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ここまで見える胎児心エコー検査

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、循環器担当の稲村昇です。 今回は“小児科専門医を目指す若手医師が知っておきたい小児医療最新知識〜胎児エコー編”です。このシリーズが対象とする主な読者は、卒後10年以下の若手小児科医です。しかし、内容は必ずしも若手の医師だけが知れば良い内容ではありません。卒後10年を経過してもその分野を専門としていない場合、新しい知識はアップデートしたいものです。このブログをお読みいただければきっとそのニーズにお応えできますので、お読みいただければ幸いです。

胎児心エコーガイドラインでは先天性心疾患の胎児診断はレベルI(スクリーニング)とレベルII(精査)に分かれる。このレベルII検査は心臓異常を指摘された胎児の心臓を胎児心エコー検査専門施設における胎児心エコー認証医が行う非常に専門性の高い検査である。胎児心エコー検査専門施設でのレベルII検査はこれ以上の検査はできないと言えるくらいハイレベルな検査でなければならない。現在、胎児の心臓を調べる方法はエコー検査しかない。このため、レベルII検査に使用するエコー装置はその時代の最先端の画像技術が搭載された装置を使用している。近畿大学病院でも常にハイスペックな機能を駆使して最上位の検査になるよう心掛けている。本稿では時代の最先端の画像技術がどのようなものであるか、どこまで診断できているのか、どこまで画像構築ができるのかを解説する。

 1.   最先端の画像技術
胎児心臓を観察するには動画像が必要である。成人の心拍数は通常60程度であるのに対して胎児の心拍数は通常120程度と速い。このため、動画を作るために必要な周波数(動画を作るのに必要な画像の枚数)が成人より多くなければスムーズな動画像が作れない。2003年~2013年頃の超音波装置では高い周波数を得ることが難しく、せいぜい60Hzが限界であった。このため、1分間に120回以上動く胎児心臓の動画像は粗く、細かな観察には適していなかった。2013年~2023年になるとエコー装置が進歩し、より多くの音波を出すことが可能となった。このため、周波数が100を超えるようになり、動画像の動きはスムーズになり細かな観察ができるようになった。2023年以降のエコー装置では反射する音波をより短時間で解析できるようになり画像にめりはりがつくようになった。同じ心筋内でも内膜、心筋、外膜にコントラストがついた立体的な動画像が得られるようになった。
近年胎児医療を取り巻く状況の変化として、新型出生前診断(NIPT)の導入によって心疾患の胎児診断は妊娠のより早期から行われるようになった。胎児心臓の特徴は妊娠週数が早いほど小さく、心拍数は速い。最近の超音波装置は100Hz以上の周波数が容易に得られ、プローブで送受信される音波が多くなり、処理速度が速くなったので図1下段のように妊娠18週からでも鮮明な動画像を描出できる。
これまで述べたような技術革新はB mode画像に留まらず、カラー画像でも顕著に認められる。カラー画像の短所はカラーを付けると周波数が低下することであった。図2はカラー画像の変遷を示した。2003年~20013年頃の超音波装置ではこのため、ROI(撮影範囲)を小さくし周波数の低下を避ける工夫が必要であった。2013年~2023年になるとエコー装置は多くの音波を出すことが可能となった。このため、ROI(撮影範囲)を小さくする必要が無くなった。2023年以降のエコー装置ではカラー画像にコントラストが着くようになり立体的なカラー画像が得られるようになった。肺静脈血流は速度が遅く通常のカラー画像では速度レンジを30cm/s位まで低下させて観察した。図2下段のように、2003年~20013年頃の超音波装置では速度レンジを低下させると滲んだような画像となり鮮明とは言えなかった。パワードプラ法で観察することもできたが、当時のパワードプラ法は血流方向が区別できなかった。2013年~2023年になると血流方向の区別ができるパワードプラ法が追加され、静脈血流が滲まない画像で診断できるようになった。2023年以降のエコー装置ではパワードプラ画像にもコントラストが着くようになり立体的なカラー画像が得られるようになった。

2.   どこまで診断できているのか
これまで述べてきたように最近の超音波装置を使用するとより細かなところまで鮮明に診断できる。これまで診断が困難であった病態を把握できるため、胎児診断の精度が向上するだけでなく、これまで診断できなかった疾患が診断できるようになった。
図3にはこれまで診断できなかった疾患を示す。
冠動脈(図3A)
これまでのエコー装置では病的に太い冠動脈は描出できたが、正常な冠動脈は細く描出できなかった。しかし、2023年以降のエコー装置ではBmodeにもコントラストが付いたことで細い血管でも周囲との違いを描出できるようになった。今後、大血管転位や肺動脈閉鎖のように冠動脈の診断が必要な疾患への応用が期待される。
心室中隔欠損(図3B)
これまでの大きな欠損孔は描出できたが、中程度以下の欠損は困難であった。胎児心臓は両心室の血圧が同じであることでカラードプラ法が使用できないことが一因であった。しかし、最近の装置はカラーにコントラストが付けられるため速度の遅い拡張期の血流が描出できるため診断が可能となった。
気管・気管支(図3C)
気管・気管支は2013年以降の解像度が向上したエコー装置では観察可能であったが、脊柱、肋骨のシャドーによって全体を明瞭に描出できなかった。しかし、近年の装置は脊柱、肋骨のシャドーを減らすことができるため気管気管支までの描出ができるようになった。今後は出生前診断ができなかった気管狭窄などの重症呼吸器疾患の胎児診断が期待できる。

3.   どこまで画像構築ができるのか(図4)
2013年以降のエコー装置では検査中、検査後に3D、4Dの画像構築ができる。図4Aは大動脈弓の4D画像である。この画像は検査中に構築した画像である。診断が難しい大動脈弓の画像をリアルタイムに描出できるため診断精度の向上が期待できる。一方、図4B、Cは検査後に3Dの画像構築を行った症例である。Bは重複大動脈弓の症例で出生後の手術シミュレーションに役立った。Cは三心房心症例で出生後の病状を予測するのに役立った。
図4Dは共通房室弁の心内構造を作った4D画像である。検査後に4Dの画像構築を行い、出生後の治療方針を検討するためにカンファレンスで使用した。
このように3D、4Dの画像構築ができるため、診断精度向上のみならず、胎児期から外科医とカンファレンスができるように理解しやすい画像構築ができる。さらに、今後は模擬手術への貢献も期待できる。

以上、最新の胎児画像技術について解説した。この10年間での画像技術の進歩は目覚ましく、今後どのように発展するのかが予測できない程である。

著者名: 稲村 昇  Noboru Inamura
所 属: 近畿大学医学部小児科学教室
〒589-8511 
大阪府大阪狭山市大野東377番地の2  近畿大学医学部 小児科学教室


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