見出し画像

『Trigger for “Parfait“』

#サクラ革命 #サク革飯 #不知火りん

『Trigger for “Parfait“』
 
 
「司令、ほんとのところ、どうなんだ?」

 不知火りん。
 故郷熊本を守るため、たった一人で抵抗した怒れる狙撃手。今は帝国華撃団きっての頼れるスイーツハンター。
帝国華撃団司令とテーブルの上のお菓子をはさんで顔を突き合わせている。
司令といえど日々、劇場の仕事、華撃団の仕事、書類に日常の雑務など、途切れることなく業務に追われている。ややもすれば休憩なしに働きづめ、ということにもなりかねない。そんな司令をみかねてか、団員たちが頃合いを見計らって差し入れを持ってきてMMT(モグモグタイム)と称し、なかば強制的な休憩をとることが日課になっていた。
 さて、今日のスイーツは
 
 『山江のびっ栗だんご

画像1


 熊本県山江村の名物。もっちりした皮。二つに割ると

 ほわほわ

 中から蒸かし立ての証、湯気が立つ。うすい皮の下には餡子とやまえ栗がみっしりとつまっている。司令とりんが、
 はふはふ、ほふほふ
と熱さと格闘していた。
「いや、ふと気になったんだ。迷惑なんじゃないかって」
 司令はびっ栗だんごをほおばり、きょとんとしている。
「その、オレの趣向に、無理して突き合わせていたら、司令にも、お菓子にも失礼かと思ってな」
 司令はお菓子を食べ終えお茶をすすり、びっ栗だんごの余韻を味わいながら、りんの話を嬉しそうに聞いている。
「いや、愚問だったな。
その顔を見たら根っからのスイーツ好き、休憩好きなのは間違いなさそうだ」
 司令はまんざらでもない様子。
「まったく君ときたら……。
ま、司令となら究極のパフェを探す旅に出てみる、というのも面白いかもしれないな。フフ」
 りんがふとなにか思いついたか、口元に人差し指を添え思索にふけり始めた。
(緑がテーマならキウイフルーツ、ピスタチオアイスか。
 抹茶で和風もありか…)
ぶつぶつと独り言ちながら自分の世界に入り込んでしまった。
頃は9月の午後、日差しは暖かい。遠くでのんきに鳴く声はキジバトか。
「……は!もうこんな時間じゃないか!MMTは終了だ!司令、仕事に戻るんだ!」
 司令はりんの剣幕に慌ててお皿を片付けて仕事に戻っていった。
 
 
 あくる日。
  
「STOP!司令!WAIT!待ってくれ!」
 沈着冷静が売り物のりんが、普段なら見せたことがないほどに狼狽えている。
「ちょっと待ってくれ。ハートが追いつかない。こんな重い選択を、引き金を私にまかせるというのか?!」
 司令が静かに首肯し、りんに全てを委ねる、とこたえた。
「……わかった。後悔しても知らないからな!
しかし、こんなに標的に囲まれていては、さすがの私でも……。
く、どうしたら……」
 りんが苦悶の表情を浮かべる。二人にそっと近づく人影が話しかけてきた。
「お客様。説明が遅くなりまして申し訳ございません。
 本日、こちらのマンゴーパフェは品切れとなっております。」
「なンだと?!」

『THE Tokyo Fruits』

画像8

 駅から徒歩8分。オレンジのフードが眩しいフルーツパーラー。
司令に半ば強引に連れられてこられ、席に着いてからりんはずっとメニューとにらめっこを続けている。
司令は、りんと同じものを注文するから好きなものを選んでほしい、とはなから高みの見物を決め込んでいる。
「なんてことだ!
 いや、ここは前向きにとらえよう。標的が少なくなればそれだけ行動は狭まり、迷いを吹っ切れるというものだな」
 りんは眼を閉じゆっくり呼吸を整える。
 先ほどのエプロンドレスの店員が話を続ける。
「お客様、それとですね、今月のおススメはこちらのシャインマスカットパフェになっております。当店の1番人気になります。
 さらに、今週のおススメはこちらの長野パープルになっております。コーヒー、紅茶のお求めやすいセット、今のお時間でしたらランチとのセットもご用意しております。
 そして、本日特別におススメしたいのがこちらの限定……」
「待て!待ってくれ!待って!
う、司令、助けてくれ!」
 りんがちょっと半泣きになり司令に助けを求めた。
 
 司令が店員の話を参考にりんの好きそうなメニューを3つに絞った。
 りんがおずおずとそのうちの一つを指さした。

 程なくしてアイスコーヒーが運ばれてきて、数口飲んだ頃には、りんも落ち着いてぽつりぽつりと話始めた。
「すまない、司令。
 その、どうにも、決められないんだ。
 どれもおいしそうに見えて、もちろん実際おいしいだろう。
 それが頭のなかをぐるぐるぐるぐる……回りだすんだ。
 いや、その、ぐるぐるすら、楽しくあるンだが……」
 りんが雨に濡れた子犬のようにしょぼくれている。

「お待たせしました。」
 うなだれたりんの前にグラスが置かれた。
 グラスの足元からなめるように視線を上げていく。
 りんの暗く沈んだ顔にみるみる光がさしていく。
 
 『3種のブドウのスペシャルパフェ

画像2

 運ばれてきたパフェのその高さ。
 グラスの淵の遥か上までうず高く積み上げられた、まさに宝石の塔。

画像3

「こちらのブドウ、スペシャルパフェだけの限定フルーツ、ルビーロマンでございます。
 そしてこちらが長野パープル、その上にシャインマスカットとなっております。
大変崩れやすくなっておりますので、上のフルーツをいただいてから、下に食べ進んでくださいませ。」

画像4

 りんは目を見開き、口は半開きにして、ぽかーんとしている。
「う、あ……」
 司令から声を掛けられ、我に返る。りんが食べ始めるのを待っているという。
「わ、わかった。
いつまでも目に焼き付けていたいところだが、そうもいかないな。
もったいないがこの儚さもパフェの楽しみだ」
 りんは長めのデザートスプーンを手に取ってみたものの、どこから手を付けたものか、躊躇う。
(長野パープルの漆黒、
シャインマスカットの新緑、
ルビーロマンの炎、
これは難攻不落の熊本キャッスル?!)
 ごくり
リンののどが鳴る。
ええいままよ、頂上から攻略していくと決めた。

画像5

ルビーロマン。
緋色の皮の下に瑞々しい宝珠。
シャインマスカット。
翡翠のような薄い皮ごと食すはじける爽やかさ。
長野パープル。
芳醇な香りが強い、濃厚な果汁。
ブルベリー。
ブドウと異なる食感のアクセント。
クリームが濃厚。フルーツの甘さを引き立てる。
最初はパフェを崩さぬように慎重になっていた。
次第に慣れてきてペースが上がっていった。
 無我夢中。

フルーツの層が終わった。
(これは?!)

画像7

 その下から現れたのは、
 菫色の立方体。
 恐る恐る口に運ぶ。
 
 すわ
 
 舌の上でほどけた。
 アイスではない。シャーベットでもない。
 ブドウの果汁で作った雪。
 口の中で溶けて消える。
 さらに食べすすめると、手ごたえが違う。
 本来のパフェであればシリアルやアイスが中層を支えている。

 しゅわしゅわ
 
液体、炭酸水か。
(有明海上に浮かぶ、フライング熊本キャッスル?)
静かに泡立つ炭酸水を運ぶ。
マスカットソーダか?果汁が濃い。
そのなかのシャーベット状の塊。
こちらは柑橘系の爽やかさ。レモンか?

 こつ

スプーンが底に到達した。
そこにはリンゴか?これも甘みを抑えたソースが隠されていた。

(いまだ!狙い撃つ! トリガ フォ リバティ!)


画像7

りんは狙いすまして、長いスプーンの利点を生かし、底から一気に掬い上げた。
リンゴソース、レモン、ソーダ、クリーム、ブドウ、全ての味を一つのスプーンに乗せることに成功した。
ミニチュアのパフェがスプーンの上に建立した。
(パーフェクト…)
慎重に口に運ぶ。手が震える。
(はやるな、私の心!)
口の中で全ての味がうず巻く。
りんの鋼のように頑なだった心が、純白の天使の羽に包まれていく。
 
(心が、軽い。こんなにも自由なのか)
 
 
 りんが恍惚の表情で呆けている。
グラスはきれいに空になっていた。
言葉にならなかった。
(これが幸せというものか)

ふと、目の前に司令がいたことを思い出した。
司令も自分のパフェをすっかり食べ終えて頬杖ついてこちらを見ていた。
こちらを見ていた?!
「司令、ずっと、見ていたのか?」
 聞くまでもない。
司令はりんが幸せそうにひとりで百面相をしていた一部始終をみていたと、心底嬉しそうにいう。
りんは、みるみる顔を赤くしていった。
それは恥ずかしさか、それとも?
(司令は、スイーツが好きで、休憩がすき。
 それだけではないのか?
 引き金は自分で引け、そういうことか!?)

「司令、ほんとのところ、どうなんだ?
 オレは……!」


おわり。



いいなと思ったら応援しよう!