7年に渡る父の自宅介護生活の間、おむつは必需品だった。
母と2人で父を看ていたから、おむつを買いに行くのは、私の役目。
ネットでも買えるけれど、割引クーポンが手に入る近くのドラッグストアで買うのが、一番安く安心できた。
父の症状も色々変化していったから、今使っているおむつタイプが、来月使うか、使えるか、それは判らない。
だから、最小ロットで回したいところではあるけれど、そうそう外出もできなくて、いつも両手一杯おむつを抱えて私は帰宅するのだった。
父のベットの横に、おむつの袋を置く。
数がある内は父は安心しているのだが、そろそろ買い出しに行かないといけないかなあとなると、落ち着きがなくなる。
「おむつがきれるといけないから、あまりお茶を飲まないようにしないと。」
「バカなこと言わないでよ。そんなこと気にしないでいいよ。」
いくら言っても、そんな風だったので、私は一生懸命「いつ買いに行くか」と予定を組む。
その位・・と思うだろうけれど、我が家に車はなく、ドラッグストアはバス停4つ先の場所に建っている。
父は難病を抱えていて、一時も目が離せなかった。
私には弟がいて、弟は家族を持ち、車を持っているから、休みの日にお願いしたいところだけれど、当時の弟は仕事で疲れていると不機嫌な様子で、声をかけるのもはばかられるのだった。
彼の機嫌をとる余裕さえ、私には残されていなかった。
ああ、もうおむつがきれてしまう。
「ちょっと、バスに乗って行ってこようかな」
母にそう言っている時に、突然、女友達が近くに来たからと顔を見せた。
「ちょっとだけ、顔を見たかったんで。
あのー、買い物、今日済みました??」
申訳ないと思いながら、車に乗せてもらって、ドラッグストアへ。
そしていつもの2倍の量のおむつを積み込んだ。
ごめんね。本当にごめんね。本当に、ごめん。助かった。
そういう私に
「お役にたてたなら良かったですよ~。で、tonchikiさん、お礼に「ごめん」はいらないです。アハハ。」
それから何度も彼女は、突然私の顔を見たくなるのだった。
父が旅立った後、そのお葬式の日
それまで一粒の涙も流せなかった私が
彼女の顔を見た瞬間、泣いた。
泣けて仕方がなかった。
あの介護生活は、私と母と、そして彼女とで過ごしたものだと
そう、思っている。