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女流プロねっとり観戦記②12月6日(魚谷侑未)【文・千嶋辰治】
【魚谷侑未のお辞儀】
40代の流れ派おっさんが本日ねっとり応援するのは魚谷侑未選手。
私ごときが改めて取り上げるまでもないほどのビッグネームですが、冒頭、どうしても同選手について語っておきたいことがあります。
ありがとうございますw RT @_higetter_: お客様のお見送りの際、ちゃんとエレベーターが閉じるまでお辞儀(角度は90度!)をする魚谷プロ。
— 魚谷侑未 (@yuumi1102) January 5, 2016
これぞ神対応!まさに神お辞儀! pic.twitter.com/4VFK6TpjD5
2016年に撮られた一枚の写真。
お客様が帰られる際に、エレベーターの前で深々とお辞儀をする魚谷の姿です。
エレベーターの扉が閉まってもなお、彼女は頭を垂れたまま。
この姿に、胸を打たれてファンになった方は非常に多いと思います。
その誠実な姿は対局中の表情にも垣間見られ、
この凛とした佇まいに、ファンは増える一方。
夫である宮澤太佑プロへのやっかみはとどまるところを知らないとか…。
ちなみに、キンマwebには、宮澤プロへ電話取材を敢行した記事があるので、興味のある方はご覧いただきたいと思います。
さて、2019シーズンのMVPであり、実績十分の魚谷ですが、今シーズンは若干苦戦気味。
本日の第1試合開始前のランキングでは、▲61.0の23位。
今日の開始前に、私の師匠でありMリーグの解説を務めている土田浩翔プロは、
「私が魚谷の麻雀の内容を観ている限り、160くらいはプラスしている内容で打っている。」
という評価を、実にシリアスに語っていらっしゃいました。
土田プロの見立てでは、これから上り調子になって、どんどんポイントを伸ばしていくとのことです。
皆さんに申し上げておきたいのですが、会話の端々に時としてあやふやなニュアンスを漂わせることがある土田プロにあって、今日のように極めてシリアスに内容を語っている話は、素直に信じておいた方が良いと私は思います。
その見立ては非常に正確無比。
この手の「予言」を外したことを、私は見たことがありません。
第1試合。
魚谷の内容がキレッキレ。特に、南4局のチートイツリーチは圧巻。
トイツ専門家の土田プロが「ツモる」と断言した、教科書通りの筋トイツ。
この和了を観て、今日は相当に出来が良いなと感じました。
すると、セガサミーフェニックスは控室にいる茅森を投入せずに、魚谷の連闘策。
連勝を狙う村上の存在が気になりますが、期待感が高まります。
【ドラ3】
まずは、その立ち上がり。
東1局でこの配牌。
今日は第1試合でチートイツを3度テンパイしていて、まさにトイツ日和の魚谷。
ドラのトイツを生かす手筋に向かいたいが…
トイツどころか、ドラを暗刻に!
他の部分がなんとも重たげながら、
マンズのカンチャンを両面に振り替えて、
このイーシャンテンに。
そして、絶好のカン7ピンを引き入れてリーチ。
しかし、待ちの4-7万は薄く、7万が山に1枚だけ…。
ただ、出来の良さは折り紙付きの魚谷なら問題なし。
最後の7万をツモり上げて、
裏ドラ3枚のおまけつき!
リーチツモドラ3ウラ3の倍満ツモでロケットスタートに成功しました。
【またもドラ3】
続く東2局。
魚谷の配牌に目を疑いました。
手牌の右側できれいに整列する7万たち。
今度は配牌でドラ暗刻の手を入れたのです。
対して、先ほど、倍満の親かぶりを食らった岡田でしたが、失地回復のためにこの局は積極策。
手の内はバラバラながらも、迫力ある2フーロで押さえつけに行きます。
しかし、早かったのは魚谷。
タンヤオドラ3のカン4万待ちでヤミテン。
今日の魚谷は、非常にツモが効いています。
牌が動く日は調子が良い日。
押し寄せる流れに乗って、この手も押し切りたいところ。
が、そこへ飛んできたのは村上。
場に2枚切れのカン5ソウを引き入れて意気揚々とリーチを放つも、待ちのドラはすでに売り切れ。
第1試合をトップで締めた村上。
こういう実らないリーチを放たねばならなくなってしまいました。
いつの間にか、圧倒的に分が悪くなってしまいましたね。
このリーチのおかげで
ピンズの一色に走っていた岡田がすぐに4万を掴むも、これが止まって魚谷への放銃回避。
そして、
その後村上が4万を掴んで、魚谷へ満貫放銃。
魚谷はなんとスタートからの2局で2万5千点を得て、持ち点を5万点に乗せます。
雲上人になっても真摯にかつ健気に戦う魚谷。
決して攻め手を緩めません。
【シャンポン即リーチ】
続く東3局。
この1・8ソウのシャンポンで即リーチ。
マンズの3456という連続形に見惚れて、思わず1ソウを切ってしまいそうになりますが、村上の河に必要な4万が2枚も打たれています。
さしもの魚谷とて、この巡目ならテンパイを外す選択を見落とすはずもなく、場況に合わせて先手を取りに行きました。
長考することなく、テンポよくリーチ。
この間合いの良さが、愚形リーチの香りを消し去っています。
この判断の早さこそ、集中できている証拠であり、出来の良い証拠。
その後で和了があるかどうかは、それこそ「運」の問題。
それよりも、ここまでの過程をどのように歩いてきたのか…
その内容こそが、麻雀に求められる力の違いだと私は思います。
この局は残念ながら流局してしまいましたが、鬼気迫る魚谷の親リーチに対して、他家は押し切られてノーテン。
例え何点持っていようとも、その表情に緩みは一切ありません。
【ダマ押し】
しかしながら、これだけ大差で点数を持ってしまうと、いつもの進行よりも少しだけディフェンシブにしたくなるのが人間というもの。
さらに、点数を持ってしまったがために勝負から逃げ、やがて精神的にどんどん追い込まれていくという経験は、麻雀をしていれば何度も経験することです。
しかし、魚谷は今日という日の自分の出来に自信…いや、「確信」めいたものを感じていたのでしょう。
彼女が逃げずに立ち向かう南2局の攻防を観て、私は鳥肌が立ちました。
魚谷の7巡目。
魚谷の河を良く見てください。
安全牌になりやすい字牌や端牌はすべて処理されて、このブクブクの手格好。
しっかり仕上げてやるという意思がそうさせています。
魚谷は、これまで自団体のG1タイトルである王位を獲得したほか、女流桜花、さらには日本プロ麻雀協会の日本オープン、女流モンド杯やモンド王座など、数々のタイトルを獲得してきました。
しかし、輝かしいタイトル奪取劇の陰で、涙に暮れるような悔しい敗戦を、その何倍も経験してきただろうと思います。
「攻めることをやめたら負け。」
数々の敗戦で学んだことの中で、きっとこのことも学んできたのでしょう。
いや、学んできたと言うよりは、体と心に痛みと共に刻まれてきた、という言葉の方が正しいのかも知れません。
魚谷の、この戦いに対する覚悟がいかばかりなのか。
麻雀の神様は、この局でそれをお試しになりました。
魚谷、タンヤオ三色のカン4ソウテンパイ。
極端に場に高いソウズ待ち。
一か八かリーチに行く打ち手もいるでしょうが、魚谷は冷静にヤミテンに構えます。
そこへまだ親番が残る村上からリーチ。
高い点数を打ち上げると、よもやの逆転の可能性を与えてしまうことになります。
さらに、風林火山の松ヶ瀬。
親の追っかけリーチが飛んできて、リーチに挟まれました。
リーチに行ってしまうのは簡単。
リーチの後に、どんな牌を引いたとしても、
「攻めた結果だから仕方がない」
という言い訳が出来るからです。
しかし、この手をヤミテンにして、リーチをかけた時と同じように危険牌を連打するとしたら、あなたは耐えられますか?
魚谷は、
どちらのリーチにも通っていないこの4ピンを引いて、
腹をくくるのです。
無筋の4ピンを打ち。
さらに村上に無筋の3ピンまでノータイムで河に放ちます。
最終的には、
村上の執念が実って決着がつきましたが、果たしてどれだけの打ち手が、銃弾飛び交う荒れ野を、ここまで全速力で走り切ることが出来るでしょうか?
自身の読みと経験に裏打ちされた、鋭利な日本刀のような切れ味を思わせる攻めっぷり。
私の拙い文章で、この魚谷の魅力を語りつくすことが出来ないのが実にもどかしいのですが…今日という日に、魚谷の「攻め切り」の場面を観られて良かったなと思います。
魚谷は今日の戦いに、素晴らしい「覚悟」を見せてくれました。
そしてそれは、土田プロが語ったように、今シーズンのこれからの活躍を予感させるものです。
魚谷がこれから登っていく王者への階段。
一歩一歩、その階段を踏みしめていく姿を、皆さんもぜひお楽しみに。
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