ファイナルにあと一歩届かなかった選手たち──そして私たちは、何度でも石を積み上げる 文・須田良規
最強戦2022は、瀬戸熊直樹の堂々たる連覇という結果で幕を閉じた。
ここに至るまで、本当に多くの敗者が生まれた。
競技麻雀プロ団体の数千人、日本中50店舗以上で行われた予選に参加された一般ファン、
全ての選手たちが、どこかで負けてきたのである。
私たちのほとんどは、常に敗者であり、
だからこそタイトルを獲得した選手というのは、稀有で価値のある存在なのである。
ファイナルの舞台に挑んだ鈴木大介、友添敏之、前原雄大の3名も素晴らしい戦いぶりで、
例年以上に観る者を興奮させる激戦だった。
それぞれ優勝は叶わなかったとはいえ、誰が勝ったとしてもおかしくなかっただろう。
ではその最後のステージにあと一歩、及ばなかった選手たちの口惜しさは幾ばくであったことか。
決勝にさえ残っていれば、運でも展開でも、チャンスを掴むだけの権利は与えられる。
だがその機会さえ目前で手のひらからこぼれ落ちてしまったときの、喪失感は計り知れないのではないだろうか。
そのセミファイナルで敗れた選手たちの、こんな部分に後悔が残るのではないか──、
今回はそういった一打を振り返ってみて、悔やんでも悔やみ切れない彼らの思いを共感して、
また起こり得た別の未来を想像しながら、共にこれからの糧にしたいと思う。
丸山奏子、ラス前のスルー
セミファイナルA卓、南3局1本場。
丸山は17700点持ちのラス目であるが、2着目の瀬戸熊は26600点で8900点差。
周知のように、2着以上が次の決勝戦に進めるシステムである。
丸山は早々に発と2pをポンしてこのイーシャンテン。
ここに、瀬戸熊が先打ちの形で切った9p。
丸山は、これをポンして白単騎の5200テンパイを取らなかった。
この後、友添とアマチェア代表ももたんに白を切られ、
丸山は下家の瀬戸熊にカン3mを鳴かれて、即放銃の憂き目となった。
567三色高めで2000は2300。
瀬戸熊との点差は13500点となり、オーラスがハネツモ満直条件になってしまう。
丸山は、巡目も早いため、ここですぐ白が重なればマンガンの出アガリは期待できるだろうと。
現状で8900差あるので、この局での瀬戸熊への肉迫、もしくはまくりを狙ったのである。
確かに白はすぐに場に打たれた。丸山の持っている8pが白であれば、マンガンの加点はあった。
9pポンではこの瞬間のマンガンテンパイは、果たせなくなる。
しかし、このラス前で5200でもアガって点差を詰めておくと、オーラスの条件はぐっと軽くなる。
また、テンパイさえ入れておけば加カンなどで5200以上のアガリになることもある。
この次局、つまりオーラスの丸山の配牌は、こうであった。
ドラ中がトイツのイーシャンテン。
これがハネツモ条件でなければ、悠々の手牌であっただろう。
“ラス前の打点不満のアガリでも、オーラスの条件緩和のため必要なときはある”
私たちがこの丸山の状況で感じた教訓は、こんなところではないだろうか。
ももたん、オーラスのテンパイ外し
オーラスにハネツモか瀬戸熊からの満直、脇からは倍満条件という丸山がリーチしている。
ドラの中と9pのシャンポン待ち。もちろん中ツモが必要になる。
3pの手出しが西より後なので、ソーズのメンホンという感じではない。
まずドラ頼りのハネツモリーチだろう。
それを受けての、親番のももたんである。
ももたんは、567三色の見える手で、安めの4p引きテンパイ。
腕を組んで思案に沈む。
自身は2着目の瀬戸熊と7800点差。
ただラス親なので、小さくアガって瀬戸熊をかわしてもオーラスは続行になる。
そしてこの中が、丸山に危険なのは明白だ。
50万人以上の一般予選参加者の代表となって、このセミファイナルまでたどり着いた選手である。
競技麻雀の愛好家であり、ここで大きく加点することの意味を重視している。
ももたんは、フリテン147p形を残す1p切り。
なるほど、打点を見るなら4p引きでタンピン、7p引きはタンピン三色、中引きは三色ドラドラになる。
攻め手としては素晴らしい一打だ。
現状のピンフのみでは、危険な中を打ちたくなかったのであろう。
しかし──、丸山は出アガリなら倍満が必要である。
メンホンでもない限り、丸山がももたんからアガることはなかなか考えにくい。
これは、丸山がツモれば終了の瀬戸際である。
中の出アガリはないと期待して、テンパイ取りをする選択は難しかっただろうか。
このオーラスは、ももたんが最後まで張り返すことはなく、ノーテン終了。
丸山の現物の8sでアガリはあったかもしれないし、テンパイ続行の未来はまずあった。
打点を求めたのと、この中が危険であったことがももたんに中を切らせなかったのだろう。
このバランスは難しい。
丸山は西が3pより先であり、ソーズのメンホンではないと読めるかどうか。
そしてそれならば中のロンアガリはされないと踏んで、1500でもテンパイを取るのかどうか。
相手の条件と手牌を考慮してこの極限の状況で打つ経験など、一般の麻雀ファンの方はほとんどないだろう。
だからこそ、これからも最強戦に参加して、プロの選手たちと渡り合ってもらう方々のために、
これが似たような場面の思考の一助となってくれるといいと思う。
“相手の条件と手牌を考えて、危険牌を通す選択も持っておく”
ももたんの状況から学びとなる教訓は、こんなところだと思う。
渋川難波、トップ目からのリーチ
B卓の渋川は東2局に3000・6000をツモり、37000点持ちのトップ目であった。
そして東3局の西家で7巡目に入ったこのテンパイ。
捨て牌にマンズがこれでもかと散らしてある、1m単騎のチートイツである。
渋川は、これをリーチと行った。
宣言牌の中は2枚切れであり、1mはションパイだ。
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