『Love Survivor』
#サクラ革命 #サク革飯 #長門なつみ
長門なつみ誕生日記念二次創作小説
『Love Survivor』
「へえ、いい感じじゃない!」
長門なつみが口笛を短く吹き感嘆の声をもらす。駅から歩くこと数分。表通りから少し入ったところ。古い日本旅館のような佇まいの建物が現れた。
産直鮮魚 釜飯 『魚釜』
「いまさらだけど、ドレスコードとかないよな?」
なつみはロックテイストのタンクトップとデニムのショートパンツ。9月も半ば過ぎ、日が陰ると涼しくなる。モノトーンのアニマル柄のパーカーを羽織っていた。司令は問題ないとは思いながらも、どこか緊張感をはらみつつ静かに店の引き戸を開けた。
果たして店員が司令からなつみに視線が泳いだのは一瞬、もちろん咎められることもない。店員に上着を預ける。敷石を配した床、黒を基調とした店内、明るい厨房を囲んだカウンター席に案内された。板前が食材の入ったバットを冷蔵庫から出し入れし、今日の仕込みの再確認といったところか。まだ開店直後で他の客はいない。なつみを先に座らせ、右隣に司令が座った。
なつみが少し顔を寄せて耳元で囁く。
「ちょっとドキドキしたな」
いたずらに成功した子供みたいに無邪気な笑顔を浮かべる。
店員からおしぼりを受け取り、食前酒の用意を確認される。なつみと視線がからみ、お互い首肯した。
『本日のおすすめ』
カウンターに広げられた筆で書かれたメニューを前に、その品揃えに自ずと口角が上がる。
「これと、それも、いいんだよな?」
なつみはちろりと上目遣いで司令の顔色をうかがいながら、熱心に注文を熟考している。
前菜:じゃこおろし。もずく酢。食前酒。
一鉢ずつ店員から説明をされているが、なつみの耳に入っているのか、はなはだ怪しい。
「よし。えっと、それじゃ、今オーダーいいですか?これとこれとこれ、それと最後にこれ、できます?」
店員はすかさず厨房の板前に確認して二つ返事でオーダーを通す。なつみはやり遂げたと鼻息荒く満足げな顔をしている。
「さてと、最初はさ、こういうのがいンだよな」
真っ白なじゃこおろしに醤油をまわしかけ、褐色の頂をちょんとつまむ。柔らかいシラスと粒の荒い鬼おろし。さっぱりとしておなかがよけいに減ってくる。
「そんじゃ一口。いい香り。ん?甘い、これは梅酒?」
お猪口をちびりとなめては猫のように表情をくるくる変える。
「あ、忘れてた。司令、乾杯。おつかれぇ、イエーイ!」
ニッと目を細めて笑顔を浮かべ、抑えめなボリュームの音頭で軽くお猪口を触れ合わす。司令は半口くらいで様子をみた。なつみは一息に飲み干した。
「は!それじゃ、早速もらっちゃおっかな。すいませーん!」
ひらひらっと手を振って店員を呼び止めメニューから飲みものを注文する。司令も同じのを、と頼む。
「もずくってさ、ぶっちゃけ飲み物だよな?」
なつみはもずく酢の小鉢を口元に運ぶ。グロスの煌めく口をすぼめ、
ちゅるり
と一気に飲み干した。司令もそれを見て真似をする。お酢の酸い香り、おろしショウガの辛み、とろっとした冷たいもずくの舌あたりが心地よい。
「な?」
そうこうしているうちに最初の料理が運ばれてきた。
刺身5点盛り。イサキ。天然ぶり。牡丹海老。生蛸。戻り鰹。
なつみの頼んだ飲み物も一緒に運ばれてきた。
『貴』 濃醇辛口純米
山口県宇部市永山本家酒造場。山田錦を十分に堪能でき、米の穀物感をしっかりと感じられる。後味はきりっと締まり、料理とあう。
「ふうぅ。辛口。いいねえ。ほら、食べよ食べよ」
司令がなつみと自分のさしちょこに醤油を注ぐ。イサキのクセが炙りによって旨みになる。大きめに切られたぶりはもっちりしてとろける。牡丹海老の跳ねるような肉質、味噌もたっぷりつまっておいしい。これはお酒がすすむ味。生蛸の上品な旨み、艶めかしい弾力をかみしめる程にうまい。 戻り鰹の肉の力強さ、この季節ならでは。
バン バン
なつみが司令の肩をしきりに叩いてくる。刺身を一切れ口に運んではグラスの酒を一口あおる。よほどおいしいのか言葉にならないよう。
「くはああン!うっめええ!」
司令も首肯してこたえる。なつみのうれしそうな笑顔に思わずつられてしまう。お刺身とお酒の相性、抜群に良い。
二皿目。
焼き物。館山産干し真さば
こんがりと飴色に焼けた艶やかな表面。
「すっげえ」
なつみはラメアイシャドウのひかれた眼をキラキラと輝かせ、真さばの頭の先から尻尾の先までじっくりと眺めている。
そして、徐にふっくらしたさばの腹身に箸を突き立てた。
身が塊となって、ほっこりとはがれると、ほわり 中からいい感じの湯気があがった。思ったよりも塊が大きかったか、なつみの興奮が伝わってくる。
「んんんん!あっつ!はっふ!」
熱々の塊のまま口に放り込んだ。口の中から湯気が立っている。手がワシワシと空をつかむような動きを見せる。
司令が空いたグラスに水を注ぎすすめる。しかし、手のひらを見せ、いらないの意思表示。水で冷ますのが安全だろうが、熱々のまま食べたいという葛藤か。
「ほふほふ!はふはふ!はふい!うンま!すっげ!」
酒のグラスを煽る。旨みの強いさばが日に干されたことでさらに味が凝縮される。じっくり焼かれて水分が飛び、身の中に熱がこもる。温度も美味。噛みしめるほどにさばの旨さが溢れる。
「司令は、皮もいける派?」
視線はさばから外さずに、身から大骨を丁寧に外していく。
「ありのはさ、お焦げは食べ過ぎると体によくないのよ、なんて言うけど。わかっちゃいるけどやめらンないって。なんなら皮だけでどんぶりいけるよ?司令は大目に見てくれる?うま!」
大骨についた肉を一本一本しゃぶりつくす。さすがは食べ慣れたもの、きれいに身と皮と骨をきれいに取り分けた。さばから滲み出た油で皮はパリパリに焼けている。心配するような黒焦げは見当たらない、熟練の板前ならではの火加減の技前。
なつみは満足げにこんがり焼けた皮をシャクシャクと平らげる。
「血合い、うま!ここのとこカマの裏、目のまわりも美味いんだぜ!うっめええ!」
なつみはじたじたと足踏み、身震いしながら、いつになく弁に熱がこもる。鼻息が荒い。カマのかたい骨の後ろを丁寧に掘り進むと、プリッとした塊肉がとれる。美味い。
酒のペースもだいぶ早い。店員を呼び止め新たな飲み物を注文した。
『東洋美人』限定大吟醸・地帆紅(じぱんぐ)
山口県萩市に所在する澄川酒造場が造る、山田錦を精米した大吟醸。果実のような爽やかな口当たり。米の旨みが感じられる上品な飲み口。ため息。
「司令、司令!あれ!あれ!」
なつみが興奮して指差す先、厨房の中では板前が大きなバットを広げている。一枚20cmはあろうか青い魚の半身がうずたかく積まれている。今まさに、この後の料理が目の前で仕上げられていた。なつみはまるで憧れのスターがステージに現れたかのように興奮し、うっとりと眺めている。ぽかんと半開いた口が塞がらない。
お待ちかねの3皿目。
〆鯖刺し身。
「いやっふー!これだよコレコレ!」
この店を選ばせてもらった目的が、この〆鯖。
青い背中に金属のような燻し銀の輝き。ルビーのような紅の身。飾り包丁の鋭角。まさに芸術品。
司令に先に食べて、とすすめられ、なつみは一切れを箸でとる。ちょんと醤油を軽くつけ、ゆっくりと、口の高さに持ち上げる。止まる。恍惚とした表情。半開きの口。垂れ落ちそうなよだれ。お行儀悪いといわれる手皿をそえているが、むしろその姿はさばへの畏敬、神々しくすら思える。
時間にしたらほんの数瞬、数秒。沈黙に耐えかねたのはサバの方か。つけた醤油がついと垂れ落ちそうになった。
なつみは、はっとして慌ててさばを口に運ぶ。
長門なつみが泣いている。
一筋の涙がほほを伝う。
カタカタカタカタ・・・
地震、というにはいささか大げさだが、振動していた。なつみが震えている。カウンターの下でハーフブーツが小刻みにビートを刻んでいる。
司令が、ちょんちょんとなつみの肩をつつく。なつみは我に返り、差し出されたティッシュで涙をふくと、声が漏れないように手で口をおさえ、
(これはなんですか?さばですか?とてもおいしいです。早く食べてみてください)
声にならない声と身振り手振りで必死に訴えてくる。
司令も一切れを箸でとり、しょう油をつけて口に運ぶ。
スンとした酢の香り、角のない爽やかさ。〆られていてしっとりとした身のはり。旨み。旨みが強い。
〆さば?
〆さば以上のなにか?
否。
これはまごうことなく〆さば。
なつみは顔を伏せ、音が出ないように静かにカウンターを叩いている。よくみると握った拳がサムズアップしている。よほど気に入ったらしい。喜んでいる。確かにこれは美味い。
「これは青い稲妻だぜ」
なつみは〆さばの最後の一切れを心底名残惜しそうに食べ終え、一息ついた頃。
4皿目。
焼きさば釜飯
この店の名物、羽釜の釜飯が運ばれてくる。木蓋を持ち上げると、
ふわあ
と、中から湯気が立ちあがる。思わず鼻から深呼吸してしまう。なつみはとろけるような笑顔。
湯気のむこう、目に入ってくるのはご飯を覆いつくす焼きさば。
炊き上げられふっくらとした身をくずすのがもったいない。
さっくり
すでに骨はとりのぞかれているとのこと、大胆に大きめにほぐして、コメの粒がつぶれないようやさしく混ぜ合わせる。
茶碗に盛る。
「いつまでもかいでられる」
茶碗の湯気にもうっとりとしているなつみ。司令に冷めないうちに、とすすめられる。
「ふおう!ほっふほふ」
口いっぱいにほおばり、サムズアップして、司令も早く食べろとせかしてくる。
焼きさばからでた旨みがたっぷりしみた薄茶の米。蒸らしたことでふっくらと柔らかい焼きさば。ほんのりおこげの香ばしさがさらに食欲をそそる。口の中で渾然一体となる幸せ。
「おいしかったあ!焼きさばの干物と焼きさば釜飯でかぶるかなって思ったけど、大正解だった!
最高に最っ高にCOOLだった!」
釜飯を一粒残らず平らげると、個室の予約客や予約なしの客が増えだし、そろそろ頃合いと見て会計を済ませて退店した。
すっかり夜の時間になり涼しいくらいだが、ほろ酔い加減にできあがった二人にはちょうどいい空気だった。
「なあ、司令。この際だからさ、教えてよ」
大通りへ続く手前の人通りのない小道。なつみがふらふらと司令の数歩前に進む。
「ねえ、どう思ってるの?」
ふりむかず言葉を投げかける。
「司令はどういうつもりなのかなって?」
大通りは車が行きかっている。
二人が言葉を待っている。
救急車かパトロールカーがサイレンを鳴らして遠ざかる。
「STOP! STOP! No,thank you.」
なつみが振り返って司令の言葉を手を振って制止する。
「わるい。アタシまだ今日を思い出なんかにはしたくない。
アタシは、華撃団に入ってよかったと思ってる。
しのたちだけじゃない。
めい、ゆう、アンジュ、べにし、やえ、りほにあおもだな。
ここにいなきゃ会うこともなかった。
でも、今は志を一緒にしたノリのいい仲間さ。」
なつみが司令の腕をひったくるようにつかんで強引に腕を組む。
「でもさ、アタシの方が、ずっとず〜っと前から好きだったンだからな!
え?
さばのことだよ!さ〜ば!」
二人が腕を組んだまま大通りにでる。
行きかう人の中にも腕を組んだカップル然とした二人連れが見える。
「アタシたちもこうしてるといい感じにみえるかな?
いくぜ!司令!Let’sPARTY !
Love Survivor !
I Love you !
SABA and You !
Rock 'n' roll !!!」
おわり
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