私設Mリーグダービー⑤ドラフト振り返り【平岡陽明】
仲間内でMリーガー4人を取って(チームはバラバラ)4人の総合成績を競い合うことを始めた著者たち(おじさん)。
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ここからは、各オーナーに獲得理由を明かしてもらいつつ、今年のドラフトを振り返ってもらう。まずはメタボリック健からだ。
メタボリック健、ドラフトを振り返る
チーム・メタボリック健
1位 伊達朱里紗
2位 小林剛
3位 本田朋広
4位 二階堂瑠美
健が今年は「パイレーツ染め」を考えていたことは前述した。
昨年に続き「女流祭り」が続行すると読んでいることも。
1位の伊達については、ずっと心に決めていたようだ。「昨年のMVPですし、ボクも勝たせてもらった。こだわりと、御礼をこめてのドラ1です。彼女、めっちゃ強いですよ」
2位の仲林をくじ引きで外したのは痛恨だったようだが、ハズレ2位のコバゴーに対する評価は変わらないそうだ。「尊敬に値する、オンリーワンの鳴き麻雀です」
3位の本田は意外だった。「本田は昨年、ガラッと変わったと思います。手組みに構想力が出てきて、打点を作れるようになった。それでMVP争いをするほどの成績を残した。『ただツイてただけ』と言うのとは、すこし違うと思います」
4位の瑠美は「あいかわらずボクのいちばん好きな打ち手。初年度は獲って痛い目に遭ったけど、獲らなかった昨年はMリーグの麻雀に見事にアジャストしてきた。今年もやってくれると思いますよ」
私が「今回のドラフトは100点満点で何点?」と尋ねると、「うーん、40点かなぁ……」という答えが返ってきた。
「どこかのコソ泥作家にやられたのが痛かった。ボクの瑞原を盗むって、平岡さん、あなたプライドはないんですか?」
私は「えへ」とだけ答えた。
(ドラフト最終奥義 馬耳東風)
タクシー貴、ドラフトを振り返る
チーム・タクシー貴
1位 鈴木大介
2位 渡辺太
3位 菅原千瑛
4位 瀬戸熊直樹
寿人を外して、ハズレ1位で大介。
いきなりドラフトにサプライズをもたらした獲得理由を尋ねた。
「最強戦で優勝した年の麻雀、観ただろ? めちゃくちゃ強えって」
雀鬼流で打つ者は、雀鬼流で打つ者を知る。
大介は現役麻雀プロで、唯一の「雀鬼流」の使い手かもしれない。
その選手を、貴が見逃すはずもなかった。
「ところで、2位の太の麻雀は観たことあるの?」
「麻雀どころか、顔も見たことねーよ」
「おいおい」
「だけど村上の後釜だろ。あれだけツカないでMリーグを去った奴の後釜が、ツカない訳ないって」
「ちょっと言ってる意味がわからない」
「わからないから、センセーは麻雀が弱いんだって」
「お前なんか、タクシーで休憩中に駐禁切られちまえ」
「Mリーグって場が、太を『ウェルカム!』って迎えてるんだよ。俺にはその様子が目に浮かぶね。まあ、見ててみな。太はめちゃくちゃ噴くから」
3位の菅原の獲得理由は?
「ビーストのオーディションで菅原が優勝した試合、観ただろ?」
「観た。あのオーラスは、麻雀史に残る名局だったよな。俺が新井ケイブンだったら、帰ってから映像を見返して、憤死するね。何度チャンスがあったことか」
「最後の新井のチートイ立直に、菅原が当たり牌の3索を止めたとき、『この子を獲ろう』って決めたんだよね。あんな3索、普通、止まんないって」
「俺は止めるけどね」
「だからセンセーは麻雀が弱いんだって」
「お前なんかUターン禁止のところでUターンして、切符きられちまえ」
3年連続指名となった瀬戸熊についても理由を尋ねた。
「まあ、俺のチームの選挙管理員みたいなもんかな。わかる?」
「わかんない。俺、麻雀弱いから」
「俺はむかし『近代麻雀』で瀬戸熊の追っかけをしてたくらいのファンなんだ。俺の尊敬する片山まさゆき先生が、たしかクマクマタイムの名付け親じゃなかったかな。いい加減、Mリーグでもクマクマタイムを見せてくれ!」
ともかくも貴は今年から参入する選手3名で固めてきた。
その意図は?
「麻雀打ちにとって、Mリーグに参加できるってのは奇跡。その狭い門戸をこじ開けてきた奴らには、なにかしらの意志が働いてる。麻雀の神様のパワーかな。あとからMリーグに加入してきたメンバーって、それだけで特別な存在なんだよ」
「今回のドラフトは何点?」と尋ねた。
貴は自信たっぷりに答えた。
「200点満点」
言うと思った。
デジタル高見、ドラフトを振り返る
チーム・デジタル高見
1位 佐々木寿人
2位 仲林圭
3位 高宮まり
4位 白鳥翔
高見が1位に寿人を指名してきたのは意外だった。私は尋ねた。
「あなた、デジタルなんでしょ? なんか『デジタル』と『寿人』って相性良くなくない?」
高見は、ふん、と鼻を鳴らしてから答えた。
「デジタルであることって、打ち手にとって最低限の義務だと思うんです。そこを超えたところに、感性の世界が広がってるんです」
メガネの奥で光る、高見の皮肉っぽい目が、「あなたはその最低限の牌効率もクリアできていませんけどね」と告げている。
「寿人ほど『牌理』と『感性』が高次元のところで交わっている選手はいませんよ。じつはとてもバランスのいい選手なんです」
「だけどこの2年、寿人の名前なんて出てこなかったじゃん」
「ボクにはマルコがいましたから。だいたいドリブンズがマルコを首にしたのは、ボク的にまだ納得がいってなくーー」
「その話はまた別の機会に! で、ほかに寿人の良さは?」
「打牌が早くて、テンポが一定なところかな。麻雀って皆さんが思ってるより、対人ゲームの要素が大きいんです。打牌が早くて一定ってことは、相手にクセを読まれづらいんですよ」
「それって、そんなに大きな要素?」
「ええ。たとえばボクは平岡さんがダマで張ってるとき、100%分かります」
「嘘だろ?」
「本当です」
「そんなにクセある? 俺」
「あります」
「教えてよ」
「教える訳ないじゃないですか」
くじで引き勝った2位の仲林については、メタボリック健と同じような見方だった。
「あんなに同卓したくない選手も珍しいですね。この前、パイレーツの選手たちの『海賊の麻雀』って本を読んだんです。同じ局面で何を打つか、みんなで答えているんですが、仲林の意見がいちばん納得いきましたね。ほんとにAIみたいに正確無比で、鳴きが多いけど振らない。強いです」
3位の高宮の獲得理由については、こんな答えが返ってきた。
「じつは2ヶ月前に、新橋のSL広場で高宮を見かけたんですよね。数メートル先からでもオーラがあって、ちっちゃくて、可愛かったです。ああ、タクシー貴さんの言ってる『アヤ』ってこのことか。ドラフトで獲ろうって決めました」
私は耳を疑った。デジタル高見の口から「アヤ」という言葉を聞く日が来ようとは!
「獲得理由は、それだけ?」
「んな訳ないじゃないですか。もちろん昨年から彼女の麻雀のバランスが劇的に良くなったこともあります。昔みたいに全ツしなくなったし、テンパイしてても崩して降りれるようになった。たくさん勉強したんだと思いますよ」
プロに対しても上から目線。
すこし安心した。
高見はやっぱり高見である。
次は4位の白鳥の獲得理由だ。
「YouTubeに『麻雀遊戯王』ってチャンネルがあるんですけど、ご存知ですか?」
「もちろん」
「そこに白鳥がゲストで来たとき、『マルコを首にしたのはおかしい』ってトーンで話してくれてたんですよね」
「そ、そこ⁉︎」
「そこです」
私は開いた口が塞がらなかった。
(こいつ、まじでヤバイかも……)
「あとはこのまえ、白鳥は魚谷と『押し引きのプロ技』って共著を出したんです。白鳥には『最強の麻雀 押し引き理論』って前著があるんですけど、そこより精度が上がっていました。明らかに強くなっていますね」
仲林と白鳥の獲得理由に「著書のデキ」をあげるのは、いかにも高見らしい。日本で発売される麻雀戦術書をすべて読んでいるのだから。
「いやー、本当は貴さんに菅原を獲られなかったら、ボクも獲りたかったんですけどね。ボクが麻雀格闘倶楽部のゲームで使ってるプチプロは菅原なんで」
なんだかマルコ2世の匂いがする。こいつ、マルコといい、高宮といい、菅原といい、結局かわいい女子を推したいだけなんじゃね?
デジタルと、推しと、猛勉強と、勝ち組人生の同居。
高級食材が豊富すぎて、逆に取っ散らかっちまってるようだ。
今回のドラフトは何点?
「もちろん100点です」
メガネの奥の狂気が、キラリと光る。
ガチ水谷、ドラフトを振り返る
チーム・ガチ水谷
1位 多井隆晴
2位 勝又健志
3位 内川幸太郎
4位 茅森早香
さて、新加入のガチ水谷である。
外資系金融マン。早稲田出身のラガーマン。麻雀IQ 210。重戦車。
「コンピューター付きブルドーザー」という異名をとった田中角栄のエリート版みたいな人であろうか。
まずは多井の獲得理由について尋ねた。
「RTDからずっとリアルタイムで観てきて、つくづく思ったことがあります。多井隆晴は麻雀界の松本人志だなって。まっちゃんが空前絶後のお笑いスターであるように、たかちゃんも空前絶後の打ち手です。こんなに牌理に明るい人はいない。おそらく誰も行けないレベルまで行ってます。だから多井がもし昨シーズンのようにマイナスに沈んでも、すこしも後悔しませんね。余人を以って替えがたい、ダントツの選手だと思っているから。同時代に生きられたことを感謝したい才能です」
いきなり最上級の褒め言葉が並んで驚いた。
たしかに私も「麻雀というゲームに対する認識の深さは、多井がナンバー1かも」と思ったことは何度かある。
まあ私なんかが思っても、単なる「感想」だが、あの村上淳ですら「多井が人類最強」を表明しているのを何度か見た。
村上は勉強会や公式戦やその後の感想戦で、何度も多井と「対戦」しているはずだ。その村上が白旗を挙げるくらいだから、一流のプロ筋でも「多井は別格」は暗黙の了解なのだろう。
そこをストレートに1位指名してきた。
ガチ水谷は、麻雀打ちも「ガチ」が好きなのだろう。
その意味では納得の1位指名である。
2位の勝又についても、「2位はこの人しかいないと思ってドラフトに臨みました」と言う。理由は?
「押し引きのバランス。摸打のリズムとカッコよさ。麻雀IQの高さ。人類で多井の次に強いのはこの人だと思います。僕は漫画『キングダム』が好きなんですが、多井と勝又を獲れたのは(しかも抽選なしで!)、キングダムに出てくる六大将軍のトップとナンバー2を獲れた感じがします。この時点で僕のドラフトは100点満点ですね」
聞く前に100点満点宣言が出た。
たしかに何度見ても「多井・勝又」の2トップは強烈だ。
だがここでメタボリック健が「ぐふふふふ」と不敵に笑った。
「水谷さんはまだこのゲームの怖さがわかってないみたいですね。ボクは初年度に寿人、コバゴー、村上を編成して楽勝かと思いきや、ズタボロに負けてますからね。麻雀は何が起こるかわかりませんよ」
それは私も骨身に染みていた。初年度優勝の3人をそのままにして臨んだ翌年に、地獄を見たのだから。
3位の内川については、「確実にポイントを持ち帰ってくれそうな所」を買ったという。
「攻めや守りに特化していないバランスの良さがいいですね。それなのに場況が読めたときは、一瞬のスキをついてカンチャン待ちでもリーチで勝ちにいく。とくに今年の最強戦の予選で勝ち上がりを決めたオーラスの切れ味を見て、指名を決めました。マイナスしても100以内で済みそうですしね。チームに一人いると助かる選手です」
4位の茅森については、「手組や打ち筋が好きで、高打点志向もいい。ある種のロマン枠ですが、とにかく昔から好きな選手です」とのことだった。
ガチ水谷は、今回のドラフトに臨むにあたって、まずこう考えたそうだ。
「新規加入選手は情報がないから見送ろう」と。
さすがに外資金融マンらしい理路整然としたシンキングである。
それを聞いたタクシー貴が、「おいおい、それじゃ新規を3人も指名した俺がバカみてーじゃねぇか」と言ったが、みんな大人なので黙殺する。そっとしておいてあげよう。
ガチ水谷は、そのほかの事前準備も「ガチ」だった。
「僕のやっている監査の仕事は、事前準備が命です。だから今回のドラフトにも万全の準備で臨みました。まずは全選手のMリーグの過去の成績、所属団体での現在の成績、Wikipediaでの身辺調査を行いました」
ふむふむ。さすがだね。なんか「監査」って感じ。よく知らんけど。
「あとはABEMAで全チームのドキュメンタリーを見て、チームの雰囲気や士気を確認しました。それから全MリーガーをSランクからDランクまで格付けして、自分が保証(監査用語でアシュアランスと言います)できる選手を選んでいきました」
全員をさらっと格付けするなんて、やはり金融機関は無慈悲だ。私なんて自分がDランクに格付けされているのを目にしたら、3年は立ち直れない。
「そして最後に、獲得候補となったSランクとAランクの選手のMリーグの過去の全試合を観返しました。もちろん最強戦の全対局も」
ここでわれわれは、椅子から転げ落ちそうになった。
ぜ、ぜんぶ?
Mリーグと、最強戦の過去映像を、ぜんぶ?
「ええ。Mリーグだけで5年分ありましたから、準備に3ヶ月くらい掛かったかな。仕事以外の時間はすべてそれに捧げましたよ。でもおかげさまで『多井と勝又に関しては、魂を預けられる選手だ』と判断できたんで良かったです」
ガチ水谷は爽やかに笑った。銀歯が光る。
良かったです、って……。
完全に狂ってるだろ、この人。
普通そこまでやるか?
しかも「監査」の視点、一辺倒で。
デジタル高見が「アヤ」だの「感性」だの言い出したいま、この人こそが「デジタル狂」、いや、「監査狂」か。
なんだかスゲーのが入ってきたな……。
怪物を目撃し、「こんどは5人でセット麻雀を組みましょう」と約束して、散会となった。
平岡、ドラフトを振り返る
チーム・平岡
1位 松ヶ瀬隆弥
2位 瑞原明奈
3位 醍醐大
4位 堀慎吾
さて、私のチームはどうだろう。
「強さ」と「バランス」の配分は、いいように思う。
一子相伝のドラフト奥義のおかげである。
では「何点か?」と聞かれたら、「80点」と答えよう。
本当は「100点」と答えたいのだが、昨年の大敗のイップスがまだ癒えない。
ドラフト翌日の早朝、タクシー貴からグループLINEに書き込みがあった。
「いま、雀荘のメンバー(連盟のプロ、ガチ強)に、きのうのドラフトの結果を見せた。センセーのチームがいちばん評価が高かったよ。逆に俺のチームは『やっちゃったんじゃないですか?』ってイジられた。まー、センセーのチームはプロ受けが良さそうな奴ばっかりだからな」
私はこのLINEに気を良くした。
そうだよね、俺のチーム、強いよね?
今年こそ大丈夫だよね?
ともかくもチームは出揃った。
あとは開幕を待つばかりだ。
今年もMリーグ狂想曲が始まる。
いったい勝つのは誰か。
誰が勝つにせよ、これだけは自信を持って言える。
Mリーグほど楽しいものは、この世にない。
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