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白鳥翔について【文・長村大】

 今年も、モンド杯が開幕した。おれは去年、十数年ぶりに推薦枠として出場させてもらい、今年も引き続き出場することができた。収録自体は年始に終えており、あとは毎週火曜日の放送を残すのみである。
 その収録当日、おれを含め続けての出場となった選手、チャレンジマッチや推薦で新しく──あるいは再び──出場することになった選手が控室に集まる。なんだかんだで一年振りに会う選手もいたり、戦いの前とはいえ、和気藹々とした雰囲気ではある。

 その中でひときわ楽しそうにしている選手がいた。

 そいつはなんの前触れもなく、そして誰にというわけでもなく、そのわりにはやけに大きな声で「やっぱ麻雀めっちゃ楽しいですよね」と言った。
 何をかいわんや、だ。だからおれたちは飽きもせずに打ち続けるし、年甲斐もなくムキになる。だが、今さらそんなセリフを吐かない理由に、ある種の照れがないと言い切れるだろうか。
 そう、彼に照れはない、あるいはそんなことを意に介さない。年齢的にもキャリア的にも、もう若手といえる選手ではないにも関わらず。いや、なんなら今の麻雀プロ界の最重要人物の一人と言ってもいいだろう。

 白鳥翔、である。

 麻雀対局番組、といえばMリーグしか知らないという人も多かろう。だが、モンドの歴史は古い。おれが初めてモンドの番組に出させてもらったのが、もう25年以上前だし、もちろんその前から番組はあった。なにより、映像対局というもの自体モンドしかなかったのだ。
 おれは当時、有限会社バビロンの社員だったこともあり、選手でありつつ、番組の編集に立ち会ったり、VHSを見ながら原稿を書いたりしていた。VHS、巻き戻し、懐かしい言葉たち。

 最強位になる前の、まだ何者でもない──今だって何者でもないけれど──おれを使ってくれて、その後もいろんな番組に呼んでくれたモンド。だが正直に言えば、当時はその重要さがあまり理解できていなかった。それがわかるようになったのは、ここ最近のことだ。
「昔モンドで見てファンでした」「憧れてました」、今でも、何度もそんな言葉をかけてもらう。そしておれは、たくさんの人に見てもらっていたんだって感動しながら、でもなんだかだいぶ申し訳ないような気持ちになって「いやそんな大したもんじゃないんです……ありがとうございます」などとモゴモゴと返答するのだ。
 白鳥も数年前、そんな言葉を送ってくれた一人で、あまつさえサインを頼まれたのだ。おれが白鳥に、じゃない。Mリーガーの白鳥がおれに、だぜ。おれは笑っちゃったよ、書いたけどね。

 もちろんこれは意地悪な言い方だけれど、「ファンでした」「憧れでした」は過去形だし、社交辞令って言葉も知っている。でも、見ててくれた人がいるのは現実で、おれも皆と同じように現実を生きている。そもそも昔に戻りたいなんてまったく思わないし、デロリアンだってない。
 おれがイントロだと思っている現実は、ほんとうはアウトロかもしれない。でもそんなもんは曲が終わってみないとわからないし、いつ曲が終わるかなんて誰にもわからないんだ。
 3分間のポップソング、あるいは人生。ティーンエイジ・スーパースター、音を鳴らすんだ。
 

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