squared up swingに対する理解を深める


はじめに

 今年、baseballsavantに複数の指標が追加されたが、その一つにSquared Upがある。Squared Upはスイングスピードと球速を、どの程度打球速度に効率よく変換できていたのかを表した指標である。計算式については以下のようになっている。

Squared Up=打球速度÷(スイングスピード×1.23+球速×0.23)

Tangotigerブログ

 例えば、大谷翔平の2024年で最も速かった打球のSquared Upを求めると、

Squared Up=191.8 km/h ÷(129.4 km/h ×1.23+158.0 km/h ×0.23)=約0.98

となり、98%の効率でスイングスピードと球速を打球速度に変換していたことが分かる。
 Squared Upについては80%以上であれば優秀であるとされ、こうしたスイングはsquared up swingと分類される(Squared-up Rate | Glossary | MLB.comより)。そこで今回は、どのような条件によってsquared up swingが増減するのかをみていきたい。なお、データについてはbaseballsavantを参照し、Competitive Swingのみを対象としている。なお、左打者のデータはx軸を反転させ、分母についてはすべてインプレーとなった打球(hit into play)である。

打球角度

 はじめに、Squared Upと打球角度の関係性をみていきたい。

 上のグラフをみてみると、おおよそ-10°から35°の間ではsquared up swingの割合が7割以上あり、極端な打球角度では低下する傾向にある。

 次に、平均打球角度が10°の未満の打者と20°以上の打者を比較すると、平均打球角度が高い打者の方が、打球角度が高い際にsquared up swingも多くなりやすいようだ。

 さらに、打球方向別にみてみると、逆方向のフライは他の方向に比較して、squared up swingが少なくなる傾向にあるようだ。

Bat Speed

 では次に、Bat Speed(スイングスピード)に注目してみたい。

                                   baseballsavantより

 Squared UpとBat Speedの関係性としては上のグラフが有名で、Bat Speedが速い選手ほどsquared up swingが減るとされている。

 ではなぜ、そのような傾向がみられたのかを知るために、Bat Speedごとのsquared up swingの割合で比較すると、Bat Speedが速いほどsquared up swingが減っている。

 しかし、打球角度ごとにみると面白い傾向がみられる。基本的にはBat Speedが速いほどsquared up swingが減るという点は先ほどと同じだが、大きく差がついているのは、打球角度10°未満、または40°以上の場合であるということである。

 そこで、Competitive Swingでインプレーの打球を300以上記録した打者のsquared up swingの割合とBat Speed(Competitive Swingのみ、空振りやファール等も含む)で比較すると、打球角度10°以上40°未満の際の相関係数は-0.25、それ以外の打球角度では-0.55となった。このことから、Bat Speedの速い選手は内野フライやゴロでsquared up swingが減る傾向がより強いと言えそうだ。

         ※wOBAはCVSファイルのものを参照しているため、実際の数値とやや異なる

 では、これが打撃成績にどういった影響を与えるのかをみていきたい。上の表は、squared upが80%以上と80%未満の際のwOBAconの差と、Bat Speed110km/h未満と125km/h以上の際のsquared up swingの割合の差を打球角度別に表したものである。squared upが高い場合では打球角度10°前後や30°前後でwOBAconが上昇する傾向にあるが、その付近の角度ではBat Speedによるsquared up swingの割合の変動が小さくなっている。このため、Bat Speedの速さによるsquared up swingの減少が打撃成績に与える影響は、あまり大きくないと考えられる。

 また、実際のBat Speedと打者の平均Bat Speedとの差で比較すると、squared up swingの割合はBat Speedが平均値付近の際に増える傾向にあるため、打者がスイングスピードを落としたからといって、squared upが改善するという訳ではないようだ。

球種

 続いて、球種ごとのsquared up swingの割合をみてみると、フォーシームやツーシーム、カーブ系の球種はsquared up swingが多くやすいことが分かる。

 また、baseballsavantでの大まかな4つのPitch Typeごとのデータで比較すると、Offspeed(チェンジアップやスプリット系)やSlider Group(スライダー系)は、Fastball(速球系)よりも打球角度30°以下でsquared up swingが少なくなる傾向にある。
(2024/12/27追記・OffspeedにFSのデータが含まれていなかったため、上のグラフを差し替え)

 これに対して、Curveball Group(カーブ系)はFastballに近いグラフとなっている。

投球コース

球種での比較

                                ※赤枠はストライクゾーン

 次に、投球コースごとのsquared up swingの割合をみてみると、外角高めから内角低めにかけて値が高くなっている。また、投手の利き腕と打者の打席の左右が一致している場合では、不一致時と比べて外角でsquared up swingが少なくなるようである。

※赤枠はストライクゾーン

 続いて、Fastballについてだが、こちらについてはあまり全体との違いはみられない。

                                ※赤枠はストライクゾーン

 また、Offspeedをみてみると、あまり利き腕と打席の一致、不一致の違いはみられない。

                                ※赤枠はストライクゾーン
                                ※赤枠はストライクゾーン

 最後に、Curveball GroupとSlider Groupだが、一致・不一致時の差で比較する一致時には外角、不一致時には内角でsquared up swingが減少するようだ。
 全体を通してみると、いずれも球種でも外角高めから内角低めにかけて、squared up swingが多くなり、内角高めや外角低めは少なくなりやすいという傾向がみられる。

投球コースの高低や外角・内角での比較

 次に、ストライクゾーン内の高め・真ん中・低めとボールゾーンで、squared up swingの割合と打球角度を比較すると、ボールゾーンではsquared up swingは少ないものの、ゾーン内の高低による違いはほとんどみられない。

 対して、ストライクゾーン内の内角・真ん中・外角とボールゾーンの比較では、真ん中・外角・内角・ボールゾーンの順でsquared up swingが多くなりやすいことが分かる。またこのことから、squared up swingはコースの高低よりも外角・内角による影響が大きいと言えそうだ。

まとめ

 今回は、異なる条件下でsquared up swingがどのように増減するのかをみてきた。
 squared up swingが多くなる条件としては
・打球角度-10°から35°の打球
・フォーシームやツーシームの速球系やカーブ系の球種
・ストライクゾーン内の真ん中から外角
などが挙げられる。また、squared up swingの増加によってwOBAconが良化する打球角度は10°前後と30°前後に偏っているため、どの角度でsquared upが改善したのかを確認する必要があると言えそうだ。