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「三密、検査内容の開示拒否、野放しの新型コロナPCR」

2021/06/28


TONOZUKAです。

三密、検査内容の開示拒否、野放しの新型コロナPCR


以下引用

 加速度的に進行しているワクチン接種がこのまま続けば「元の世界」に戻れるのでは?という楽観論が世間からちらほらと聞こえるようになってきたが、医療者としてはそういう意見に同調するわけにはいかない。

 ワクチン禁忌者(打ちたくても打てない)やワクチン忌避者(打てるけど打ちたくない)も一定数存在する上、ワクチンを接種しても抗体が形成されず予防できない人も少数ながらいるだろうし、今後既存のワクチンでは効果がない変異株が登場する可能性だってある。

 よって、市民からみれば、簡単で正確で(できれば)無料のPCR検査がいつでも受けられる体制が望ましい。今回は、当院で経験した事例を紹介し、現在のPCR検査の問題点を整理し、今後のあるべき姿を探っていきたい。

 その前に触れておかねばならない問題がある。PCR検査をどこまで広げるべきかだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は無症状でも感染させる可能性があることが指摘された2020年2月の時点で、僕自身は「検査は希望者全員にすべき」という考えを主張した。しかし、当時はこの意見は少数であり、多くの識者は「検査は重症例に限定すべき」という立場だった。

 感染症拠点病院の医師の立場に立てば、貴重な病床を軽症者(や無症状者)に使うわけにはいかないから、「陽性即入院」の規則下では「検査を絞れ」と考えるのは理解できる。他方、僕らのように、軽症も含めて「コロナかもしれない……」と不安を訴えてくる患者を診ている立場からは「(偽陰性の可能性を理解してもらった上で)希望通り検査をすべきではないか」という考えになる。

 当時は軽症のみならず「重症」例も検査を拒否されていた。当院から保健所に繰り返しお願いしても検査を拒まれ、やむを得ず“不明熱”という名目で大きな病院に入院させてもらい、入院後にコロナ陽性が判明した事例は過去の連載(発熱患者の診療拒否で行き場のない患者が続出)でも紹介した。

 そのような状況の中、当院では検査会社に交渉し独自でPCR検査を担うことにした。検査会社によれば当院が大阪で初めてPCR検査を開始したクリニックだったらしい。当初は臨床的にCOVID-19を疑う事例のみに絞るつもりだったが、過去のコラム(「渡航先の入国審査でPCR陰性証明が必要なんです!」にどう対応すべきか)で述べたように、「生き別れた夫に二度と会えなくなる……」と訴えた、夫をインドネシアに残して一時帰国していた妙齢の女性からの訴えがきっかけとなり、海外渡航者に対するPCR検査も開始した。

 パニックはすぐに訪れた。検査の対象を「当院をかかりつけにしている患者もしくは海外渡航者のみ」としたのだが、「どこからも断られている。なんとか検査をしてほしい」という依頼が相次ぎ、当院の電話回線はパンク。通常の診察にも影響が及んだ。依頼を断ると、受話器の向こうの声は「お願い」から「怒り」、そして「罵声」に変わっていく。直接やってきた検査希望者にスタッフが断り切れずやむを得ず検査をした者が「当院の対応が悪い」と保健所にクレームを入れたこともあった。当院は比較的クレームには慣れている方だと思っていたが、これだけ毎日のように暴言を浴びせられると当然スタッフは疲弊する。

 そんな中、PCRを積極的に実施することをうたった新しいクリニックが大阪にも複数登場し、また民間の検査会社が郵送で検査を扱うようになり、駅近くには民間の検査場が登場した。「商魂たくましい」「正確さは担保されるのか」など批判の声もあったが、PCRの問合せに辟易としていた当院からみればこれらは有難い存在だった。いつのまにか渡航者向けのPCRを実施する医療機関も増え、今や当院でPCRを担うのは、発熱外来と、再診の海外渡航者かその家族や知人がほとんどで、あとは日本語のできない外国人くらいとなった。

 さて、ここからが今回の本題。まずは最近経験した事例を紹介しよう。

【症例1】(声から判断して中年の)男性

 倦怠感と37℃台の発熱があり(患者が言うには)濃厚接触があったために、繁華街の駅近くの「PCRセンター」に電話相談し、電車に乗って“受診”し3000円で検査を受けた。他にもたくさんの受検者がいて混み合っていたとのこと。陽性の電話連絡があり「医療機関を受診してきちんと検査をするように」と言われた。この時点で初めて「PCRセンター」が医療機関でないことを知った。そこで当院に電話をしてきた。(尚、当院未受診者であったため「A方式」の医療機関に相談するよう指示し、当院には受診してもらっていない)

 この民間の検査場の問題点を挙げると、「有症状者に電車を利用させている」「空間的(または時間的)隔離をしていない」「医療機関でないことを告げていない(男性は公的機関と思っていたようだ)」「陽性発覚後の対応が不十分(少なくとも受診できる医療機関を伝えるべきだろう)」がある。

 もう1例、事例を紹介しよう(こちらはプライバシーの観点から細部はアレンジしている)。今度は列記とした医療機関だ。

【症例2】40歳代男性 ベトナムに出張予定

 2020年冬、COVID-19に罹患、療養型施設に入居、その後完治した。6カ月後、ベトナムに出張が決まり、陰性証明を発行してもらうために関西地方のあるトラベル・クリニックでPCR検査を受けると同日に「陽性」と言われた。保健所に相談すると「2回目の罹患は考えにくいですが、医療機関で陽性と言われたのなら仕方ありません。2週間自己隔離してください」と言われ、自己隔離した。納得がいかないためにそのトラベル・クリニックに電話し、「検査に用いた機器と試薬、さらにCt値を教えてほしい」と依頼したが「一切お答えできません」と拒否された。そのクリニックでは頼んでもいない抗体検査をされたために、「検査した理由と結果を聞かせてほしい」とお願いすると「海外渡航者には抗体検査をセットで行うことになっている。結果は言えない」と返答された。その後当院を受診しPCR検査を実施し陰性証明書を発行した。

 本当にこんなクリニックがあるのか疑問だが、この男性は(Ct値という言葉を知っているくらいだから)それなりの知識があり嘘を言っているとは思えない。問題点を挙げると、「患者から依頼があれば検査機器名やCt値は伝えるべきではないか」「本当に陽性だったのなら(日本では恐らく前例がほとんどない)再感染となるわけだから保健所と相談して症例報告などのかたちで公表すべきではないか」「血液検査が必要ならその理由を説明すべきではないか。また結果を伝えるべきではないか」などがある。尚、海外渡航で抗体検査が求められている国は現在中国だけである。

 次に、事例というよりはある患者から聞いた「日欧の差」を紹介したい。

 40歳代のその女性は欧州のある都市を起点にスタートアップ企業を経営している。その都市では、ワクチンこそ他の欧州の都市に遅れをとっているが、PCR検査の体制は万全であり、公的な検査会場に行けば誰でも何度でも週に一度は無料でPCR検査が受けられる。数時間後には陰性証明を受け取ることができ、その証明を持ってスーパーや劇場に行くという。週に2回以上受ける場合は有料となるが、わずか1ユーロ。検査会場が数多くあるため、日本のように「受けたくても受けられない」という事態は皆無だそうだ。

 冒頭で述べたように現在わが国のCOVID-19対策は「ワクチン一色」になりつつあるが、PCR検査の重要性を忘れてはならない。個人的な希望を言えば、PCRはこの欧州の都市のように、誰もが毎週でも無料で受けられるようにすべきではないだろうか。いつのまにか廃れてしまったが、行政もしくは医師会がイニシアチブをとったドライブスルー(またはウォークスルー)の形式をまずは復活させるべきではないだろうか。海外渡航時のPCR検査は医療機関でなく、空港で実施すべきだと思う。帰国者の抗原検査(またはPCR検査)ができるのだから、出国時に渡航者全員に半日前に空港に来てもらうようにすれば実施できるだろう。

 当院には外国人患者が少なくない。これまで大勢の外国人に「自国でのCOVID-19のPCRはいくらですか?」と尋ねてきた。ひとりの例外もなく「無料」という答えが返ってきている。





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