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石巻ニューキネマパラダイス 第十回「あてのない手紙」
予定とは、予定通りいかないためにある。予想外の出来事が起こるからドラマは生まれ、主人公たちを困らせる。映画や演劇のストーリーならばそれでいいのだが、僕らにも多くの予想外が起こり、たくさんのドラマが生まれている。
改修していく中央一丁目の空き家。建築士さんや消防にも相談し、法律的に安心して営業するために、増築部分の切り離し工事が必要となった。建物の切り離し…!そう、お金がかかるのだ。
クラウドファンディングやご寄付いただいた資金、そして自己負担などを合わせても足りない額が眼前に現れる。青ざめる主人公二人。これが漫画ならば、僕らの顔には縦線が何本か入り、ドヨ〜ンという擬音語が書かれていたに違いない。
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そうはいっても、やるしかない。オープン日は川開き祭りの前日8月5日に決定した。退路を断つ。この日は僕らが敬愛する日活パール館長のご命日でもある。偶然ではあったけれど、たぶん偶然ではないのだろう。改修を担当してくださる大工さんたちにも無理を言ってお願いし、色々な予算を削る、削る、削る。そうして妥協点をなんとか探し出しては再計画。思い描いていた完成予想図からは少し遠ざかっていくけれど、その作業によって自分達が絶対捨てられない部分も明確になっていく。
削るばかりでなく、資金を増やすために寄付も募ることにした。企業への営業活動も開始。さらに、新品では高価なエアコンや水場の設備など、使っていないものを募集したり、ネットで安い中古品を探し求めた。そして寄付や設備の募集情報を発信するために、新しくインスタグラムも開始し、日々の動きなどを発信しはじめた。
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それだけでもまだ予算は足りず、DIYのためのマンパワーも募ることに。ありがたいことに、市内の仲間たちや、市外から駆けつけてくれる仲間も現れた。大学のゼミ単位で関わってくれるチームや、若手の演劇人たちが市内外からアクセスしてくれた。行政の方々や法人・個人含む民間の方々など、想像以上に多くの人が力を貸してくれた。その度新しい出会いもあった。
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人の協力と善意が受け止めきれないほどに大きくて、申し訳ない気持ちに押し潰されそうになる。時間もお金もない中で、ほぼ無休で働いてくれている大工さんチームがいる。ここまで人様に迷惑をかけてやる意味とは何か。考え込んでしまう事もある。しかし、行き着く所はこの施設を完成させること。力を貸してくれた方や期待してくれている人たちが、たまの週末に立ち寄って、酒を飲み、作品を観て人と話し、笑い、時間を忘れられる場所をつくること。その目的をちゃんと達成する事でしか、答えは見つけられないのだと思う。
2022年6月。広報の方では思っていた以上にリアクションがあり、エアコンやトイレやソファを沢山もらい受けることが出来た。お手伝いに参加してくれる人も現れた。そんな広報の話をしている際に、大工チームの棟梁が発した言葉が今回のタイトルだ。
「あてのない手紙を書き続けることやな」
なぜか心に引っ掛かっている。ドラマには名言がつきものだ。受け取ってくれる人がいるか分からなくとも、手紙を書き続ける。このコラムも同じかも知れない。
もしこの手紙を、ひそかに受け取ってくれている人がいたら、ぜひ8月5日の夜は中央一丁目・シアターキネマティカへ。身も心も財布もボロボロになった主人公たちが、最高の笑顔で迎えることでしょう。街に灯をともし、お待ちしています。
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