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魔神の父の観戦記 Мトーナメント編⑤ 準決勝


1 渋川の強さって‼?

いやあ、正直言って渋川が、麻雀界を代表する52人のМトーナメントでベスト8進出を果たすとは思わなかった。
「渋川は強い」「息子の強さを信じろ」との声が周りでうずまく中で、私はもう一つ渋川の強さを信じ切れずにいた。

フリー雀荘で打ち合っていたころ、私は渋川が強いというイメージは余り無かった。だってその頃フリー雀荘で強い雀士というのは、

こんな、「強いぞオーラ」一杯のド迫力のつわものだったり

どこを見ているのか分からない目をした謎めいたお兄さんだったり

怜悧な刃物のように鋭く読んでくる学者風のおじさんだったりするのだったからだ。

それに対して渋川の雰囲気は

こんな感じ。とても強いとは思えない。
私もたまに同卓しても、特に分が悪いという感じはしなかった。

ただその頃、娘にこう聞かれたことがある。

「お父さんと渋君、結局麻雀どっちが強いの?」

私は答える。「同じくらいかなー。五分五分だね」

するといつもは温厚な渋川が強く両手を振って否定する。

「そんなことない‼」

「じゃあ6;4?」と私。「まあそれならいいよ」と渋川。
渋川の記憶は正確だ。
恐らく私の方が負けた記憶を飛ばしているんだろう。6対4は麻雀の世界ではかなりの大差。やっぱり渋川は私よりかなり強かったのだ。

ただ私には、渋川の強さの根拠がはっきり見えなかった。先の三人のような、迫力・ミステリアス・冷徹など、微塵も感じられない。
だから渋川が上京した後も、不安ばかりが先に立ったわけだ。
「勝算」の無い闘いはやるべきでない。だから渋川の「勝算」は何なのか考えてきた。そしていくつか見つけることができた。

「論語」にこのような言葉がある。
「知之者不如好之者。好之者不如楽之者。(これを知る者はこれを好む者にしかず。これを好む者はこれを楽しむ者にしかず。)」

「これ」を「麻雀」に直し、更に意訳すれば、

「麻雀のことを良く知っている人は、麻雀のことが好きでたまらない人には勝てない。麻雀のことが好きでたまらない人は、麻雀を心から楽しんでいる人には勝てない」

となる。これか‼これが渋川の力か。

麻雀を語る時、彼は実に楽しそうだ。
うん、「麻雀を楽しむ力」、それは確かに他の追随を許さない彼の大きな「異能力」かもしれない。

2 魔神の真骨頂、第一試合東2局

東の2局。渋川の、まさに魔神の一打が冴えわたる。

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