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「ワクチン接種後にやってくる社会を考える」

2021/07/17



TONOZUKAです。


ワクチン接種後にやってくる社会を考える

以下引用

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まっておよそ1年半が経過するが、いまだマスク、3密回避の生活が続いている。しかし、この新たなパンデミックに対し、1年も経たずにワクチンが開発され、国内外で接種が推奨されている。今後、COVID-19はどうなっていくのだろうか。医療関連感染管理に携わり、新型インフルエンザ対策などにも詳しい山形大学医学部附属病院検査部・感染制御部長・病院教授の森兼啓太氏に「アフターコロナ」について寄稿いただいた。
 2020年初頭から流行しはじめたCOVID-19は世界的大流行となり、1年以上経過した今も引き続き世界中の人々を悩ませています。無症状の感染者が他の人を感染させるというこの感染症の特性から、人同士のつながりが断ち切られ、人が動いて会うことを前提とした社会の仕組みが片っ端から否定され崩壊していく事態を、一体誰が予想したでしょうか。

 その一方で、科学技術の進歩は目覚ましく、数年前では考えられないようなスピードでワクチンが開発され、数カ月前から接種が始まっています。2021年6月時点で、世界で約30億回分が接種され、イスラエルや米国などでは流行が制御されています。人々はコロナ前の暮らしを徐々にではありますが取り戻しつつあります。

 本稿では、COVID-19の今後の流行のゆくえを考えてみたいと思います。

ワクチンの効果と変異株
 ワクチンの感染防止に関する有効性は研究開発段階で既に明らかになっており、数万人規模の臨床試験で有効率およそ95%という数字が示されていました。しかも、利用可能なワクチンである米ファイザー/ドイツビオンテック製1)、米モデルナ製2)ともに類似の有効率でした。英アストラゼネカ製3)も2品目に比べて低いものの十分に効果が期待できると考えられる有効率でした。この有効性であれば、流行の制御は比較的容易であると考えられました。

 一方、ウイルスはその特性から、少しずつではありますが変異していきます。開発段階の有効性が、その後の変異ウイルスによる流行に対してもそのまま当てはまるのかという点が、今後のCOVID-19の流行を考える上で重要な要素です。

 ワクチンの開発段階で流行していた株から見て変異したと考えられ、しかも世界的に流行の主流となった(なっている)株は主に2つです。ひとつは、英国で最初に流行しその後世界的に主流な株となったB.1.1.7(アルファ株)、もう一つはインドで最初に流行し現在も勢力を増しつつあるB.1.617.2(デルタ株)です。

 アルファ株に対しては、カタールでの流行に対してファイザー/ビオンテック製ワクチンの有効性が90%であったという研究結果4)、英国での流行に対して同ワクチンの有効性が85%であったという研究結果5)が報告されています。2021年6月現在、日本で流行の主流となっている株はアルファ株ですので、ワクチンの有効性という観点では少し安心材料と言えるでしょう。

 では、デルタ株に対するワクチンの効果はどうでしょうか? デルタ株は現在急速に流行の主流となりつつありますが、まだ日が浅く、その効果を実際の疾患予防の有効率という形で示すには少し時間がかかると思われます。査読前の論文ではありますが、ファイザー/ビオンテック製ワクチンの有効性が88%となっており、同時に評価したアルファ株に対する有効性の93.4%と大きな差はないとされています6)。なお現状、日本では使われていないアストラゼネカ社製のワクチンを接種した人での検討では、アルファ株で66%、デルタ株では60%という有効性も示されています。査読前論文ですので情報が誤っている可能性はありますが、アルファ株もデルタ株も、ワクチンによる予防という観点では大きな差はない(=あまり気にしなくてよい)ということになるかもしれません。

 一方、ワクチン接種者の中和抗体を調べる方法で検討した論文によれば、以前の流行株やアルファ株に対する抗体価と比べて、デルタ株に対する抗体価は有意に低いという結果でした7)。効果に関しては今後のさらなる検証が必要ですが、いずれにせよデルタ株は日本でもその割合を増してきており、今度の動向から目を離せません。

 ただ、ほぼ確実なことは、デルタ株であろうが何株であろうが、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質に対する抗体を誘導するこれらのワクチンの有効性は、程度の差はあれほぼ担保されています。本稿の主な読者である医療従事者の皆さんが接種したファイザー/ビオンテック製のワクチンの効果が、期待より大きく減弱することはないと考えています。

若年者の接種

 もう一つ、未来の流行を予測する上で考慮すべき要因が、若年者へのワクチン接種です。高齢者や医療従事者は、優先的に接種してもらえることや、自身が感染した際の様々な問題(重症化や致死性、職場に与える影響など)を考えて接種を希望する割合が多いのが現状です。私が所属する医療機関でも90%以上の人が接種を希望し、既に終えています。

 一方、若年者の接種率が上がらないことは、容易に想像がつきます。まず、高齢者、中高年者よりも接種は後回しになりました。今回のような大規模な集団接種に順序が必要なのは仕方のないことですが、「あなたたちの番は最後ですよ」と言われた若年者がそれをどう受け止めたかを我々は考慮しなければいけません。さらに若年者は中高年に比べて圧倒的に重症化するリスクが低く、その一方で発熱や疼痛などのワクチン接種に伴う副反応は概ね中高年より大きいのが実情です。「どうせかかっても大したことない病気だから、しんどい思いしてまでワクチンなんか打ちたくない」という若者に、正面切って反論し接種させる根拠は薄いという側面があります。

 さらに、ワクチンの認可の問題もあります。2021年6月時点で、ファイザー/ビオンテック製ワクチンが12歳以上、モデルナ製ワクチンが18歳以上に対して認可されています。モデルナ製ワクチンも12歳以上に近く変更されそうですが、それ以下の世代はそもそもワクチン接種の対象となりません。その結果、大人が集団免疫を達成しても11歳以下の子供に感受性者(免疫のない者)が多数残ることになり、そこにどこかから感染が持ち込まれるとあっという間に広がります。執筆時点(2021年6月23日)でも、大人では集団免疫を達成したと考えられるイスラエルで急速に患者数が増加しつつあり(といっても1日あたり100人程度の少なさですが)、大部分が小児の患者だと報告されています。

 若年者の接種率の低さは、世界的に問題になりつつあるもう一つの懸念材料です。この世代に対してもワクチンによって免疫を賦与するか、あるいは(できれば避けるべきですが)罹患して結果的に免疫を獲得するか、いずれにせよ若年者もSARS-CoV-2に対する免疫を獲得しなければCOVID-19の制御にはつながらないと考えます。

若年者への対応

 免疫のない若者が大勢集まって感染を一気に拡大させる懸念が残るとすれば、対策として彼らにワクチンを接種させる方法以外にはないのでしょうか? その答えとなりうる興味深い社会実験が論文として発行されています8)。

 この実験では、スペインで屋内でのコンサートを計画し、入場直前に会場入口で鼻腔検体による抗原定性検査を全員に実施し、陰性だった者だけをコンサートに参加させました。といっても実は参加できたのは陰性者のうちおよそ半数で、残り半数は入場させず帰宅させました。いわゆる無作為化比較試験(盲検ではありませんね)です。コンサート中はマスクの装着と適切な換気が行われました。その後、被検者はCOVID-19発症の追跡調査を受け、参加組・帰宅組で発症頻度に差が見られませんでした。会場の前まで来て検査陰性でありながら帰宅させられた人たちにはかわいそうなデザインですが、この研究により、検査を伴う的確な対策によって若者の大規模イベントでの感染拡大が防げる可能性が示されました。

 コロナで友達とも会えず、どこにも行けず、バイトも失って散々な目にあっている若者が前向きにコロナに向かい合っていくためのひとつの方策なのかもしれません。

アフターコロナを考える
 では、アフターコロナ、つまりワクチンを接種した人が社会のある程度の割合まで高まり、それによって流行がある程度コントロールされた後の世界はどうなっているのでしょうか?

 まず、常時サージカルマスクを着用している中でも、ワクチンを接種した人たちから徐々にマスクフリーになっていくでしょう。社会全体の流行が縮小していけば、ワクチンを接種した人だけでなく、接種していない人が無症状の感染者である確率も大きく低下します。さらにワクチンによる免疫があれば、仮に相手がそうであっても感染させられる可能性は大きく低下します。

 最初は屋外など感染リスクの低い場所からマスク不要となり、徐々に屋内でもマスク着用不要としていくことができるでしょう。順調にワクチン接種が進んだ米国では、米疾病対策センター(CDC)が2021年6月に屋外でのマスク着用を概ね不要とする勧告を出し、その一方で航空機や公共の閉鎖空間などでは引き続きマスク着用を推奨しています。前述のように、若年者を主体とする感受性者が残ると考えられますので、それも含めてマスク着用制限の緩和は徐々に進むことになるでしょう。

 海外との往来に関してですが、私も含めて海外旅行や出張が好きな人たちは、いつ海外に行けるだろうと思いを巡らせている状況かと思います。これは、海外の流行状況に左右され、日本のコロナ対策だけではどうにもならない面が大きいです。とはいえ、欧米先進国やアジア諸国など、日本と交流が多いところを中心に日本と同様の対策が推進され、感染者がほとんど居ない状況になれば、相互の往来も再開されていくことでしょう。ワクチン接種が進み、2022年の夏頃までには、かなり自由に往来できるのではないかと予測します。

 コロナ禍がおよそ1年半経過し、世界は緊急事態宣言によって外出制限を何度も経験しました。オンラインコミュニケーションツールが普及し、今ではオンラインでの面会や友達同士の会話などが自然なことになりました。自宅外での飲食を制限して自宅で飲食すること、在宅勤務などの新しい働き方なども経験しています。こうした移動や往来に対する受け止め方は人それぞれで、「これからもこれがいい」と感じる方もいるでしょうし、「やはり対面が大事だ」と感じる方もいるでしょう。いや応なく外出を制限されることで、例えば「会社は出社するのが当然」から「仕事ができればどこにいてもいい」という価値観が広がりました。これはコロナ禍を経験したからこそ起こった変化であり、今後もいろいろなことがますます多様化していくでしょう。ワクチン接種が広がり、一様に皆が行動制限していたものが解除されていく今後、社会は元に戻るというよりも、新しい時代がやってくると考えるべきです。実際に移動し現地を肌で感じ人と会うことを重視する人と、バーチャルな訪問で十分で移動にかける時間やお金を他にまわした方がよいと考える人が共存するのです。食事や飲酒、あるいは働き方などにおいても様々な価値観が生まれてくるでしょう。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているというものではありません。こうした多様な価値観を認め合うことが大切で、しかしそれは日本人が苦手とすることのひとつです。このコロナ禍は、その苦手意識が克服されるいい機会なのかもしれません。

アフター・アフターコロナ

 アフターコロナ後の我々の関心事は、ワクチンをどのくらいの間隔で打ち続ければ良いのかという点でしょう。しかし、これは予測するのが非常に難しいです。COVID-19の流行自体が始まって1年半程度しか経過しておらず、ワクチンの効果も少なくとも6カ月は持続することがわかってきたにすぎません。ワクチンの効果が1年間持続するかどうかさえもわからない状況で、必要なワクチン接種の間隔を予測するのはかなり困難です。

 その一方で、新型コロナウイルス感染患者対応に医療従事者が追われている状況でなければ、ワクチンを大規模に集団接種するのはさほど困難ではないと考えます。毎年多くのインフルエンザワクチンを接種している実績があるのですから。

 新型コロナが流行しはじめた当初、インフルエンザとどう違うかといった議論がなされていましたが、仮に毎年ワクチン接種が必要な状況になっても、それによって新型コロナの流行が制御されるなら、少なくとも明るい未来と言える状況ではないでしょうか。その日が一日も早く来ることを願って稿を終えたいと思います。

文献

1)Polack FP, et al. Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine. N Engl J Med 2020; 383:2603-2615

2)Baden LR, et al. Efficacy and safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 vaccine. N Engl J Med 2021; 384:403-416

3)Voysey M, Costa Clemens SA, Madhi SA, et al. Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet 2021; 397: 99-111.

4)Abu-Raddad LJ, Chemaitelly H, Butt AA, et al. Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 variants. New Engl J Med 2021 May 5. DOI: 10.1056/NEJMc2104974

5)Hall VJ, Foulker S, Saei A, et al. COVID-19 vaccine coverage in health-care workers in England and effectiveness of BNT162b2 mRNA vaccine against infection (SIREN): a prospective, multicentre, cohort study. Lancet 2021 May 8;397(10286):1725-1735.

6)Bernal JL, Andrews N, Gower C, et al. Effectiveness of COVID-19 vaccines against the B.1.617.2 variant. medRxiv doi: https://doi.org/10.1101/2021.05.22.21257658

7)Wall EC, Wu M, Harvey R, et al. Neutralising antibody activity against SARS-CoV-2 VOCs B.1.617.2 and B.1.351 by BNT162b2 vaccination. Lancet 2021 Jun 19;397(10292):2331-2333.

8)Revollo B, Blanco I, Soler P, et al. Same-day SARS-CoV-2 antigen test screening in an indoor mass-gathering live music event: a randomized controlled trial. Lancet Infect Dis. 2021 May 27 doi: 10.1016/S1473-3099(21)00268-1.



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