怪我
時々Eさんに電話をした。MⅯさんたちのことを教えてもらいたかった。10周年の時もそうだった。
「あいつ、怪我して入院している。」
私はすぐにお見舞いに行きたくなった。きちんと話して説明しようと思った。まるでチャンスのように思えた。
病院を聞き出し、友達と一緒に見舞いに行った。ソファーに座ったⅯMさんはそれは気さくな態度で接してくれた。
本当はその時すぐに分かった。リラックスした態度は演技だったことを。それは私が見たことの無い態度だった。
別の女性と付き合うようになって、こうした穏やかな表情を持つようになったことを、瞬時に気づいた。
彼はまるでその恋人に話すように優しく怪我した時の話を聞かせてくれた。でも彼はだれがこの場所を私に教えたのか探ることに注意を払っていた。
今となってはとしか言いようが無いが、あの時はMⅯさんの不自然な態度よりも私が許されたと思い込んで舞い上がっていた。
「また来てもいいですか。」
彼はうなずいた。そしてすぐに
「でも仕事もあるから。」
と言い直した。
きちんと説明したいと思った。彼の態度は曖昧だったけど、自分自身を制御できなかった。
今度は一人で行った。病室のベットに座って入院中に知り合いになった友人と話していた。友人が帰った後を見計らって部屋に入った。私は親しげに手を振って近寄った。
彼は一瞬迷惑そうな暗く沈んだ顔を向けると背を向けてうつむいた。私の手も笑顔も凍りついた。
気づきながらもそれでも直接伝えたかった思いは叶うことは無いことに今更気づかされた。
それでも果敢になにか話しかけ続けていると、MⅯさんが
「下に行きましょう。」と言った。
病室を逃げるように飛び出して早足で歩いていると、後ろからゆっくり歩いているⅯさんに気づいてあわててⅯさんの後ろに回った。
エレベーターを出るとⅯMさんは降りなかった。
「もう会いたくありません。迷惑ですから来ないでください。」
乾いた声だった。ここまで言わせるような行いをした自分にもう
ⅯMさんにはなすすべが無いことを痛感した。
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