ハイパーカジュアルのプロトタイプを大量に見るパブリッシャーが絶対にチェックする3つのこと
Voodooをはじめ、ハイパーカジュアルのパブリッシャーには、世界中の開発者から送られてくる大量のプロトタイプを日々チェックする役割の人がいます。では、彼らはどんな基準でまだ原石といえるプロトタイプ段階を見ただけで、光を当てたらスターになるというタイトルを選定しているのでしょうか。
トップパブリッシャー各社のパブリッシングマネージャーが「これがなければヒットしない、絶対に必要な基本原則」としてどんな観点で見ているのか。今回はCrazy Labsのケースです。
Crazy Labsとは
Crazy Labsはイスラエルを拠点とした会社で、母体はTabTaleという知育アプリ、子供向けゲームアプリに特化したパブリッシャーです。
そしてCrazy Labsが特にピックアップしている3原則はこちらです。
1. "ワオ"体験 (Innovation & the WOW Effect)
2. 視覚的ボーダレス (Mass Appeal Art)
3. 導入がすべて (Onboarding is the key)
日本語は私によるかなりの意訳であり、英語は原文です。
1' "ワオ"体験 (Innovation & the WOW Effect)
"ワオ"体験という言葉でニュアンスが伝わるでしょうか。驚き、感動、すごい、心臓を貫かれる、震える・・みたいな体験と私は解釈をしています。
「ハイパーカジュアルゲームナイト」での芸者東京 田中さんの講演でも、ワオがあるかどうかという視点で見ているという話がありました。
ワオ体験といえば、忘れられない神プレゼンテーションがあります。
ソニー平井社長による2014年のCESキーノートです。まさにワオ体験をキーワードとしたストーリーなんですが、抜群のプレゼンのうまさもあって引き込まれます。「ワオが分からなければこれを見よ」というワオバイブルです。ちなみにこのプレゼンテーション中に"ワオ"が28回も登場します。
CESということもあり英語なんですが、初回のワオが出る寸前の2:43からスタートする下の動画をぜひご覧ください。
ありがたいことにフル動画および日本語でのテキストもソニー公式サイトにあります。ぜひ全編ご覧頂き、視聴完了後のワオに浸ってください。
なお、動画開始直後の話の内容はこれです。
"ソニーでは、好奇心を抱くということを大切にしています。日々の暮らしをどれだけよくすることができるかを自問することは、商品開発に対する情熱を後押しするからです。新しい製品を創るということは、人とつながりたい、驚きを生み出したい、日常を非日常に変えてしまいたい、人々に「WOW」を提供したい、という私たちの欲求の現われなのです。"
ソニーにおける商品開発であれ、ゲーム開発であれワオを提供したいというのは共通かと思います。ハイパーカジュアルであれ、個のゲームとして核となる体験の独自性は、やはり重要な一つのキーであるという話です。
2' 視覚的ボーダレス (Mass Appeal Art)
マスアピールというのはマーケティング用語としても使われる言葉ですが、性別年齢、趣味嗜好を限定しない全包囲網でのアプローチです。「誰もが遊べるゲームを」という表現もできるでしょう。
ハイパーカジュアルのトップタイトルが月間で数千万DLになるという事実から逆算すると、「誰もが」といった時に実際どんな人まで想定に含むかというと例えば下記のようなイメージです。
・そもそも普段まったくゲームをしない人たち
・文化的な共通認識がない国の人たち
・英単語/短い英文でも実は読めておらず雰囲気でボタンを押している人たち
Crazy LabsがあえてArtと言っているのは、登場するキャラクター・色による印象・アイコン一つとっても、それが何を意味するのか国境・世代・性別を超えた視覚的ボーダレスな要素であるかという話です。
よくゲームをする人にとってはすぐに理解できるルールも、普段ゲームをしない人には、何をやればいいのか伝わらない可能性もあります。共通認識だと思ったアイコンの意味が伝わらないというケースも起こりえます。
本当にこのアートワークで伝わるのかな、同じ理解になるのかな、世代や男女でウケが変わりすぎないかな、といった視点でゲーム内の各要素を見直したいポイントです。
3' 導入がすべて (Onboarding is the key)
上記2の「そもそも普段まったくゲームをしない人」も遊んでもらいたい層なんだ、というのを踏まえたうえでどうユーザを迎え入れるかであり、以下が大事にすべき点です。
・ゲームのコア体験は数秒で理解できるものか
・簡単にスタートできるものか
・なだらかな難易度の変化とともに、学習が進むものか
上記のCrazy Labsによる説明に加え、導入について私の解釈で言い方を変えると以下です。
・何がおもしろいのか最初のステージで伝わるか
・ルール説明も操作説明もほぼなしでスタートできるか
・ゲームが得意じゃない人でも楽しめるか
この条件に重きを置くことで、抜本的に作りを見直さないといけない場合もありえます。逆にいえば、ここでいくらでも差異が生まれる項目といえます。
そしてこれらの項目はハイパーカジュアルに限らず、どのジャンルのゲームを作る場合でも基礎として追求する価値がある観点といえます。
参考:パブリッシャーにゲームを送る際のTips
「これがなければヒットしない、絶対に必要な基本原則」としての上述の3点は、どこかしらのパブリッシャーにゲームを送る送らないにかかわらず、ゲーム開発時にチェックしておきたい基本原則といえます。
また、Crazy Labsは「いっぱいゲームを見ているので、できればこういう点をおさえて連絡してくれるとありがたい」という項目も列挙しています。もし、パブリッシャーにコンタクトを取る場面があるデベロッパーの方はそれらの項目も留意しておくと目に留まりやすくなるかもしれません。
1. 連絡先
デベロッパー名、スタジオ名、メールアドレス。初回の連絡なら、過去の成功タイトルを。シンプルに1行で。
2. どんなゲームか分かりやすいゲーム名&アイコンで
ファイル送付なら、ファイル名にそのゲーム名、日付、バージョンを。
3. どんなゲームか
どんなゲームか、何が特別で革新的なのかを1パラグラフの説明で。
4. コアゲームプレイ
ゲームプレイのコア要素を短めの1パラグラフの説明で。
5. GIFアニメーション
どんなゲームか伝わるGIFアニメーションを添付。
6. ゲームオーバー
どうなったら、ゲームオーバーになるという最少の1文の説明で。
7. 操作方法
最少の1文の説明で。
8. 何が楽しさなのか
最少の1文の説明で。
9. インスピレーション
部分的インスパイアタイトルがある場合は、言語ではなくそのゲームのそのシーンのビジュアル添付で説明を。
10. 難しさと成長
何がゲームプレイにおける難しさであり、成長を感じる要素なのかの説明。11. どうやったらうまくなるのか
ゲーム攻略のコツを数行の説明で。
12. 参照アートワーク
こんな感じのを参照して作ったものという画像や動画。それが同チームでの過去作品ならなお望ましい。
上記項目は、事務的な項目とも言えますが、各項目をシンプルに書けない時点でそれはハイパーカジュアルではない、見直すべきポイントという捉え方でリストを活用するのも良いかもしれません。
参照:
「What do we look for in Hyper Casual mobile games?」(Crazy Labs)
「How to Pitch Hyper Casual Games」(Crazy Labs)