ゴロで打たせて取ることは可能か


はじめに

 投手をどのように評価するのかという議論は常に行われているが、その一つの手法として、DIPSという考え方がある。詳しい説明については割愛するが、グラウンド内に飛んだ打球がアウトになるかどうかは守備や運の要素が大きいため、投手の実力は反映されやすい奪三振・与四死球・被本塁打から評価する手法である。このDIPSの普及によって打たせて取る投球はあまり注目されなくなってきているが、今回はゴロのBABIPからそういった投球ができるのかを考えていきたい。なお、データについてはbaseballsavantの2021~2024年の間の、バントを除いたゴロに分類されている打球が対象である。

年度相関

 では始めに、各指標の年度相関をみていきたい。対象となるのは、2021~2024年の間の連続したシーズンで、ゴロを100以上記録した選手である。

 上の表をみると、打球速度・打球角度・水平打球角度(打球の方向)についてはある程度の再現性があるものの、BABIPについては相関関係がみられない。また、守備の影響を除外したxBA(予想打率)も年度ごとのばらつきが大きいようだ。

球種と打球方向での比較

 続いて、球種ごとに指標を比較してみたい。

                  ※左打者のデータについてはx軸を反転させている

 最もBABIPが高かったのはフォーシームの0.283で、チェンジアップやスプリットといったOffspeedのボールが低い傾向にあるようだ。

 また、利き腕と打席の左右別のBABIPをみてみると、フォーシームはいずれの条件においても打たれやすく、Offspeedのボールは右対左、左対右の際に打たれにくいようだ。

利き腕と打席が一致している場合

 ではここからは、もう少し詳しくみていきたい。

 まず、一致している場合のゴロの打球分布をみてみると、Fastball(速球系)は他の球種と比べ、逆方向にも一定の割合で打球が飛んでいる。これに対して、変化球は引っ張ったゴロが多くなりやすく、特にOffspeedやCurveball Group(カーブ系)のボールで特に顕著である。

 次に、打球方向別のゴロのBABIPをみると、センターや逆方向で高い傾向にある。特に、Fastballは逆方向で打たれやすく、変化球ごとで比較するとSlider Group(スライダー系)は引っ張られた際に他の変化球よりもややアウトになりやすいようである。

 打球速度については、Fastballがセンター方向を中心に、次点でOffspeedが引っ張られた際に速い傾向にある。

 最後に打球角度についてだが、Fastballは逆方向、変化球ではセンター方向で高くなるようだ。

利き腕と打席が一致していない場合

 続いて、不一致の場合をみてみると、先ほどと同様にFastballは当たりが分散しているが、Slider Groupについては他の変化球よりも引っ張り傾向が強くなっている。

 しかし、Slider GroupのBABIPは他の変化球と比較すると、いずれの打球方向においても高い傾向にある。

 打球速度についてみてみると、Curveball GroupやSlider GroupはOffspeedよりも速くなっている。

 また、Slider Groupは打球角度の高いゴロが多い。このことから、利き腕と打席が不一致な際のSlider Groupのボールは打球速度が速く、打球角度の高いライナー寄りの打球を打たれやすいため、他の変化球よりもBABIPが高くなっているようだ。

単年ごとに差は出るのか

 では、ここまでの話でフォーシームよりも変化球の方がゴロのBABIPが低いことが分かったが、選手単位でみた場合にも同様の傾向がみられるのかを確認してみたい。

 上の表は、同一シーズンでフォーシームとスライダー(172選手)またはチェンジアップ(155選手)で30以上ゴロを記録した選手を対象に、フォーシームと両球種のBABIPの差の分布を表したものだ。フォーシームのBABIPの方が高かった選手は、スライダーで72.7%、チェンジアップで85.2%となっており、多くのケースで変化球の方がゴロのBABIPが低くなることが分かる。

投球コースと変化量での比較

 続いて、投球コースごとのゴロのBABIPを比較してみたい。

速球

                                ※赤枠はストライクゾーン

 まず、Fastballをみてみると、外角高めを中心にBABIPが高く、内角で低い傾向にある。

                     ※左投手のデータについてはx軸を反転させている

 続いて、ストライクゾーンを内角・真ん中・外角に3分割したうえで、Fastballの変化量ごとのゴロのBABIPをみていきたい。まず、利き腕と打席が一致している場合の内角についてだが、シュート成分の多いものほど打たれにくいようだ。

                     ※左投手のデータについてはx軸を反転させている

 次に、真ん中をみてみると、フォーシーム系のボールが打たれやすくなっている。

                     ※左投手のデータについてはx軸を反転させている

 また外角では、カットボール系のボールが打たれにくい傾向にある。

                     ※左投手のデータについてはx軸を反転させている

 対して、不一致時では内角のカット系ボールが有効なようだ。

                     ※左投手のデータについてはx軸を反転させている

 真ん中については、ホップ成分が多く、シュート気味なフォーシームが打たれやすい。

                     ※左投手のデータについてはx軸を反転させている

 最後に外角だが、先ほどの真ん中と同様の傾向がみられる。全体の傾向としては、打者方向へ変化する内角の速球がゴロで打たせて取ることに優れているようだ。

変化球

                                ※赤枠はストライクゾーン
                                ※赤枠はストライクゾーン
                                ※赤枠はストライクゾーン

 次に変化球だが、球種による違いは若干あるものの、基本的には外角低めが打たれにくいようだ。

まとめ

 今回はゴロで打たせて取ることができるのかを、BABIPを中心にみてきた。結論としては、
・変化球全般、特にチェンジアップやスプリット
・内角の打者方向に変化するツーシームやカットボール系の速球
などでゴロのBABIPが低くなるようだ。しかし、冒頭でも話したように年度相関については皆無なため、毎年安定して打者をゴロで打ち取ることは難しい。打者をゴロで打ち取りやすい球種・コースは存在するものの、それが明確な差として現れるまでにはかなりの時間を要するようだ。