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「新型コロナ、軽症向けの経口薬開発が本格化、国内の開発状況は?」

TONOZUKAです。



新型コロナ、軽症向けの経口薬開発が本格化、国内の開発状況は?

以下引用

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽症患者に経口投与できる治療薬の開発が本格化している。複数の治療薬について臨床試験が実施され、選別が進んだことで、後期臨床試験入りする治療薬が出てきた。早いものでは、2021年内にも初期の結果が示され、承認申請につながると期待されている。国内の開発状況をまとめた。

 軽症患者向けの治療薬として国内で承認されているのは、現時点では抗体カクテル療法の「ロナプリーブ」(カシリビマブ/イムデビマブ)のみ。ロナプリーブは、COVID-19のパンデミックを受けて、米Regeneron Pharmaceuticals社が創製した2種類の中和抗体であり、同社がスイスRoche社と開発した抗体医薬だ。国内では2021年7月、中外製薬がロナプリーブの特例承認を取得した。

抗体医薬の課題は投与時、製造量、薬剤価格

 ロナプリーブの対象は、50歳以上や肥満・糖尿病といった重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない軽症から中等症Iの患者。当初は、供給量が限られるとして入院患者のみが対象だったが、その後、宿泊療養施設や外来での投与も認められることになった。ただ、重症化リスク因子のない患者や症状を呈していない無症状者は投与の対象から外れる。加えてロナプリーブには、投与時、製造量、薬剤価格などに課題があるのも実情だ。

 まず、投与時には、数十分をかけて静注(米国では皮下注も承認済み)することが必要で、アナフィラキシーなどに備えて投与後は患者の状態を観察する時間も要する。また、抗体遺伝子を組み込んだチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を培養、精製して製造するため、製造量を増やすには培養槽の確保や製造技術の移転が必要になる。化学合成できる低分子薬とは違い、そんなに簡単には製造量を増やせない。

 さらに、薬剤価格も低分子薬ほどは安くない。米国でロナプリーブの緊急使用許可(EUA)を受けているRegeneron社によれば、同社の米国政府への納入価格は1回分当たり約2100ドル(約23万円)に上る。日本では、中外製薬が日本政府との合意に基づき供給しており、納入価格は明らかではないが、「米国の納入価格を大幅に下回ることはないだろう」と業界関係者はみる。

 感染力が強いデルタ株の感染が広がり、国内の感染状況は楽観できない状況だ。全国の感染者数は、2021年8月上旬から1万人を超える状況が続いている。重症患者向けの最低限の治療薬はそろってきて、重症化リスクを抑える治療薬も出てきたが、重症化リスク因子のない軽症患者に投与し、症状のある期間を短縮するような治療薬はまだない。国内でCOVID-19の診療に当たる医師は、「無症状や軽症の患者に広く処方し、自宅や療養場所で経口投与できる抗インフルエンザ薬のような治療薬があれば……」と話す。

臨床試験での選別が進む経口投与の治療薬

 入院していない軽症患者に経口投与できる治療薬の開発は、2020年春以降、世界中で進められてきた。ただ、2021年に入ってから国内では、臨床試験を実施したものの、効果が認められなかったり、安全性に懸念が生じたりした複数の治療薬が開発競争から脱落した。

 小野薬品工業は、2021年6月、無症状から中等症のCOVID-19の患者を対象に実施していたセリンプロテアーゼ阻害薬「フオイパン」(カモスタット)の第3相臨床試験で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が陰性化するまでの期間に設定されていた主要評価項目を達成できなかったと発表。カモスタットの開発を中止した。また、第一三共も、2021年6月、健常者を対象に実施していたセリンプロテアーゼ阻害薬のナファモスタットの新規吸入薬の第1相臨床試験で、「安全性に懸念が認められた」(第一三共の広報担当者)として開発を中止した。

 現在、日本でそう遠くない時期に承認申請される可能性がある経口投与の治療薬は幾つかに絞られてきている状況だ(表1)。そのほとんどが、ドラッグリポジショニングで既存薬をCOVID-19向けに転用して開発しているものだ。中には、COVID-19向けに新たに創製されたものも含まれている。経口投与の治療薬は、世界中で日々創製・開発されており、基礎研究段階、非臨床試験段階にあるものも多いため、今後日本で承認申請されるものも徐々に数が増えるだろう。その意味では、あくまで第1弾という位置付けではあるが、現在国内で臨床開発が進んでいる、経口投与の治療薬の顔ぶれを見てみよう。





富士フイルム富山化学のファビピラビル(T-705)は、RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害して、ウイルスの増殖を抑制する経口薬であり、国内では、新型または再興型インフルエンザウイルス感染症を効能・効果として承認されている。COVID-19に対しては、非重篤な肺炎を有する患者を対象とした単盲検の第3相臨床試験で有効性が示されたとして承認申請がなされた。だが、2020年12月、「現時点で有効性が明確に判断できない」として継続審議になった。富士フイルム富山化学は2021年4月から、重症化リスク因子を持つ50歳以上の発症早期の患者300例以上を対象とした第3相臨床試験を進めており、同試験の結果を踏まえて改めて承認申請を行う計画だ。

 中外製薬が開発中のAT-527/RO7496998は、RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害して、ウイルスの増殖を抑制する経口薬である。当初、米Atea Pharmaceuticals社がC型肝炎向けに創製し、臨床開発が進められていたが、基礎研究でCOVID-19へ効果を示す可能性が示唆され、開発が進められている。現在は、日本を含めたグローバルで、入院をしていない、軽症から中等症の患者約1400例を対象に第3相臨床試験が進んでいる。2021年内に速報結果が出る見通しで、有効性が認められれば、2022年にも承認申請される予定だ。

 MSDが開発中のモルヌピラビル(MK-4482/EIDD-2081)は、体内で活性代謝物に変換された後、RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害して、ウイルスの増殖を抑制する経口薬だ。もともとは米Emory University傘下の非営利企業である米Drug Innovation Ventures(DRIVE)社において、インフルエンザウイルス感染症などRNAウイルスが引き起こす感染症を対象に創製され、開発されていた。COVID-19に対しては、DRIVE社から米Ridgeback Biotherapeutics社がMK-4482/EIDD-2081を導入し、その後、米Merck社と提携して開発を進めている。現在は、日本を含めたグローバルで、入院をしていない軽症から中等症の患者1850例を対象に第2/3相臨床試験が進行中。2021年9~10月には最終結果が出る見通しだ。

COVID-19向けに新規に創製された治療薬も臨床試験入り

 ファイザーが開発中のPF-07321332は、3CLプロテアーゼを阻害して、ウイルスの増殖を抑制する経口薬。米Pfizer社は、2002年から2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を受け、コロナウイルスを標的とした3CLプロテアーゼ阻害薬の研究に着手した。そして、第1世代の3CLプロテアーゼ阻害薬としてある化合物(PF-00835231)を創製していた。COVID-19に対しては、同化合物のプロドラッグであるlufotrelvir/PF-07304814を、入院患者向けの静注薬として開発している。さらに、第2世代の3CLプロテアーゼ阻害薬として新たに設計されたのが経口薬のPF-07321332だ。

 現在は、重症化のリスクが高く、入院をしていない症候性の外来患者3000例を対象にPF-07321332とリトナビルを併用する第2/3相臨床試験がグローバルで進んでいる。並行して、重症化のリスクが低く、入院をしていない症候性の外来患者1100例以上を対象にPF-07321332とリトナビルを併用する第2/3相臨床試験もグローバルで進行中で、「今後、いずれの臨床試験にも日本の被験者を組み入れる予定で、現在準備を進めている。2021年第4四半期にも初期のデータが得られる見通しだ」(ファイザーの広報担当者)。

 興和は、イベルメクチンの開発を進めている。イベルメクチンは、北里大学の大村智特別栄誉教授とMerck社が共同で創製した経口投与の抗寄生虫薬。国内ではMSDが腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として承認を取得し、マルホが「ストロメクトール」(イベルメクチン)として販売しているが、既に特許は切れている。COVID-19に対しては、世界中で複数の臨床試験が実施されているものの、現時点ではCOVID-19への有効性や安全性について、臨床試験で明確なエビデンスは示されていないのが実情だ。興和は、国内で軽症患者を対象に第3相臨床試験を始めたところで、「2021年9月中旬にも投与が開始される見通しだ」(同社の広報担当者)。第3相臨床試験で有効性が確認されれば、興和が承認申請を行う計画としている。

 まだ早期開発段階ではあるが、COVID-19向けにゼロから創製された治療薬も出てきた。

 塩野義製薬が臨床開発に着手したS-217622は、3CLプロテアーゼを阻害して、ウイルスの増殖を抑制する経口薬である。同社は、「スピードを重視し、低分子薬やペプチド医薬、抗体医薬など、SARS-CoV-2を阻害する複数のモダリティの開発を同時並行で進めていた。その中で、活性や安全性を担保できる開発候補として最初に出てきたのが低分子薬のS-217622だった」(同社の広報担当者)。同社は2021年7月から国内で、健常者を対象とした第1相臨床試験を開始した。通常、製薬業界において、ゼロから創製された新規の低分子薬の臨床試験を開始するには、少なくとも5年以上かかることがほとんどだ。しかし同社は、1年程度で臨床試験の開始までこぎつけており、業界でも驚きが広がっている。同社は臨床開発と並行し、商業化後を見越した製造体制の構築も進めているという。

 もっとも、治療薬の開発には課題もある。最大の課題は安全性だ。軽症患者に経口投与できる治療薬は、外来で幅広い患者層に処方され、莫大な数の患者が服用する可能性が高い。それゆえに、高い安全性が求められる。今後、後期臨床試験や市販後により多くの患者に投与されることで、これまで把握されていなかったまれな副作用が見つかることも考えられる。有効性はもちろんのこと、多くの患者に投与された際にも安全性を示すことができるかどうか、今後の臨床試験の結果が注目される。






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