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読者からのツッコミに対して思うこと

ツイッターで「南無三問題」のお話が出ていたので、今日はこれについてお話したいと思います。

「南無三問題」というのは、『グイン・サーガ』に登場する人物が「南無三」という言葉を使ったことに対して、「南無三は仏教用語です」というツッコミが入ったことで起きた議論のことを勝手に私が「南無三問題」と呼んでいるものなのですが、それと同じようなことが起きたようです。

こちらは、作中に登場する言語に対して突っ込んできた読者に対し、「異世界なんだから割り切って楽しんでくれ」という返信をしているところです。


何が問題だったのか?

異世界ものの小説に「サンドイッチ」という言葉が登場したことに違和感を感じた読者が問題として指摘したようです。

小説には小説の世界観があるのに、現実の食べ物が登場してしまったことで、世界観が壊されたということなのだと思いますが、言語で表現をしなければならない小説において、なかなか手厳しいご指摘です。

「アニメやマンガならツッコまれなかったろうに…」と思えるのですが、西洋剣術業界でも同じようなことが起きていますし、ライトノベルの専門学校の特別講師を務めている私には、他人事とは思えず、つい筆を取ってしまいました。


西洋剣術でも同じようなことが起きている

現在、世界で最も知られている西洋剣術はオリンピック競技にもなっているフェンシングです。

最近ではファイナルファンタジーに登場する赤魔道士が使う技名に西洋剣術のテクニック名が使われるようになりましたが、フェンシング用語であったり、ドイツ剣術の用語であったりと、いろいろなものがミックスされている状態となっています。

また、これらの用語と動作が合致していないというところもあり、これがファイナルファンタジーの独自の世界観を作っています。

もし、実際の西洋剣術のテクニックとテクニック名を合致させてしまうと、ファイナルファンタジーの世界に地球の歴史上の剣術が登場するのはおかしいというツッコミが入り、今回の「サンドイッチ」と同じような問題になっていたと思います。


作者と読者、問題なのはどっち?

今回の「サンドイッチ」に限らず、何か問題が発生したときにまずはじめに考えるのは「どっちに否があるか」ということです。こういったツッコミを見ると、とっさに作者に否があると受け取ってしまう人が多いと思いますが、冷静に見てみると読者に否があることも…。

だから、私は依頼主である作者には「ツッコまれたからと言って、すべてに否を感じる必要はありませんよ」とお話していますし、堂々とツッコミを否定したって良いと思います。もちろん、無視するという選択肢もありです。

とはいっても、お金を払ってくれる読者に対しては、誠意ある対応こそが求められると思いますから、どちらに問題があるかの判断は慎重にすべきでしょう。


作者のみなさまへ

私は作者を弁護する立場の人間なので、noteでは作者に有利になる発言をしますが、ほとんどの場合、作者に否はありません。作者に否があるケースのほとんどは取材不足が原因だったり、信憑性のない情報源からの情報を鵜呑みにしたことが原因だったりしますから、結果的に「そんなのどうやって調べればいいんだよ!」というものなのです。

西洋剣術の情報というのは、商売として拡散された情報以外は外に出ていませんから、そもそも調べられないのです。

ということは、読者も知らない情報ですから、ツッコミも受けません。

「ツッコミを受けないなら、専門家に情報提供をお願いしなくてもいいや」となるか、「ツッコミを受けないかもしれないけど、誰も知らない情報を使って他者に差をつけよう」となるかは作者次第ですが、少なくとも専門家に依頼をすれば、信憑性のある情報を手に入れることができます。

しかも、短時間で。

この「短時間で」というのは大きいと思います。
多くの人がインターネットで検索している時代ですが、インターネット検索の弱点は検索ワードが間違っていれば期待する情報にたどり着けないということです。

あなたがインターネットで検索している時に、ライバルは一枚でも多くの原稿を書いているかもしれませんし、一秒でも速く作品を完成させてしまうかもしれないのです。


作者目線での問題

冒頭のツイートに関して、私が興味を持ったのは、「異世界なんだから割り切って楽しんでくれ」という発言が、読者に対する甘えによるものかどうかということです。

クリエイターがどれだけ大変な思いをして、締切に間に合わせているかを考えれば、十分な取材の時間を確保できないことはわかります。しかし、取材の時間を確保できなかったことや、十分な情報を得ることができなかったことを正当化して、「ぜんぶ面倒だから異世界なんだから割り切って楽しんでくれと言ってしまえばいいや」と思ってこのようなツイートをしているのであれば、それは読者に甘えて自分を正当化しているだけで、そこに誠意はないと思います。


読者のみなさまへ

『グイン・サーガ』での「南無三問題」から30年以上経ってもまだ同じようなことが起きているのですから、これから先もまた同じことを繰り返すと思います。それについて私は、それでも良いと思っています。

ただし、それは、ツッコミが作者の生命を断つことへのきっかけにならなければの話です。

作者は膨大な時間と労力を費やして作品をつくります。
当然、作者は「この言葉を選ぶと読者に伝わりにくいかな…」「読者に楽しんでもらうためにはこの言葉を選んだほうがいいかな…」というように、読み手のことを考えて作品を作っています。ひょっとするとそれを考えるのは編集者かもしれません。いずれにせよ、読者が手にする作品は多くの人が携わって完成したものなのです。

私は、世に出てくる作品は多くの人のまごころによってできていると思うのです。

「まごころ」なんて古臭い言い方かもしれません。
しかし、日本に古くから使われているとても良い言葉だと思い、あえて使わせていただきました。

どうか、あなたの心ないツッコミで、日本の貴重なクリエイターを傷つけないようお願い致します。


最後に

私は世界の中の日本を意識して、日本人クリエイターの作品のクオリティーを上げるべく活動をしています。この記事を読んで「日本にこんな人がいたんだ」と思っていただければ幸いです。


【ミッション・ステートメント】

・私はアメリカのステージや映画で使われている安全管理の方法を用いて、出演者の安全を守ります。

・私はヨーロッパの武器術や戦闘理論に関する正しい情報を伝えることにより、日本のみなさんのヨーロッパの文化に対する理解を深めます。

・私は世界の中の日本という意識のもと、ゲーム、イラスト、アニメなど、”メイド・イン・ジャパン作品”のクオリティを向上させます。

もし、お役に立てることがあれば、ぜひお声がけください。




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