馬場さんのいなくなった世界【長村大】
のっけから宣伝みたいで恐縮だが、荻窪でかき氷店をやっている。朝の開店前は、掃除や仕込み、メニューの書き換えなど存外に忙しい。だから━━おれがケネス徳田からのメッセージを読んだのは、それが送られてきて2時間ほど経ってからであった。
「それ」は意外な知らせではなかった。あるいは心の奥底では、その知らせが来ることを毎日恐れていて、しかし遠からぬ未来に必ず来ることを確信してもいた。見舞いに何度か足を運ぶうちに、人は心の準備を自然としてしまう。
馬場裕一の、死。
ここから先は
1,118字
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?