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松ヶ瀬隆弥という男【文・長村大】
真面目なやつ
特に待ち合わせ時間を決めたわけではないが、少し遅くなったかな、と思いながら階段を降りて店の扉を開ける。
いつもの場所──すなわち吉祥寺アンダーグラウンドバー、びーたんである。
目当ての男はすでにカウンターに座って、こちらを一瞥するでもなく店のモニターに映るMリーグ──もちろん風林火山は出ていない──を眺めている。
声をかけると、さも今気付いた、という風を装って挨拶などよこしてきた。
松ヶ瀬隆弥である。
Mリーグチーム・EX風林火山に今シーズンから加入し、すでにエース級の成績を残している男。
近代麻雀編集長のカネポンこと金本氏から
「松ヶ瀬さんのnote書いてもらえませんか?」
とのオファーをもらい、渾身の大爆笑おもろ原稿を書いたところ
「こういうのはいいです、真面目なやつにして」
とボツを食らったので、真面目なやつなら松ヶ瀬にちゃんと話を聞かなければ、と思いアポイントを取った次第である。
松ヶ瀬とはそれほど長い付き合いではない、せいぜいここ3~4年くらいであろう。この場所、つまり「びーたん」という最高位戦所属の曽木達志プロがマスターの店の常連客として知り合った。
以来、酒を飲みながら麻雀や料理の話──料理の割合のほうがだいぶ高いだろう──をしたことは数限りないが、こういう風にあらたまって話を聞くのは、なんだか照れくさいところもある。
あるいはそれは松ヶ瀬も同じだったかもしれない、いつもと違い、なんだか少しぎこちない感じでインタビューは始まった。
北海道の和食店
「そもそも北海道のどこなんだっけ?」
「札幌だね。東京来るまではずっと札幌」
「麻雀始めたのは?」
こんな不自然な会話があろうか。インタビュー下手か。
「麻雀は小学校のころからやってたよ。友達の家で放課後毎日やってたな」
なんでもメンツ全員が点数計算までできたらしい。嫌な小学生だ。
「中学くらいから近代麻雀は読んでたなー。高校出て料理の専門学校に入って、そのころから麻雀店で打つようになったんだよね」
ちなみに中学高校は柔道部で、二段まで取ったとのこと。見た目通り強い男なのだ。
「北海道の麻雀てどんなルールだったの?」
「けっこう違うよ。まず16000点持ちの20000点返しで、沈みウマなんだよね。あとは小タテ(三色同刻の小三元バージョン)があったり」
「どんな打ち方してた?」
「ひたすら真ん中に寄せてたね! とにかく早くテンパイして、みたいな。誰かに麻雀教わったりとかもまったくなくて、全部独学。でもけっこう勝ってたよ」
専門学校を卒業した松ヶ瀬は、某有名和食グループに就職した。
「そこはあまりにもキツかったから、半年くらいで辞めちゃったけどね。もうほんとうに職人の世界で、厳しいし給料なんて10万くらいだし、あれは無理よ。麻雀もやってたけど、この頃はそんなにのめり込むって程でもなくて。どっちかというとスロットばっかりやってたな(笑)」
その後、某大手居酒屋チェーンに就職、麻雀プロになって上京するまでの約10年はそこで働いていたというが、ここもまたキツい職場だったようだ。月の労働時間が400時間を超え、しかも残業手当も出なかったという。
「この頃は麻雀もあんまりやってなかったねー。というか、忙しすぎてできなかった。500席くらいあるデカい店の店長とか、その後は新店舗の立ち上げとかやってたけど、楽しいことなんて一つもなかったよ。
忙しすぎてちょっと鬱気味だったのかもしれない」
松ヶ瀬には悪いが、少し意外に思ってしまった。めちゃめちゃ真面目に働いていたんだな。いや真面目なのは知ってるのだけれど。
「でも近代麻雀はずっと読んでて、その頃誌面によく出てたのがルミアキだったんだよね。
で、30手前くらいかな、また麻雀よくやるようになってたし、とにかく仕事を辞めたくて、東京出て麻雀プロになろうと思ったのよ」
そのルミアキと、今はチームメイトなのだ。あまりにもエモい、エモ過ぎる。盛ってないか。
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