輪島のプロ雀士⑪初めてのトークイベント【庄田ボーイ】
「3/9に庄田のトークイベント、やらへんか?」
避難所にいる僕に黒木真生さんから電話があった。
輪島はまだ水も出ていない。家族の住む家も決まっていない。
そんな中だったが僕にできることも少なく、2月の中旬に東京へ戻ることを決めていた。
「是非、やらせていただきます。でも・・・」
「どうした?」
「僕で大丈夫ですか?過去のトークイベントは全部Mリーガーの方ですよね?お客さん集まりませんよ」
「気にせんでええねん、大丈夫や。あと売上は全部お前にやるから」
なにが大丈夫なのか全く意味がわからなかったが、話すことは好きなので、是非やってみたいと思った。
「東京に戻ったら、俺のトークイベントやるんだってさ」
両親にこの事を話すと、頭の上にハテナマークが3つほど並んだような顔をしていた。
それもそうだろう。麻雀プロの仕事内容もイマイチ理解していないのに、息子がトークイベントのメインゲストである。
「祐生、大丈夫なの?何を話すの?祐生がお客さんを呼べるの?」
言葉で表すのが難しいが、輪島というか田舎の人たちは「トークイベント」とかそういう類のものは全て人気の芸能人とか、そういった人たちがやるものだという認識なのだ。
「でも最近、お母さんの周りでも祐生の話になるわ」
両親と輪島を歩いているとき、昔はゼロだったが、今はたまに知らない人から声をかけていただけるようになった。
「庄田さんですか?いつもyoutubeみてます」 「Xで発信してくれてありがとうございます」
そんな息子を見て、両親はいつも不思議そうな顔をしていた。
東京へ戻る日、崩れかけの家から発見した輪島塗の箸を何膳か母親が持ってきた。
「これ、トークイベントでどなたかにプレゼントしたら?」
母親も僕と同じ気持ちなのだ。「息子のために時間とお金をかけて会いに来てくれるなんて・・・」
「ありがとう」
その箸を受けとり、お互い泣きそうな気持ちを堪えて東京へ向かうバスに乗った。
東京に戻り、仕事を再開した。数日後、黒木さんがXでトークイベントの告知をした。
こういうイベントは初動で全てが決まると言っても過言ではない。
2日ほど経って黒木さんに聞いてみた
「トークイベント、参加者どうですか?」
「3人や」
いや、3人て!!!トークイベントじゃなくて打ち合わせじゃないですか!!!
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