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ボーガン事件で思うこと

どんな事件か?

ニュースでは次のように報道しています。

兵庫県宝塚市の住宅で3人がボーガンで撃たれて死亡した事件で、殺人未遂容疑で逮捕された私立大4年、野津英滉容疑者(23)は被害者ともみ合った形跡がないことが5日、捜査関係者への取材で分かった。県警は、別々の部屋にいた家族をいきなり襲ったとみて調べている。

死亡したのは野津容疑者の母、マユミさん(47)と祖母の好美さん(75)、弟の英志さん(22)。捜査関係者によると、野津容疑者は逮捕時、長袖シャツにジーパン姿で服装に乱れはなかった。3人も矢で撃たれた以外に目立った傷は見つかっていない。

3人はいずれも住宅の1階で倒れており、マユミさんはリビングであおむけ、好美さんは和室で横向き、英志さんは浴室前でうつぶせの状態だった。

逮捕容疑は4日午前、宝塚市安倉西2の自宅で、矢で伯母(49)を殺害しようとした疑い。首に重傷を負った伯母が近所に助けを求め、駆け付けた警察官が自宅前で野津容疑者を現行犯逮捕した。


ボーガンについて

ボーガンのことを私たちの業界ではクロスボウと呼びますが、このクロスボウというのはその昔、戦争に使われていた道具です。人間の歴史を見ると、戦いに使われた道具というのは必ず日常生活の道具になりますので、このクロスボウも例外なく「狩猟の道具」として変化します。そして、今日では「スポーツ用具」として販売されています。

歴史的なクロスボウのお話については、記事にしていますのでこちらをお読み下さい。クロスボウがいかに危険な道具かお解りいただけると思います。

スポーツという大義名分

クロスボウに限ったことではありません。この世の中、本来危険なものなのに「スポーツ競技」という大義名分を与えられて、日常生活に取り込まれているものはたくさんあります。

なぜ、危険なものに大義名分を与えなければならないのでしょうか?

それは、文化の保存と継承のためです。

ニュースに関するコメントには、「ボーガンなんていらない」というものが多いのですが、スポーツ競技として残っているからこそ、私たちはクロスボウの歴史と文化を知ることができるわけです。

ボーガンをスポーツ競技として認定した裏側には、こういった考え方があるわけで、この考え方を改めさせることは非常に難しいと思います。

模造刀剣類の場合

「ボーガンを規制しろ!」という声の反論として多いのが、「日常生活には包丁のように危ないものがたくさんあるのに、なぜ規制しないんだ?」や「ボーガンを規制するならアーチェリーや弓道も規制すべきだ!」というようなものです。

スピード違反で捕まった人が「なぜ私だけ取り締りの対象になるんですか!?」と反論しているようなものです。

論点のすり替えと言われるかもしれませんが、こういった取り締まりのお話をする際に、模造刀剣類のお話が参考になるのでご紹介します。

模造刀と聞けば、それがどんなものか想像するのは容易いと思います。模造刀というのは、著しく刀剣類に似ている模造品なのですが、使い方次第で人を殺傷することができてしまいます。そして、「演劇用」という大義名分を持っています。そして、今は銃刀法で規制されています。

しかし現行の銃刀法が制定された当初、模造刀剣に関する記載はありませんでした。その当時から時代劇はありましたし、居合などもありましたが、それらで使っている刀は専門的な道具だったので、使用する者を信じ、管理を委ねていたのでしょう。ところが、あるとき、模造刀剣を使用した犯罪が増え、法規制の対象となることが決まりました。

誰でも手軽に入手できるようになれば、良からぬ者の手に渡る確率も上がるので、当然の結果です。

日本には前例を重んじる傾向があるので、この模造刀剣の流れを考えると規制できるかどうかがわかってくると思います。


菅官房長官の回答について

菅官房長官は、「必要に応じ法規制を検討する」と話していますが、模造刀剣が銃刀法の規制を受けるようになった経緯を考えると、このような回答はごく当たり前の回答であって、それを「スピード感がない」と批判するのはちょっと違うのではないかと思います。


「これまでも人が何人か死んでいるのになぜすぐに規制しないんだ!」という声もありますが、すぐに規制しない理由としては、法律そのものの性質について理解する必要があります。

すなわち、人あっての法律であるということです。

言い換えるのであれば、犯罪を未然に防ぐための法ではないということです。

模造刀剣類が法規制の対象となったのは、模造刀を正しく使うことができない人が増えてしまったからです。ボーガンはまだその域に達していません。

ですから、菅官房長官の回答をプラスに解釈するのであれば、「人が自分の意思で犯罪を抑止できる社会をつくるために人の成長を待つ」というような、ある種の期待を込めた回答であるともいうことができると思います。

「犯罪がひとつ起きる度に法律で規制する」というのは、わかりやすいかもしれませんが、いちいちそれをやっていないのがなぜなのかを考えてみるといろんなことがわかってくるかもしれません。

西洋剣術の指導者としての見解

個人的な意見を言うのであれば、銃刀法には社会的不安を取り除くための規制という趣旨がありますから、ボーガンを銃刀法の規制対象に含めるというのは賛成です。

そして、多くの方がコメントしているように、銃刀法に含めずとも、ライセンス制にしてライセンスを提示しないとボーガンが買えないようにするというのも賛成です。

さらに言うと、ライセンスの登録料と更新料も高額にすれば良いと思います。もっというと、販売する業者もボーガンのライセンスを持っていないと販売できないようにしたほうが良いと思います。

ライセンス制度を導入するとどうなるか?

私はアメリカで”ヨーロッパ式の殺陣師”のライセンスを取得しており、その料金システムが素晴らしいので、お話したいと思います。

アメリカでは刀剣に関する法律はありませせん。

しかし、”殺陣”を仕事にする場合、しっかりとした研修を受け、テストに合格して認定をいただく必要があります。それは、演劇に使用する刀剣が殺傷能力を有するからです。

すなわち、アメリカには刀剣に関する法律はないものの、俳優の生命を守るための仕組みが存在しているのです。

その仕組が”殺陣師”のライセンス制度となるわけですが、このライセンスは永久ライセンスではなく、1年~2年で更新しなければなりません。その更新も書面だけの手続きではなく、毎回試験を受けなければなりません。

そして、その講習料・受験料・更新料も決して安くありません。そして、これらの料金は種目ごとに設定されており、剣と槍は別ライセンスです。剣も時代ごとに異なり、中世と近世では別ライセンスです。

このように、細かく料金が設定されているので、”殺陣師”として仕事をするためには、相応のお金が必要になります。

アメリカの場合、この何をするにしてもお金がかかるというシステムが抑止力となっています。

では、このアメリカのライセンス制度を日本のボーガンに適用するとどうなるでしょうか?

<購入者>

ボーガンが欲しい

ボーガンの講習会に参加(講習料の支払い)

ボーガンのライセンス試験を受験(受験料の支払い)

ボーガンのライセンス登録(登録料の支払い)

ボーガンの購入(販売店への支払い)

このようにボーガンを手に入れるまでに何度もお金を払わなければならなくなるのです。

人を殺害しようと考える人はお金のことなど関係ないかもしれませんが、こうした過程の中で、考えが変わるかもしれませんし、ボーガンを持とうとするだけでこれだけのお金がかかることがわかっていれば、そもそもボーガンという選択肢が出てこなくなるかもしれません。

ボーガンが規制されたあとのこと

以上が、「ボーガンを規制しろ!」という人の立場で考えた場合の意見です。こうなるとボーガン競技の人口も減ると思いますが、本当にやりたいのであれば海外に行くしかなくなりますね。

私は海外に行き、海外の刀剣の使い方を学び、ライセンスを取得しています。それは、将来の日本にとって、西洋剣術が必要になると思ったからですし、アメリカの安全管理の技術が日本の演劇界に必要になると思ったからです。

もし、あなたがどうしてもボーガンが必要と考えるのであれば、ぜひ海外に行って伸び伸びとした環境で練習することをオススメします。


ここまで約3500文字です。
長文にも関わらず最後までお読みいただきき、ありがとうございました。



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