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『俺はこういう人間だから』はダメ男のサインーー瑞稀の場合【文・和泉由希子】

風の噂は耳にした事があった。

同じ麻雀プロのA君B君と付き合ってるとか、C君と揉めてるとか。

恋多き女であるらしい。

確認してみたら、あながち間違ってもなかった。
しかし幸せな恋愛はほとんど無く、A君はDちゃんと浮気し、B君はストーカーになり、C君には殴られていた。

やはり麻雀プロと付き合うのはリスクが高い。

知ってる名前が沢山出てきたので、個人的にはとても面白いインタビューだったが、あまり書くと身バレしてしまいそうだ。

ここは、既に麻雀プロを辞めた、E君にスポットを当ててみよう。
彼女の仮名は「瑞稀」とする。

E君は地方のプロだった。
出会いは東京であったが、「こっちで一緒に暮らそう」と言われたので、瑞稀は勇気を出して飛び込んでみた。

初めは、彼の職場が借りてくれたアパートに住んでいたが、瑞稀が引っ越して早々に、彼が仕事を辞めてしまった。
二人は、彼の実家に身を寄せる事になり、母親と3人暮らしになった。

「もともとモラハラ気質というか、いつも俺様で、上からキレてくるタイプの人だったんですよ。最初は怒鳴り散らすくらいだったけど、だんだんと手が出るようになりました。
私、毎日ご飯作ってたんですけど、味噌汁の出汁が薄いとかで、いちいちキレるんですよ。味噌汁ぶっかけられたり、醤油の瓶で頭殴られたり、蹴りが飛んできたり。
んで、私が目の前でやられてるのに、お母さんは一回も止めてくれなかったですね。〝もー。瑞稀さんが悪いんでしょ。怒らせないでよ。“って。」

第5話の美咲を思い出した。
世の母親とは、そういう生き物なのだろうか。

「彼が雀荘で働き始めて、私はスーパーで働いてました。自分の麻雀にも、ものすごく自信ある人でね。〝俺は荒さんと同じくらい強い”って良く言ってました(笑)」

ちなみに彼はリーグ戦でもかなり下っ端であり、もちろんタイトルもなく、なんなら店での成績も負けていた。
しかしこれは、麻雀プロあるあるだ。
なぜか根拠のない自信に満ち溢れてるヤツは多い。
そして、自分の女に教えたがる。

仕事終わりに彼の雀荘に打ちに行くと、後ろから打牌をチェックされた。
店が終わって二人になると、「あの時、なんでアレ切ったの?」と聞かれる。
瑞稀なりの考えを伝えようとしたら・・・

サイドテーブルが飛んできた。
第二弾で椅子も飛んできた。

『おめーはそんな事やってっからダメなんだよ!』と怒鳴り散らされ、余っていたお茶もぶっかけられた。
聞かれたから答えようとしただけなのに、言葉を発してはいけなかったらしい。

結果、椅子の足が壊れたが、オーナーには「座ってたら急に折れた」と報告した。

基本、外面だけは良い男であったので、瑞稀を殴っている事など誰も知らず、相談しても〝ただのケンカでしょ”と笑い飛ばされる事が多かった。
味方が誰もいないようで、瑞稀はますます塞ぎ込むようになった。

しかし地方の狭い街である。
一度、暴力シーンをお客さんに発見された事があった。
『おい!なにしてんだよ!!え、女殴ってんの?いつもこんな感じなの?』と問い詰められていた。彼はなんかモゴモゴ言い訳していたが、瑞稀はもっと言ってくれと思っていた。
しかし『もう二度とすんなよ!』と諭されただけで、もちろん何も変わらなかった。

「最初は反論したり抵抗したりもしたんですけど、酷くなるだけなので、後半はもうされるがままになってましたね。大人しく殴られてれば、そのうち終わるんで。
身体の関係ももう全然無かったです。当然のようにセックス下手だし、触られたくなくて。
んで、コッソリお金貯めてました。貯まったら逃げようって決めてて、目標額に達したんで、夜逃げしました。」

正解である。
こういうヤツは絶対にすんなり別れてくれない。
なんだかんだ長引いて、こちらの傷が増えるだけだ。
もちろん変わってくれる事も無いので、安全な場所に逃げるのが賢い選択である。

そして、この後の話も、また凄かった。

「ウチね。そういう家系なんですよ。血筋っていうのかな?
お母さんもDVされてて、おばあちゃんもおじいちゃんに殴られてました。」

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