スイス旅行、グリンテルワルト

グリンテルワルトに入ってすぐ目の前にそびえ立つアイガーを見た瞬間私は叫んだ。

 「あ!ここにお兄ちゃんがいる!!」

 お兄ちゃんの魂はこの山にいる、そう確信した。

 グリンテルワルトのユースホステルは満員でホテルを探した。安いホテルも満員で少し高めのホテルに泊ることになった。

 二部屋とり、男女に別れた。食事はレストランで済ませた。明日はアイガーからの朝日を見ようと言った。アイガーからの日の出は観光スポットの目玉だ。MⅯさんから「明日の朝起こしてくれる?鍵開けておくから。」と言われた。私は「最近あまり眠れてないので、起こせないかもしれません。」と答えた。

 私が目覚めたのは朝の五時半だった。Kさんは夢の中だった。私はベットを抜け出し男部屋へ行った。みんなぐっすり眠っていた。私は彼らの耳元に近づき、「朝ですよ。まだ暗いですよ。先に行ってますね。」とささやき、朝日の綺麗に見える地点に一人で向った。

 しばらくするとEさんが一人でやってきた。私達は並んでアイガーからの日の出を見た。アイガーの氷が光でキラキラと輝きそれは
美しかった。MⅯさんは来なかった。ついに太陽がすっかり昇っても来なかった。「おかしい。絶対に寝てる。」Eさんに言い残すとホテルへ戻り男部屋に入った。すると起こした時と全く同じ恰好でⅯMさんとCさんが寝ていた。
 
 「なにしてるんですか。ちゃんと起こしに来たじゃないですか。」「まだ暗いって言ったから。」「二度寝は絶対にだめですよ。せっかく綺麗だったのに。」私は小言を言うと部屋を後にした。

 ところが女部屋には鍵がかかっていた。Kさんがどこかにでかけてしまったらしい。私はラウンジに一人ぼーっと座っていた。するとⅯさんが着替えて降りてきた。「どうしたの。」「ああ、そうか、じゃあここで今日の予定を決めよう。」今日は単独行動の日で、ユングフラウヨッホへ行く予定だった。彼は時刻表を片手にいろいろアドバイスを提案してくれた。

 ふいに、「俺末端冷え性でさぁ、手足とか冷たくなるんだ。」と言った。「ちょっと触ってみて。」指先はなるほど氷のように冷たく冷えていた。足先にも触れてみた。「温かいもの飲んで靴下はいた方がいいですよ。」

 Kさんが戻ってきたので、部屋にひきあげ、パッキングして服を着替えた。行動に必要の無い荷物を袋に詰めて移動用のレンタカーに積もうとキーを取りに男部屋に行った。

 男部屋にはCさんがいて、Eさんはシャワーを浴び、MⅯさんは駅へ行っていた。

 キーはEさんの胸ポケットに入っているはずだった。ところがどこを探しても見つからなかった。Cさんと二人で思い当たる場所を探してみてもどこにもなかった。

 「ⅯMさんがあんな近くの駅まで車で行くはずないですしね。」今から思えば思い込み発言だったと思う。

 結局キーが見つからなかったので、Cさんに荷物を頼んで部屋を出た。すると、廊下の向こうからMⅯさんがこちらに向って歩いてきた。私に気づくと「なにまだ出発してないの?」というけげんな顔をした。手にはキーを持っていた。

 「車のキーを」と言いかけるとぶっきらぼうに投げたので、廊下に落ちた。あぜんとしていたら、MⅯさんは拾い上げて手渡し、私は男部屋から荷物を運んだ。

 トランクに荷物を入れると、隠し場所にキーを入れた。ところが間違った場所だった。

 駅に着くとほとんどが日本人観光客だった。

 ベンチに腰掛けていると、日本人の女性が隣に座った。ご主人の仕事でずっとスイスに住んでいて今日は休みを利用して観光に来たと言う。

 彼女と別れてからクライネ・シャイディック行きの列車に乗り、そこの向いにも日本人が座った。新婚旅行の夫婦とご主人の母親と兄のご家族だった。会話は大変弾んだ。お母様が、「おたく大学はどちら?」と聞いてきた。「東京女子…」と言いかけると、彼女は首を振って「知らない」と答え、お兄さんは「トンジョね」と笑った。彼らとは途中の駅で記念撮影をして別れた。

 列車を乗り換えても向いに座ったのは日本人女性の二人組みだった。彼女達は3ヶ月休暇を利用してイタリアやフランスなどゆっくり観光しているのだと言う。ユングフラウヨッホからグリンテルワルトまで行動を共にした。

 ユングフラウヨッホから山小屋まで向う途中にアイゼンを着けザイルを背負った3人組パーティーがたくさんいた。彼らは様になっていてとてもかっこよく、あるパーティーを引き止めて写真に収まってもらった。山小屋では地上と同じくらいの豪華さでトイレの機能には感嘆した。

 幸運なことに晴天だった。アイガー、メンヒ、ユングフラウの雄姿は全てのことを忘れさせてくれる神々しさがあった。

 晴天に恵まれることは珍しいそうだ。幸運に感謝した。

 ユングフラウヨッホにはポストがあって、投函できるようになっている。感動の全てを書き連ねて自分宛に送った。

 「きんぎょさま。23歳の最高の夏休みを覚えていますか。この胸の高鳴り、感動は全てあなたの宝物です。今までの行いのご褒美です。まだまだ未熟なあなたに再びどこかでこの感動を味わえるためにも今の課題をまっとうしてください。本当に苦しいことが起こっても負けずに乗り越えることこそが喜びであるということを実感しています。大好きなあなたへ、あなたの味方はすぐそばにいつもいます。この便りを読んでいるあなたが、心穏やかで充実した日々を送っていることを祈って…」

 グリンテルワルドに帰ってから3人でハンバーガー屋さんに入って休憩をした。ハンバーガーは待てど暮らせど来なかった。メンバーとの待ち合わせ時間が迫っていて、私はソワソワしてしまいハンバーガーどころではなくなった。結局ハンバーガーの料金を置いて
「私の分も食べてください。」と言い残し、店を出た。

 店から出て時間が過ぎてもメンバーが集まらずイライラした。
しばらくして私たちは合流し、今度はユースホステルに宿を取った。

 荷物を置いて町に出て、新婚旅行中のS夫妻と合流した。その日はみんなで食事をする予定だったが、Sさんが一旦ホテルに戻りたいというので、出直した。ホテルの下に行くと、Rさんが一人ベランダで私達を待っていた。「今日は疲れちゃってだめみたいだから明日お願いします。」
 我々が来るまで新妻を外に出させて伝言伝えさせるワガママぶりに腹が立った。
 「疲れた体で部屋になんて戻ったら出てこられなくなるの当たり前ですよ。男の人ってどうしてあんなワガママなんですか。」
 怒りをⅯMさんにぶつけた。

 そのとき既に尋常でないくらいの症状に進んでいた。たくさんの前世たちからのメッセージが届いているようだった。相変わらず眠っていなかった。だんだん短気になっていった。

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