだろう?
これまで時間は腐るほどあったのに、考えがぐるぐる巡るばかりで、2位と4位が決まらない。どうやら私は昨年の大敗から、ちょっとしたイップスに罹ってしまったようだ。
ドラフト会議の2日前の晩、釣り帰りの健と、たまたま飲むことになった。
「ちーす」とお互いサンダル履きで、品川で落ち合う。
健は朝4時に起きて、この炎天下のなか、アジを数十匹釣ってきたという。
真っ黒に日焼けし、当然のことながら、いつもより酔いが回るのが早かった。
私は健の酔いっぷりを見て、思った。
(これはドラフトについて、なにか聞き出せるのでは……?)
健の麻雀打ちを見る目は確かだ。
私は探りを入れるべく、「さ、もう一献」と健にお酌を繰り返した。
「で、ドラフトの方針は決まったの?」
「う〜。もうずっと前から決まってますって」
「1位は、やっぱり伊達?」
「さあ、どうでしょうね〜。その手には引っかかりませんよ〜。ひっく」
まだ酒が足りないようだ。
今日は健が奢ってくれるというので、私は高い酒を勧めた。
「次は十四代でも飲みますか。飛露喜もありますよ。やっぱりデキる編集者には、高くて旨い酒が似合うよね」
場末のぼったくりバーのホステス並に、とくとく日本酒を注ぎ足しまくると、健はようやく「泥酔」の域に入った。そしてついに自分のドラフト戦略について口を割りはじめた。
「いいですか、平岡さん。Mリーグは今年も『女流祭り』が続きますよ。2017年の『#MeToo』運動のあとから、世界は女性の時代に入ってます。それがMリーグにも波及してるんです。昨年のMVP争いを見たでしょ? 伊達と瑞原を『ツイてただけだ』とか言ってる奴は、やばいですから」
いつもは酒とギャンブルの話しかしない健が、世界情勢を説いている!
むろん雑誌編集者なんだから、時代の趨勢を読むのは仕事の一つだ。
それがMリーグ情勢に収斂するところが、健らしいのだけれど。
「じゃあ、今年はそこらへんで行くわけ?」
「ええ。ボクは女流プロ固めまで考えてました。あとはパイレーツ固めとか。今年はパイレーツがやる年だと思うんですよね。仲林とか超絶強いですよ。あんなのがフリー雀荘にいたら、永遠に勝ち続けると思います。同卓したら、即ラス半ですね」
ふむふむ。どうやら健は、「伊達、瑞原、仲林、コバゴー」あたりを考えているようだ。
もし健がチームをパイレーツの3人で固めた場合、特典がついてくる。
自チームの選手同士が同卓して、ポイントを奪い合う心配がほとんどない、という特典だ。
普段の健はなかなか点棒を吐き出さない雀風だが、いまはボタンを押せばなんでも情報を吐き出しそうなので、私は新規メンバーの水谷さんについても情報収集することにした。水谷さんは健の知り合いだ。
「こんどメンバーに加わる水谷さんって、どういう人?」
「ガチです」
「麻雀の腕が、ガチ勢クラスってこと?」
「麻雀もですけど、何事に対してもガチなんですよね。仕事も家庭も遊びも酒も麻雀も」
「なんか恐ろしい人だね」
「早稲田出身のラガーマンで、いまは外資系金融の内部監査。超絶優秀な人ですよ。麻雀IQも210くらいありそうだし。普段行ってるフリーでは“キング”って呼ばれてるそうです」
「内部監査の仕事って偉いの?」
「ええ。金融界のエリートであることは間違いありません。でもって、何事に対しても超絶ガチ」
「凄い人を連れてきたね」
「まじでビビると思いますよ。ぬるま湯の出版界にはいないタイプの人ですから。何事に対してもガチなんで、今回のドラフトも楽しみだなぁ。だいたい平岡さんは、ぬるいんですよ。そうやって人の指名候補を当てに来ようとするけど、それで昨年どうなりました? 人のチームを当てに行って、勝てましたか? まずは自分のチームを充実させないと」
「うーむ、言われてみれば……」
われわれは店を出た。
健は日本酒を8合はいっただろう。なかなかの千鳥足だ。
私はその後ろ姿を見守りながら、先ほどのアドバイスを噛み締めていた。
人は人。自分は自分。
たしかに自分のチームが充実していれば、相手がどんな編成を組んでこようが関係ない。健の言う通りだ。
そこまで考えたところで、ひらめいた。
(健の指名候補を、1人頂戴しちゃえばいんじゃね?)
これは決して泥棒行為ではない。
健の読みに対するリスペクトである。
(ドラフト奥義その① 盗人にも3分の理)
健は伊達を1位指名しそうだ。
それなら私は伊達は諦めて、2位で瑞原を指名すればいい。
うまくいけば単独指名できるし、最悪でも健とのくじ引きに持ち込める。
このプランなら、懸案だった女流枠も決まる。
この2シーズン、瑞原に対する健の評価はやたら高かった。
私程度の雀力では、瑞原が多井や堀クラスに強い選手なのかどうか、わからない。
だが私は健の見立てを信用している。
健のお眼鏡に適ったなら、間違いあるまい。
(ドラフト奥義その② 他人のふんどし)
これで私の指名候補は松ヶ瀬、瑞原、醍醐と3位まで決まった。
4位は当日のドラフトの成り行きを見て決めよう。
それまでに5人✖️3巡指名=15人の選手が消えてしまうのだから。
私は念のために、4位候補に(松本)とノートに小さく記して、ドラフト会議に臨んだ。
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