2023年 第17戦 アース・モンダミンカップ
【初日】
「アースあたりでショットも前髪も整い、そして優勝」
このようにずっと予想(願望)していたところ、初日スタートから7番までになんと、5バーディ(ノーボギー)をもぎ取り、いきなり首位に躍り出た。前髪はしっかりキャップ収納されている。もちろん菊地絵理香選手のことである。あ、しかもこれ得意の完全なヤツに違いない。4日間一度も首位を譲らないアレだ。当然私は浮かれまくることになるのだが、ちょっと待てよと。もはやこれって私、予言者レベルじゃないの?そう思ったら突然なんだか怖くなり、外に行くのは危険だからと、午後の打ち合わせを1件キャンセルした。
ショットは差すしパットは入るの入れ食いで、ディフェンディングチャンピオンの木村彩子と神谷そらの組に張り付くつもりのカメラは、いつしか菊地絵理香専用カメラにスイッチ。
実況も解説も両手を上げてベタ褒め。ティーショットのスローモーションが2回も流れ、いかに良いスイングかを解説し始めた。これではいくら気を引き締めようとしても、こちらの浮かれだって止まるはずがない。
今回コースセッティングを担当した茂木宏美はいう。
「高い技術を持った選手たちがこれだけ集うと、どうしても厳しいセッティングにせざるを得ないんです。そこは選手にも観客のみなさんにもご了承いただきたい」と。そんなコースでこの状況。パトラッシュ、僕はなんだかこわいんだ。幸福の量が度を越すと恐怖に変わるんだと今日分かった。
しかし茂木のワナがたくさん張ってあったのは実は後半(INコース)だったのだ。9番でバンカー入れからの普通のボギーを打ったあと、10番で連続ボギー、そして続く11番でダボ。3Hでまさかまさかの4つ落としてしまう。マンガなどで、目の前の信じられない出来事に対して、目をこすって二度見という手法があるが、それをやった。さらに予言者として生きていく将来設計プランも見事崩れ去り、午後のアポ取り消したがまだ間に合うかな、、、など小パニックに陥る私。
結局、Today-2で19位Tでホールアウト。スタートが良すぎただけで、決して悪くない1日だった。いやいや、スタートが良すぎただけで決して悪くない1日だった。山下美夢有でさえToday-1なコースなんだから。しかし菊地選手にしては本日は出入りの激しいゴルフだった。きっと相当気合が入っていたのだろう。攻めた結果とポジティブに捉えることもできる。だから今日やられたホールすべて明日リベンジだ。
【2日目】
昨日最後に貼った、初日の上位約30人のリーダーボードにその人の名前はなかった。だが2日目の本日、完璧に軌道修正をして上位に顔を出すことを誰もが知っていた。そしてその通りになった。もう残り少ないであろう彼女の日本でのプレーを、我々は一瞬も逃さず目に焼き付けるべきだ。
さて2日目の今日。申ジエがToday-7、トータル-11で首位に立った。2位に岩井明愛、3位に川岸史果と続き、久しぶりに稲見萌寧が4位Tと上位で決勝に進んだ。
菊地絵理香はToday-3、8位Tのナイスラウンド。しかもノーボギー。これにより昨日やられたホールへのリベンジを見事果たしたといっていいだろう。明日からの決勝、トップの申ジエとは6打差あるが、まずは2位明愛の-8をとらえるのを第一目標に。ペアリングは3日連続となる大出瑞月、そして金田久美子。腰痛をおしての出場で、カップインしたボールを拾うのもひと苦労な金田だが、その体でこの難コースの予選突破はすごいこと。
ところで改めて思う。アース・モンダミンカップはすべてにおいて規格外だ。思いつくものをいくつか上げると、まず賞金総額が一般の大会のなんと3倍満。優勝すると一般大会の3勝分の5400万円が手に入る。そして配信は3chも使って予選は6:30から試合終了まで完全放送。あと参加する選手はもちろん、帯同するキャディにかかるすべての費用が無償なのだそう。コースではギャラリープラザの飲み食いはすべて無料。15番のTally'sももちろん無料。その他託児所完備で選手も観客も子連れで安心して参加できるよう配慮しているなど、広いレンジに向けて至れり尽くせりだ。大会会長の「海外メジャーに負けない大会にする」というメッセージが12年かけて浸透され続けている証なのだろう。こんなにも素晴らしい大会が電車でササッと行ける隣の県で行われているというのに、しかも某ゴルフ雑誌デスクから土曜日のプレス参加のお誘いまでいただいたというのに、さらに菊地絵理香がもしかしたらやってくれるかもしれないというのに。。。
【3日目】
菊地絵理香選手の練習写真を添えて、現地の某ゴルフ雑誌デスクから以下のLINEが送られてきた。「朝からステーキ丼と岩のりラーメン食べちゃいました。無料なんで。昼はピザとカレーの予定です。あ、タリーズコーヒーのスコーンはマストですけどね」
「うらやましい。しっかり仕事もしてくださいよ」と大人の対応で返したが手はわなわなと震えていた。
さて、スタートから最終組の硬直により、下の押し上げも相まって、3打差の中に12人がひしめく混戦模様な明日の最終日を迎えることになった。昨年の木村彩子は最終日6打差を逆転しての勝利だったが上位4人が全員コケた奇跡があった。しかし今年の上位者は猛者だらけなので、そのような奇跡はきっと起きないだろう。つまりトータル-6で首位と4打差の菊地絵理香の優勝の目はほぼ無いということだ。だが3日連続アンダーパーはたいへん立派で賞賛に値する。最終日悔いのないプレーを。
ところで最終組の硬直と言ったが、結果スコアを落としたのは申ジエと川岸史果の2人。もう1人の岩井明愛は後半2バーディを奪い、しっかり最終日最終組を死守した。明日は女王山下美夢有とダークホースとなるかサイ・ペイインと優勝を争う。3日目の今日は稲見萌寧の爆発が明らかに足りなかった。追撃にまだ迫力が足りないように見える。あと桑木志帆と佐藤心結、初優勝を見たいとしたらこの2人。順番からしたら佐藤か。すでにメジャーを制覇した同期の川﨑春花との差をここで詰めておきたい。
いや、違う。やはり勝って欲しいのは……
ゴー 菊地絵理香!
明日は9番でバンカーに逃げるな。池に入れてもいいからピンをデッドに狙っていってほしい。
【最終日】
気迫が違いすぎた。
-13でクラブハウスリーダーとなった申ジエ。スコアで並ぶ岩井明愛の18番グリーンを座って見つめていた。明愛のパーパットがカップに落ちると同時に無言で立ち上がりコースへ戻る。ついさっきまで笑顔まじりでグリーンを眺めていたまなざしは、獲物を狙う虎のそれに変わった。「スイッチが入る」という言葉をよく聞くが、そのスイッチが入る音が画面から聞こえたのは初めてだった。虎は予定通り獲物をプレーオフ1ホール目で仕留めた。開幕戦に続いて今季2勝目。JLPGA通算28勝、永久シード獲得まであと2つ。
おそらく本戦の18番をみていた観客、視聴者は、パー5を明愛がバーディで上がって優勝するんだろうなと思っていたのだろう。もしかしたら申ジエも半分くらいそのように思っていたのかもしれない。しかし本当にゴルフは終わってみないとわからない。
最終日最終組、絶対女王の人間宣言により、前半はサイ・ペイインと岩井明愛が首位争いをすることとなる。11番までに4つ伸ばした明愛が2位に3打差をつけたところで勝負アリかなと思われた。しかし明愛が終盤まさかの連続ボギーを叩き、それと同じタイミングで連続バーディを決めた申ジエが逆転に成功する。だが明愛も17番、意地のバーディで申に追いついて迎えた18番だったのだが……
絶対女王をはじめ岩井姉妹など、20歳そこそこの若い選手たちが技術はもちろん、ときには鋼のメンタルを見せつけ現在のツアーを席巻しているが、今日という日は、その少し高く長く伸びてしまった鼻っ柱がへし折られた日だと記憶しよう。もちろん良い意味でだ。「私たちもまだまだだな」という気持ちで全米に旅立たせた申ジエの功績はあまりに大きい。
さて、そしてそして菊地絵理香である。私はまず昨夜の「首位と4打差の菊地絵理香の優勝の目はほぼ無い」と書いたこの発言を謝らなければならない。Today-6、なんと単独3位でフィニッシュ!しかも申ジエの本戦18番のパーパットが決まるまでクラブハウスリーダーだったのだ。生観戦をしていたところにまたデスクからLINEが届く。練習場でパット練習をする菊地選手の写真とともに「プレーオフ準備ちぅ〜」と。「分かってます。見てますから」と光速で返信。なにぃ、今日も現地だったのか。仕事とはいえうらやましい。ぐぬぬ……。おっと話を元に戻す。それにしても2年前のチャンピオンはこのコースを熟知していた。難度Sの16番で本日3人しかいないバーディをゲットすると、続く17、18番も連続バーディ。結果、残念ながらプレーオフは叶わなかったが、ホールアウト時の表情が今大会の充実度を物語っていた。正直5日間大会だったら勝っていたに違いない。メルセデスポイントも135pt上乗せして、これでランキングも31位へジャンプ。いま私は、昨年リコーカップを観戦した後と同じような気持ちでいる。優勝はしなかったが、きっと彼女の思う通りのプレーができたんだろうなと思えたからだ。この調子を維持し、全米全英で香ばしい連中が留守の間になんとか1勝してもらいたい。
最後に、本戦18番の申ジエがパーパットを打つ直前に「外せ!」と呪いをかけましたことを懺悔する。