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新婦のお父様の忘れ物
私、20代前半はホテルマンをやっておりました。
宴会、披露宴、結納、展示会、レストランやバーでも接客していたけれど基本的には“バンケット”と言われる宴席のサービススタッフ。
なので一期一会でどう「次もまた来たい!」と思っていただけるかが勝負どころ。披露宴のお客様としてサービスを受けてもらって「自分の披露宴もここでしたい!」と思ってもらうことなんてまぁめちゃくちゃ難易度高いと思うけどそれをやってのけるくらいの気前じゃないとダメ。
そんな一期一会なシーンで働いていると普通の飲食業よりハプニングに遭遇する確率が高いのでエピソードもいっぱいある。
今日はその中の一説。
とある披露宴で新郎新婦の親族卓を担当していたときのこと。バンケットでは親族卓の担当って多少経験を積まないと任せてもらえないポジションだったりする。
来賓への挨拶周りでビールを持って親御さんが席を立って帰ってこないケースも多く、そんな中お料理を用意してしまっても良いのか(単純に冷めた料理勝手に置かれてたら嫌でしょ)の確認だったり最後にお手紙の読み上げ&花束贈呈からの会場の外でのお見送りの流れがあって、お見送りした後は会場内片付けの修羅場モードになってるから会場内に戻ってこれない前提なので手荷物をその他親族に預けていただくご案内や花束贈呈の流れの説明ができなきゃいけない。
親御さんにとっても一生に何回あるかわかんないイベントだから、そこのご案内やコミニュケーションは超必須。親御さんが席を立たれた後に忘れ物とかあったら事だからご案内した後のチェックは入念に。
で、とある披露宴で親族卓を任されたとき、その忘れ物チェックでハプニングが起こった。
新婦のお父様の席で革靴の踵が落ちていた。
一張羅の革靴、久々に履いたせいで接着剤が劣化していたのかなぁ?
この踵どーすんよ、と思いながらなんとか「踵落ちてたよ」を伝えないといけないから咄嗟にトーションに包んだ。
トーションとはサービスマンが手に引っ掛けてる白いやつ。熱い皿を持つときとかワインとかつぐときに雫が垂れないようにするときとかなにかをこっそり渡したいときにそれを包んだりとか万が一のときに万能に使える布のこと。
トーションにしっかりと剥がれた踵を包み、会場の外に出てお見送り準備をしている新郎新婦と親御さんに神妙な面持ちというか、さも普通にあることですけど?という感じを演出するために毅然とした態度で駆け寄って私はこう告げた。
「お父様、踵をお忘れのようでしたが、いかがいたしましょう?」
と。
踵が剥がれたなら靴ごと捨てる(今日乗り切ったら終わりのパターンも想定できるじゃん)可能性のゼロではないから捨てても良いか持って帰るかの判断をしていただこうと思っての行動だった。
サザエさんで言うアナゴさんの「へぇ〜(びっくり)」みたいな感じでそのお父様は「じゃあ」と言って踵をつかんで燕尾服のポケットに入れた。
シュール系コントかよ!!!!
と思うくらい私の中では大好きなエピソード。
「披露宴のときお父さん一張羅の革靴引っ張り出したせいで踵剥がれちゃってたよね〜」と振り返ったときにほっこりしてほしいエピソード。
あの家族たち、今も仲良くほのぼの過ごしていてほしいな〜と私自身が思い出してほっこりしている。