稲作創話「棚田物語」乙類03「トラクター物語②」ブルトラ1号との心中未遂事件
いよいよ3m落ちの心中を謀った「ブルー1号・トラクター」、略して、「ブルトラ1号」について、お話しすることができます。1号というくらいですから、仮面ライダーのように「2号」が居ます。(ブルトラ2号については、次回、こいつとも相性悪い私でしたという話をします。)
ではV3(ブルー・スリーではありません。ブイスリーと読みます。念のために)はというと、V3は「赤い仮面」ですので、私の場合、親父が乗っていて、彼がぼけてしまってからは私が愛乗している「レッド・トラクター」がそれに当たりますが、純粋の「赤」ではなくて、赤みかかったオレンジです。V3の赤い仮面の「赤トラ」といえば、もう、ヤンマーしかないでしょう!(って、そんなに興奮すること?)
9枚連なった棚田の下から2枚目から、1mほど上がった横の田に移るために、30度位の坂を上ろうとしたたきでした。培土板(ロータリーの後ろに取り付けて三角形で畝立てをするときに使う)を装填しておりました。30kgほどの重さとロータリーよりも低い位置に取りつけているので、いつものようには走れないのは知ってはいました。知ってはいましたが、焦っていたのでしょう、ギアをローではなくて、田で耕耘していた時と同じセコ(セカンド、つまり2速)に入れたままで登ろうとしたのです。30度ほどの坂を。
うちの棚田には、田から田に移るときに、これよりきつくて長くて狭い坂は、他にもあります。ありますので、大丈夫と思ったのでしょう。前輪が目指す坂を上りかけた直後、後ろの培土板がその坂の土に引っかかって、一瞬のこと、ブルー号は大きくウイリーし、ハンドルは無論効かず、ややその坂が左に傾いていたので、車体は左下、9番目の田の方向、3mの崖の方向に大きく傾き、そのまま、私と共に落下、のはずでした。
否、実際、このブルトラ1号も私も確かに一番下の棚田に落ちたのです。落ちたのですが、実は、この坂に差し掛かる30秒前に、私は不思議な予感を受けたのです。次の田に移るために田中(でんちゅう)をセコで坂に向かって走っているとき、
「もしもトラクターの前輪が上がり、車体が傾いて下の田に落ちる時には、素早く座席から立ち上がって、落ちる方向により遠くに大きく思いっ切り跳ぶしかないぞ!」と。
いったいこれは、何だったのでしょうか。そうなる予言、無意識からの、先祖からの、守護神からの、神様からの、宇宙からの、メッセージだったのでしょうか。ですから私は、坂に挑み、ブルトラ1号が落ちようとしたとき、どうすればいいか分かっていたのです。
そう、立ち上がって左に向かってなるべく遠くに大きく跳ぶ。
私は、お告げ通りに、席から立ち上がって(いったん少ししゃがんだかもしれませんが)、力を込めて、左に向かって、なるべく遠くに、大きく、「ライダー・ジャンプ!」。跳びました。
次の瞬間、私は崖から5mは離れた位置にうつ伏せで横たわっていました。そして、その次の瞬間、左足の小指の付け根に衝撃が走りました。ブルトラ1号のロータリー部分の端っこが落ちてきて、私の左足小指を強く踏みつける圧力を、私は感じたのです。
後は、静寂。静かでした。
「これで終わった」と、思いました。
そして、無事だったか、と。
それにしても、あのお告げは、だれからなのでしょう。確かに私は、それを聞いて(感じて)、そうなったら、そうしようと思ったのです。そして、その通りになり、その通りに跳んで、助かったのです。ブルトラ1号の下敷きにもならず、足の骨もおらず、どこもどうもなく。
トラクターの方も、落ち方がよかったのでしょう、ロータリーの補助輪をつける横棒が少し曲がったくらいでした。おらくそこから先に着地したのでしょう、そして、反転して私の左足の小指の付け根を反対側のロータリーの端が直撃したのでしょう。小指の付け根の辺りは、確かに痛かったのですが、内出血をするわけでもなく、腫れることもなく無事でしたが。
ブルトラ1号も、次の日に従兄弟と一緒に90度起せば、油漏れをするでなく、ロータリーが回らなくなるわけでもなく、キーを回せば機嫌よく動いて、一番下の田から、用心しながら順番に登らせられて、無事に家の倉庫にお鎮まり頂けました。
こうして、ブルトラ1号との死を覚悟のランデブー、抱き合い心中は、無事に(?)終わりました。
今でも、あの声の、あのお告げの主が誰だったのか、知りたいと思いますし、できれば、ブルトラが落ちるのとは反対の方向に跳べば、そこは、坂の横の小高い斜面だったのですから、5mも「ライダー・ジャンプ」しなくてもよくて、小指の痛みも感じずに済んだかもしれないので、あのご宣託の内容を恨んだりもしました。(この罰当たりめ!)
とにかく私は生きていました。
まだこの世に、やり残したことたあるのでしょうか。
次回は、ライダー2号のサイクロン号(トラクターだ、ちゅうの!)が暴走した、これも、終わってみればとっても怖い話をいたします。
ほんと、棚田でのお米作りは、まさに命がけです。そう、正しく悪の軍団ショッカーに立ち向かう仮面ライダー、本郷猛、一文字隼人のように(ジャン・ジャ)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?