有象利路先生『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2』読書感想文
有象利路先生『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2』レビュー
2024年の夏アニメの本数を検索してみたところ、現時点で64本もあることが判明した。
仮に64本の作品全て30分の12話構成だと考えると、合計384時間。
飛行機で地球を一周するのにかかる時間はおよそ280時間で、ロケットで月までの道のりは約100時間だそうだ。
つまり今期のアニメを完走すれば、それは同時に地球と宇宙の両方を旅したといえるだろう。
この主張を否定する声もあるかもしれないが、それは認める。
なぜなら作品の数や時間を誇らなくとも、一つの作品そのものが世界であり宇宙であり、旅なのだから。
この物語の舞台はどこにでもある普通の高校。主人公はどこにでもいる普通の少年。そして物語の軸にあるのは、アニメ。
『どうしても観たいアニメがあるのに、それがわからない。自分の探しているアニメは一体何なのか教えてほしいと懇願する少女』
『学校の幽霊は、なぜアニメに興味を持っているのか』
日常と、少し不思議な日常のはざまで繰り広げられるドラマは、まさにアニメーション作品のようで、活き活きとしたキャラクターたちと、目まぐるしく駆けめぐるストーリーから目が離せない。
おそらく本作を手に取った読者の大半はアニメに詳しく、アニメが好きな人だろう。
同時に、アニメ作品は好きでも、アニメの専門用語や構成要素には疎いという人がほとんどでは?
例えば『アイリスアウト』と聞いて、それが何かすぐに思い浮かべられる人はどれくらいいるだろう?
説明されれば、ああ、あれのことかとわかるのに、名前は知らない。
自分の好きな世界でも、そういうものは案外多い。
ちなみに私もこの作品を読んで、あれはアイリスアウトという名前だったのかと知った人間の一人だ。
この作品にいくつか存在する秀逸な点の一つは、専門的な言葉を自然に作中に落とし込み、読者に心地よく知識を与えてくれるところだ。
当然その知識は現実に応用可能だが、それ以上に物語を深く味わうための、ときに甘く、ときに刺激的に、ときにほろ苦く作用する、まるで万能なスパイスのように仕掛けてあることに舌を巻く。
作品同様、見事な腕前を見せてくれた作者のこれからにも要注目なのは間違いない。
きっと、本作は多くの読者に愛されていく。
本作を満喫したあと、読者は新しい視点でアニメーション作品を楽しむことができるようになった事実に驚くはずだ。
その流れは至る所から生まれ、つながり、やがて大きな海となるだろう。
私には疑っていないことが二つある。
これからも、この物語がつづくこと。
遠くない未来、その年の夏アニメの一覧に、この作品の名があること。
複数の読者の方から上記のレビューは有象利路先生の最新作『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2』のものではなく、有象利路先生のデビュー作である『ぼくたちの青春は覇権を取れない。 -昇陽高校アニメーション研究部・活動録-』のものではないかというご指摘をいただきました。
迅速かつ早急に第三者委員会を設立して検証したところ、その可能性が高いことが判明いたしました。
お詫びとして、話題のゲームハードをご覧ください。
有象利路先生『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2』レビュー
お餅が食べたいとわがままをいう孫のためにスーパーで餅を買って、火鉢の上で焼いていると、ドタバタと足音がこっちに近づいてきた。
バスン、と力強く襖が開かれ、孫が部屋に入ってくる。
ミニスカートと下着みたいな薄着。
寒くないのか心配になるけれど、本人曰く、平気なのだそうだ。
一体、誰に似たのやら。
「おじいちゃん、この本、すごく面白いよ!」
孫の手には一冊の本。
表紙には孫と同世代とおぼしき数人の少女。
「どんなお話なんだい?」と訊ねる。
「あのねあのね」孫はまるで自分がこの本の作者にでもなったかのように、興奮しながら語りはじめる。「勇者が魔王をやっつけるために、魔王城までやってきたの」
「ふむふむ」ブランコをこぎたくなったので近所の公園まで散歩するくらいの王道展開だ。
「だけどね、魔王との決戦を前に勇者一行は足止めされるの」
「どうしてだい?」
「魔王の部屋につづく扉は不思議な力で閉ざされていて、童貞には開くことができないの」
「ふむ?」流れ、変わったな。
「ちなみに童貞がむりやり中に入ろうとすると、死んじゃうんだって」
「oh」oh.
「ねえ、おじいちゃん」大きな瞳をキラキラさせながら孫は訊ねてくる。「おじいちゃんも、童貞なの?」
「もしおじいちゃんが童貞だったら、お前はこの世に生を受けてないはずだよねえ」
「そうだよね」
HAHAHAとアメコミみたいに二人で笑いあう。
「ちょっとその本、読ませてもらってもいいかい?」
「いいよ」
孫から本をかりる。
「あ、お餅だ。食べてもいい?」
召しあがれ、という前に孫はもう食べていた。焼いてないやつから。
本をめくる。
魔王討伐に魔王城にやってきた勇者一行。
そこに立ちふさがる一枚の扉。童貞に開くことはできないという。
無理に入ろうとすれば死が待っている。
なんということだ。
これは何かの示唆なのだろうか。
否応なしに、記憶は過去に飛ばされる。
およそ60年前。30歳の僕は異世界に飛ばされた。
気がつくと宮殿の広間のような場所にいて、そこには僕と同い年くらいの男たちの姿があった。
戸惑う僕たちの前に偉そうな恰好をした老人が現れ、口を開く。
「勇者候補のみなさま、ようこそ──」
目当てのシーン以外はスキップしたくなるタイプの動画ってあるよね? アダルト系とか特に。
だからそうしよう。
──そして僕はこの世界で一番の美女と裸で抱き合っていた。
飛ばしすぎ? じゃあ説明を少しだけ。
異世界に飛ばされた僕たちには共通点があった。
全員、年齢が三十歳以上で童貞ということ。
どうやらこの世界では三十歳以上の童貞は強い力を授かり、邪悪なものを討ち滅ぼす勇者になれる可能性を秘めているのだという。
だけどこの世界で三十歳以上の童貞などユニコーンやエクスカリバーよりも見つけるのが困難なのだそうで。
だから異世界から召喚するほかなく、それで僕たちが呼ばれた。
僕たちの前に、それぞれ見目麗しい美女がやってきた。
僕の前に現れたのはその中でも頭一つ抜きんでた可憐な女性だった。
裸同然の恰好で、なんだかセンシティブな言葉をささやいてくる。
破廉恥だ。
そんな彼女は僕の手を取り、広間を出て足早に廊下を渡り、僕の部屋より何倍も広い寝室へと誘った。
彼女はこの国の第三王女であり、この世界で最も美しい女性であり、僕をこの世界に召喚した本人だという。
で、僕がこの世界で勇者となり魔王を倒したあかつきには、自分で童貞を卒業させてくれるそうだ。
とてもわかりやすい説明で助かる。300円以上する高級カップ麺の作り方もこれくらいシンプルだといいのに。あれ難しいよね。このかやくとスープはお湯を入れる前に開けて、こっちは食べる直前に溶かして、最後にこの特製調味料で味を調整しながらお楽しみください。みたいなやつ。
高級カップ麺は、たぶん普通にラーメンを作るより難しい。
話はわかったので、さっそく旅の準備にとりかかりたいのだが、妙なことが一つある。
なぜか僕は第三王女から服を脱がされ、彼女はすでに裸だった。
──そして僕はこの世界で一番の美女と裸で抱き合っていた。
え? なに? どうして僕は童貞を卒業されそうになってるの? 魔王死んだの?
突然ですが、ここでネタバレ。
ぱっとしない男を見て、童貞の匂いがする、などという揶揄を耳にすることがあるけれど、当然そんな匂いはない。ただしそれは僕がかつていた世界の話だ。
この異世界では童貞の匂いはあるらしい。
それはそれはとても芳醇で魅力的で、女性にはたまらないものらしい。
なるほど、だからこの世界には童貞がいないのか。
ものすごい美女に襲われ、このまま童貞でなくなるのも悪くないと王女様に身をゆだねようとした刹那、寝室の扉が強く開かれた。
メイド長という風貌のおばあちゃんが入ってきて、こう叫ぶ。
「その男から離れてください! その者は──ハズレ勇者です!」
知ってる。こういう小説やアニメをいくつも見てきた。
一方的に召喚しておいて、そっちの基準に満たなかったから一方的に切り捨てられるやつだ。
ものおしげな瞳で僕を見つめる王女から引き離され、粗末な衣装とおこづかい程度の路銀を握らされ、僕は宮殿から追い出された。
そこから文庫本にしてだいたい十五巻ぶんくらいの旅をつづけ、いつしかハズレ勇者と呼ばれるようになっていた僕はついに魔王城に攻め入り、魔王の部屋の前までやってきた。
信頼できる仲間たちと共に。
ハズレ戦士。ハズレ魔導士。ハズレ遊び人。
そろいもそろって、みんなハズレてる。
しかし、これまでの旅で僕は学んできた。
ハズレとは、弱さや無価値を意味するのではないと。
例えばハズレ戦士の少女は、腕力も体力もないけれど、おそるべき魔力を操る最高の魔導士だった。戦士の村に生まれたことで、誰もその才能に気づけなかっただけなのだ。
同様にハズレ魔導士の少女は、魔力は微塵も持たないものの、素手で岩を砕き、つまようじで鉄を両断する剛腕の持ち主だ。そのスリムな体躯からはとても想像できない。
ハズレ遊び人の少女も、誰もが遊び人として巣立っていくスラム街出身であったため、彼女の異様なまでの勤勉さが、理解されなかったにすぎない。彼女の頭脳がなければ、文庫本の七巻の中盤辺りで世界は滅んでいた。
そして忘れてもらっては困る。ハズレ勇者である僕のこと。
「要するに、勇者様は外れ値なんです」ハズレ遊び人の少女はそう言った。
僕は首をかしげる。
「戦闘能力が規格外に高いせいで、この世界の基準では計測不可能で、ゆえに評価もできないんです」
「そうなの? でも強すぎるんだったら、ハズレどころか大当たりって思われてもよかったような」
「勇者様の元いた世界の道具で例えるなら、携帯電話すらなかった時代の人にiPhoneを見せても、すさまじい技術の結晶ではなく、子供のおもちゃだと一蹴されると思いませんか?」
「どうだろう」よくわからない。
「逆に、勇者様の元いた世界の人たちにこの世界ではあって当然の浮遊魔法や召喚魔法を見せても、本人の実力ではなく何か仕掛けがあると思われますよね?」
「確かに」
魔法ではなく手品と思われるだろう。
「人は、自分の感覚から逸脱したものを正確に評価することはできません。それどころかハズレというレッテルを貼って嘲笑の対象にする始末ですよ」
そういってハズレ遊び人(天才少女)はさびしい目をした。
名声を馳せた人の多くは、若いころ誰からも相手にされなかったどころか、笑いものだったという逸話を思い出す。
「ちなみに僕の強さって、どれくらいのものなの?」
「最強のモンスター、レッドドラゴンを倒した歴代最強の戦士の戦闘能力がおよそ2000とされています。勇者様のそれは2000万です」
「oh」
ゴブリンもドラゴンも同じくらいザコだった理由がやっとわかった。
「ねえ、話は終わった?」退屈そうにハズレ魔導士(最強少女)は口をとがらせている。「さっさと魔王にワンパン食らわせて、ご飯たべにいこ?」
「そうですね。私もそれに賛成です」
ハズレ戦士(ミラクル・ウィザードガール)も賛同する。
「よし、いこう。これが最後の戦いだ」
世界を救うのは、ハズレものたちだ。
僕は魔王の扉と向きあう。
【この扉は童貞には開けません ※童貞が無理矢理入ったら死にます】
扉にそんな張り紙。
ジョークだと思い、扉に触ってみても、びくともしない。
本気を出しても、ぴくりともしない。
ちなみに仲間の少女たちは普通に開け閉めできている。
扉の向こうに、ちゃんと魔王もいる。
戦闘能力2000万が聞いてあきれる。
魔王の気持ちもわからなくはない。
魔王を倒せるのは勇者だけ。
勇者になれるのは童貞だけ。
だったら童貞に開けられない扉を用意しておくのは理にかなっている。
吸血鬼除けに扉に聖水をかけておくようなものだ。
だが魔王は勘違いをしている。
僕は女神の加護を受け、真の勇者として覚醒している。
童貞でなくても勇者でありつづけられるのだ。
だったら話は早い。
童貞を卒業しよう。
幸運なことに、ここには三人の美少女がいる。
三人とも僕に好意をもっているのは明らかだ。
日ごろから、スポンジで皿を洗うみたいに必要以上に体をこすりつけてきたり、湯船につかっていると偶然を装って自分も風呂に入ってきたり、食事に媚薬を混入してきたり。
童貞から放たれる童貞の匂いがたまらないのだろう。
僕も彼女たちもよくぞここまで耐え抜いた。
もういいだろう。お互い、自分の欲望に正直になろうではないか。
そこで僕の意識は途絶えた。
目を覚ます。
目の前には魔王の扉。
周囲には誰もいない。
みんな、どこにいった?
立ち上がって無意識に扉に手をあてると、それは実にたやすく開かれた。
よくわからないまま、魔王と対峙する。
魔王は言う。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
とりあえず一発ぶん殴ると、あっけなく魔王は消滅した。
世界に平和は戻り、その瞬間、僕も元いた世界に戻る。
異世界編、完。
客観的な事実として、どうやら僕はもう童貞ではないようだ。
肉体的には非童貞でも感情は童貞のまま。
だって、そのときの記憶がないんだもん。
あれから60年経っても女性と関係を持つことはなかった。
還暦を過ぎたあたりから童貞とかどうでもよくなり、気軽な老人ライフを満喫していると、時空に歪みが生じて、そこから中学生くらいのやけに薄着の少女が現れた。
少女は僕に「会いたかったよ、おじいちゃん」と飛びついてきた。
当初、最新技術を駆使した新手の詐欺かと思ったけれど、異世界のことや当時の僕を知らなければわからないことを話してきたので信じることに。
異世界で僕と関係をもった女性は子を産み、成長したその子も誰かと結ばれ子を宿した。そして成長したその子が異世界から僕に会いにきた。
異世界から孫がやってきた。
祖父(?)として喜ぶべきイベントのはずなのに、嬉しさよりも困惑が勝っているのは、半世紀以上、考えないようにしてきた問題と向きあう必要ができたからかもしれない。
すなわち、あのとき僕は誰に童貞を奪われた?
容疑者はおそらく三人。
ハズレ戦士、ハズレ魔導士、ハズレ遊び人。
僕は目の前で吸い込むように餅を食べつづける孫に目を向ける。
なかなかの食いしん坊。
そういえば、ハズレ魔導士の少女も食欲旺盛だったな。
しかし活発な雰囲気の中にある清楚さというか気品を纏う雰囲気はハズレ戦士を想起させる。
あるいは、こっちにきてからやたらとこちらの書物に夢中なその知識への好奇心はハズレ遊び人を見ているようだ。
────うん、もうやめよう。
こんな推測は無意味だし、なんだか無粋な気がする。
それにおそらくこれが真実だと思うのだけど、僕はあの少女たち全員に、童貞を奪われたのだろう。
童貞特有のハーレム妄想と笑われるだろうが、あの世界では童貞であればハーレムを築けたのだ。
この話はここまで。
年寄りの思い出より、若者のこれからのほうが大切だ。
異世界で孫は優しい家族に裕福な暮らしをさせてもらえているという。
それを聞いて、僕は嬉しい気持ちになった。
山ほどあった餅をぺろりと完食した孫は僕に寄り添って、一緒に本を読みはじめる。
「私、このシーン大好き!」
そういって孫は、作中に登場する女の子のセリフを音読する。
とてもセンシティブな言葉だった。
いまどきの若者は──なんてことを口にする大人にはなりたくなかったけれど、どうしても気になってしまう。
ほとんど裸みたいな孫の恰好と、性的なことに開放的すぎる孫の性格に。
正直、破廉恥である。
一体、誰に似たのやら。
複数の読者の方から上記のレビューは有象利路先生の最新作『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2』のものではなくて、原作・有象利路先生、漫画・あおば先生の『童貞勇者は仲良くシたい』のものではないかというご指摘をいただきました。
緊急株主総会を開き採決した結果、もしかしたらそうなのかもしれないという結論に至りました。
お詫びとして、明日、会社や学校で使えるトリビアをどうぞ。
有象利路先生『組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2』レビュー
奇跡の花、アオノリュウゼツラン
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