リーチの功罪(文・井出洋介)
私が女性麻雀教室の講師を始めたのは、満25歳になったばかりのことだった。
麻雀プロと呼ばれるようになったものの、仕事は原稿書きと大会のゲストが少々という状態だったから、講師の声がかかったときは喜んで受けると同時に、私も初めてなので色々なことを試させていただきたいと雇い主にお願いした。
最初の2年くらいの間、試行錯誤を繰り返す中で、初心者に教える順番はこれだという私なりのやり方をパターン化することができた。
その一つが、1翻しばりを教えるときの基本4役を「メンゼンツモ、役牌、ピンフ、タンヤオ」として、敢えてリーチを入れなかったことだ。
生徒さんにリーチを教えたほうが、ゲームは簡単にできる。だが、それだとなかなか他の手役を覚えてくれないのだ。覚えてもらってこその教室という思いから、テンパイしたらリーチ、とは教えず、メンゼンツモならいつでもアガれるが、ロンできるようにするためには手役が必要という状況を作ったのだ。そうすると、役なしテンパイから一手か二手で手役ができる手替わりを結構体験できる。そんな中で、ピンフ、タンヤオだけでなく、他の手役もある程度覚えてもらってから、ようやくリーチを解禁した。
そうなると皆、リーチをかけたがるのだが、それ以前に手替わりの経験をしているので、テンパイしたら”リーチをかけなければならない”とは思わないでくれる。
少なくとも、役がないからリーチというところまでいけば、役の概念がわかっていることになり、手役を覚えてくれる可能性も高まる。
自分が麻雀を覚えた時は子供だったから、好きなことを覚えるのは簡単だった。しかし、教室の生徒さんは高年齢層だったから、教えるほうも色々と工夫しなければならなかったのだが、今振り返れば、それが私にとってとても良い経験になっている。
私自身も、かつてはいくらでもリーチをかけていた。
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