【厳格お父さん ②オサジマのはなし】
珍しく6時台の翔太の足音がした。早起きは久しぶりで、洗面所で顔を洗ってるとリビングから声が聞こえてきた。
「マリ!マリ!パンある!?」
「翔太おはよ」
「パン!」
「パン食べんの、米炊いたのにさぁ」
「ちょーだい!」
「何枚焼く?」
「袋ごと、ちょーだい!」
「なんなのよもう」
「行ってきます!」
「まだ早いんじゃない!?」
騒いでいる翔太がバタバタと玄関から出ていく音がした。
「なんなのよあの子は」
リビングに入ると、米を冷凍しなきゃとマリがぶつぶつ言いながら朝食を準備していた。
「おおかた動物でも見つけたのかな」
「あ、おはよ、動物?」
「たぶんあの感じだと捨て犬とか捨て猫とかさ」
「え、飼いたい〜!」
「言うと思った、マリだめだよ動物を飼うっていうのは」
「実家で飼ってたことあるもん、わかるもん」
「お金だってすごくかかるし」
「ヤスナリさんが稼げないならマリが働くもん」
マリは頬を膨らませ、話を終わらせるようにお米をよそっている。
「まぁマリになに言っても無駄か…」
「ふん!」
「でも父親の威厳というものを見せないと」
「威厳威厳こだわるわよねぇあなたは」
「理想の父親像があるんだよ、すべてを見透かすような落ち着いた男…」
「知らないけど、翔太が拾ってきたら飼うからね、はいごはん」
「…わかったよ」
僕は肩をすくめながら朝食を食べ始めるのだった。
食事を済ませ玄関で散歩の準備をしていると、朝の光を反射させ、まぶしい2つのネックレスが目に入ってきた。
それはこの家を建てたとき、必ずこの家に帰ってくるように、とマリが祈りを込めて飾ったものだった。
「行ってきます」
「はぁい、あっ帰りにパン買ってきといてねぇ」
リビングから大きめの声でマリが言っていた。
ふと思い出すあの花の香り。僕の帰ってくる場所はここなんだ、と柄にもなくにやけた。