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9,ワクワク経営戦略勉強会

9、経営戦略ワクワク勉強会

キングコングはB(不器用だけど)I(一生懸命)な人達の集まりだ。忘れっぽかったり、怒りっぽかったり、悩みやすかったり、期待に応え過ぎたりと不器用なんだけど、仕事に関してはやる気に溢れている。キングコング愛に溢れている。前回紹介したしずくさんはキングコングの社員になるのが最初の夢だった。前々回紹介したエイ君は、「自分の記録より店舗の記録」と言った。その前に紹介したやっさんは体調を崩しかけたが、ナムルは俺が作ると職場復帰した。他にも飲酒運転で免許取り消しになったが、1時間自転車を漕いで通勤してきた者もいる。

みんな不器用で、トラブルや衝突はよく起こるが、それでも仲間として支え合い、そして協力しながら全員で店舗運営をしている。飲食業は楽な仕事ではないが、障害当事者従業員の離職はこの7年間でわずか2人だ。

これにはどんな要因があるのか知りたくて彼らにインタビューをした事があるが、核心をついた答えはなかった。しかしその答えには、自分の職業を誇りに思う言葉が多くあった。それは決して、彼らに職業的選択肢が少ないからたまたま今働けている場所で喜びを感じているからではない。ましてや、職業的経験が少ないから他と比べられないというわけでもないだろう。やはり、働くとは何か、経営とは何かを知っているという事が大きいと感じている。

働くとは何ですか? 
経営とは何ですか?
あなたならどう答えますか?

キングコングで行っている勉強会はそのような事を考える機会なのだ。さて、今回はこの勉強会について紹介しよう。

経営目的は?という店長の声の後に、みんな声を揃えて「経営の目的は、経営の源であるお客様を創り出し、お客様占有率で1位になること」と唱和する。この光景に私はしばらく馴染めなかった。自由主義経済構造の中でこうやって競争するから、効率ばっかりを重視するようになって障害という概念ができてきたんじゃないかと思っていたからだ。

キングコングでは、ずっとこういった経営戦略や経営の原理原則を学ぶ勉強会を続けている。週に1回、木曜日のランチとディナーの間のアイドルタイムに時給を付けて業務として行うミーティングだ。店長が司会をしながらこの勉強会を進めるのだが、もちろん障害のある従業員もおり、ただそのままの言葉で勉強会をしていたのでは全員の理解は得られない。それどころか、時に2時間にも及ぶこの勉強会の時間、惹きつけなければ集中は途切れ、話も聞いてくれなくなる。どうしたら参加者全員が集中し続け、理解し、話し合いに参画できるかを考えるのが店長の役割なのだ。

ある日の勉強会が面白かったので、その時の様子をお伝えしよう。

この日も経営の目的や、経営活動を構成する要素、原理原則の唱和から始まった。一通りそれを終えると、「皆さんに毎月お渡ししている給料はどのようにしてできているか知っていますか?」店長が聞いた。「お客様からいただいています」や「お客様に喜んでもらった証です」、「店長が頑張って作っていると思います」等いろいろな答えが出る。

いずれにしてもこのキングコングと言う焼肉屋で楽しい時間を過ごしてもらい、お金をいただくという事をしないといけないよね。今日はその大切なお金について考えてみたい。会社が続いて、みんなもしっかり働き続ける為には「売り上げ」と「利益」を上げ続ける事が大切なんだ。どちらも聞いた事はあると思うけど、詳しく説明しろと言われたら少し困っちゃうよね。実は、このお客様からいただいたお金は全てが利益ではないんだ。では利益とは何か答えられる人はいるかな? 利益とは、粗利から固定費を引いたものこと。粗利とは売り上げから原価を引いたもの。売り上げとは客数×客単価なんだ。

店長は、それぞれの言葉について少し解説をつけながら丁寧に説明を続けた。今のところ脱落者はおらず、みんなこの話題についてきている。

利益=粗利-固定費
粗利=売上-原価
売上=客数×客単価

こういう式が成り立つとしたら、みんなはどうやって利益を大きくする?

数学の授業のようになったとたん、一人、また一人と心のシャッターを下ろす音が聞こえ始めた。店長もそれを察してか、ストーリーを加えだす。得意の天下一武道会だ。

「キングコングが天下一武道会で優勝するためには、利益を多くださないといけないけど、どうしたらいいと思う?」
その単語を出しただけなのに、閉まりかけたシャッターが一気に開きだす。
「やっぱりパワーアップです」とエイ君。
「この式で言うと、どこをパワーアップしたらいいと思う?」と店長。
「掛け算だから、客数か客単価じゃないですか」とクールな男性従業員。

難しい数学の問題となればたちまち固まってしまうので、要所要所にみんなの心に響くキーワードをちりばめながら進行する。店長は、日頃から全員のスイッチ探しをしながら業務をしているので、こういう時に役に立つ。

いろんな意見が出たが、この日は「客数」という所に注目して考えていく事になった。さて、客数を多くするにはどうしたらいいか。そこで冒頭の唱和の中に入っているお客様活動を引っ張りだす。全員で唱和している「お客様活動とは、お客様に好かれ、喜ばれ、気に入られ、忘れられないようになること」という言葉だ。店長は、客数を多くするための取り組みがこのお客様活動であると説明する。そして続けて、「それではみんなが最近嬉しかった事、喜んだ事ってどんな事がある?」と全員に問いかけた。「帰ったらビールが冷えていた事です」、「DVDを買った事です」、「嬉しかった事は特にないです」等々、それぞれの意見が出る。そしてある女性従業員が「誕生日をサプライズで祝ってもらった事です」と答えた。店長も、「それは嬉しいね。これはお客様にもできるかな?」と問いかける。「できるかもしれないけど、誕生日が分からない」、「普通に聞けばいいさー」、「いきなり誕生日を店員が聞いたら変でしょ」等、場が熱気を帯びてくる。

この日はまとまらなかったが、その次の勉強会では、お客様アンケートを取り誕生日情報をデータとして蓄積して、近くなったら手書きのダイレクトメールを送り、来店してくれたらコングちゃんの着ぐるみを着てケーキを出して従業員でサプライズのお祝いをしようという事になった。みんな早くお客様の誕生日を祝いたいという気持ちになってワクワクしているように見えた。それからは、お客様を喜ばす具体的なイメージが沸いているので、日々の接客も笑顔が多くなり、お客様への接触回数も多くなった。

こうしてキングコングでは経営戦略をワクワクのエネルギーに変換する工夫を行っている。単に難しい言葉で教科書通りの勉強をするのではなく、全員が理解できるようにセッションを構成する必要がある。それには楽しみながらできる雰囲気をつくる事もとても大切な要素であると考える。そして所々にはやっぱりアニメや漫画のストーリーが役に立つ。各従業員のスイッチがどこにあるか。これは一人一人の生活に関心を向けなければなかなか把握する事ができない。業務の指示だけをしている環境では、このスイッチを探せないのだ。なので、店長は時間があるとコミュニケーションを取る。生活に触れる。もうお分かりだろうが、アニメのストーリーが大切なのではなく、このように接してくれる店長がいて、自分のライフスタイルや価値観を受け止めてもらえていると感じれる関係性が大切なんだと思う。BIとは流行りの言葉で言うと多様性という事になるだろう。多様な価値観を持った人達と働くには、何か一つの価値を強要するのではなく、面倒くさいかもしれないが様々な価値が傷つけられる事なくその場にあるという事だろう。労働環境においてそれを具現化する方法を考えた結果がキングコングではこの勉強であった。

利益とは何であるか、働くとはどういう事か、価値観の部分から認識を共有する。「支援する側、される側」という向かい合う関係性から脱却し、共にお客様の方を向く。視線を揃える。すると、全ての業務を他人まかせにする事なく、我が事として捉え、お客様の喜びのために仕事ができるようになる。

B(不器用だけど)I(一生懸命)な働き方をつくるコツかもしれません。

#キングコング #KINGKONG #障害者雇用 #沖縄 #焼肉

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