みあの場合【文・和泉由希子】8
第6話の瑠莉香を思い出した。
麻雀が人を救うお話である。
何度か飲みの場で一緒になった。
普段はFIRE BIRDというバーで店長を務めている事もあり、酒好きで快活な女の子だ。
今回のインタビューにあたり、話したい事を事前に箇条書きにして準備してくれていた。
根は真面目なタイプであるらしい。
「大学の時にね。インカレサークル(複数大学の学生で構成されるサークル)に入ってたんですよ。」
そこで出会った同じ歳の彼。
一年の終わり頃から付き合い始めた。
「彼は別の大学だったんですけど、パチンコスロットにハマっちゃって。授業も行かずに朝から打ってましたね。イルミネーションを見に行こうよって誘ったらパチンコ屋に連れてかれて、スロットのハナビを打たされました。これが俺のイルミネーションだーとか言って(笑)
あと麻雀も好きでしたね。しかも負けるので、いっつもお金無くて。」
なんとも大学生らしい大学生である。
彼は学生寮に住んでいたが、みあの家に入り浸るようになり、半同棲のような形が続いていた。
付き合い始めて一年ぐらい経った頃だろうか。
みあのお気に入りの下着が無くなっている事に気付いた。
「初めは、洗濯して風に飛ばされたかなーなんて、軽く考えてたんですよ。でも、二着目三着目と無くなるんです。さすがに気味が悪くて。」
そんなある日、彼がカバンを投げ置いた拍子に、中身がこぼれ落ちて、ピンクの布が見えた。
よくよく見てみたら、自分の下着だった。
「え、そういう趣味があったのか。なんて思ったんですけどね。本人に問い詰めてみたら、白状したんです。売ってたんですよ。私の下着を。しかも私の写真付きで。」
衝撃的な話である。
使用済みの上下セット、しかも写真付きだと高く売れる。
ネット上に、そういう売買専門のサイトがあるらしい。
さすがに私でも引いてしまう案件だった。
しかも自分の写真が出回ってるとか、あり得ないし許せない。
99%の女が即刻別れると思う。
「そうなんですけどね。めちゃめちゃ泣かれて謝られて。『本当にごめん!お金に困ってやっちゃった。もう二度としないから』って」
結局みあは許してしまった。
後々、この選択を後悔する事になる。
「それからまた半年くらい経った頃、お金を貸してくれって言われたんです」
聞くと、母親が倒れたらしい。
彼の実家は北海道なのだが、飛行機代が無い。交通費を貸してくれという話だった。
すぐに行ってあげなよと言い、みあは四万円を渡した。
結局、母親はたいした事なく、風邪をこじらせただけだった。
『父親が慌てて連絡しただけみたい。大袈裟だよなー』と彼は笑っていた。
その時はそれで終わった。
その数日後、彼がみあの家に携帯を忘れて行った。
あとで届けてあげようと思っていたら、ラインの通知が画面に表示された。
女の名前で、「◯月◯日、楽しみだね!」と書かれていた。
その日付は、みあが免許合宿で留守にする事が決まっている日だった。
どういう事かと彼を問い詰めたら、自分がいない間に女と会う約束をしていた。
「実は北海道、行ってなかったんですよ。その時に渡したお金でパチンコ行ってて、珍しく勝ったらしく。そのお金で女と会うつもりだったみたい」
人の優しさを笑顔で踏み潰すヤツはどこにでもいるものだ。
『ごめん!本当にごめん!まだ会ってないから!未遂だから!もう全部ブロックするから!』
今回も、泣きながら謝られて終わった。
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