Kwaleeが語るハイパーカジュアルゲームに必ず盛り込む原理原則
イギリスを拠点にハイパーカジュアルゲームのヒットタイトルを多数生み出しているKwalee(クワリー)。どんな会社なのかという話とともに、Kwaleeが各タイトルに必ず盛り込むというハイパーカジュアルの原理原則をご紹介します。
ユニークなタイトルを生み出す"クリエイティブ・ウェンズデー"
Kwaleeは2011年設立のイギリスを拠点としたゲーム会社です。近年は他社開発タイトルのパブリッシングも開始していますが、自社開発での歴史がベースになっており、ヒットタイトルを生み出す一つのきっかけになっているのが"クリエイティブ・ウェンズデー"という仕組みです。
毎週水曜日、職種にかかわらず社内の誰でも自らのアイディアを披露できる機会であり、それを全社員が聞く、それが"クリエイティブ・ウェンズデー"です。「Draw it」「Shootout 3D」「Off the Rails 3D」などがこの仕組みから生まれてきたタイトルです。
Kwaleeの主要なタイトルがこの場を通って生まれているという事実からも、いかに会社としてこの場を重要視しているか、そして例えば採用担当者であってもアイディアのプレゼンをしており、あらゆる社員にとって自分ごと化された場であろうことがうかがえます。
約1年で累計1億円以上の社員への還元
もう一つ特徴的なのが、タイトルで生まれた収益をインセンティブとして社員に還元するという仕組みも兼ね備えていることです。
これには2つのパターンがあります。1つはアイディアを出した人に始まりそのタイトルへの関与度に応じて担当者に支払われるインセンティブ、そしてもう1つはそのタイトルへの直接的な関与の有無にかかわらず全社員へ還元されるインセンティブです。
70人規模という社員数に対して、約1年ちょっとの期間累計で100万ポンド(約1億3,000万円)以上をこのインセンティブによって支払っていると公開しています。
クリエイティブ・ウェンズデーと収益還元という2つの全員が関係する仕組みがうまくリンクして、職務にかかわらずみんなでKwaleeのタイトルを生み出している感が生まれていそうで、よく考えられた仕組みだなぁと感じます。
Kwaleeが各タイトルに必ず盛り込むという原理原則
そしてKwaleeが特にピックアップしているハイパーカジュアルゲーム開発の3原則はこちらです。
1. マスアピール (Mass Appeal)
2. 一口サイズのゲームプレイ (Bite-Sized Gameplay)
3. ついまた起動してしまう中毒性(Short-Term Stickiness)
上記要素だけを見るとパッと見「まぁ、そうだよね」「分かってる」と思ってしまいそうなのですが、詳細説明で触れられている留意点も加えると下記のような感じになります。
1. マスアピール
ビジュアルはターゲットを限定しないもので。一方同時に、ゲームプレイの心地よさ、楽しさも広くウケるものであると言えるのかどうか。
2. 一口サイズのゲームプレイ
レベル制で1セッションが短時間でできるもので。ただし簡単になりすぎない要素も必要。
3. ついまた起動してしまう中毒性
なぜそのゲームを継続するのか。ついついまたプレイしてしまうという仕組み/仕掛けとして、コンスタントに成長を感じられる要素を。
1' マスアピール - ゲームプレイの心地よさも広くウケるものなのか
1点目の原理原則に関しては、ターゲットを限定しないビジュアル要素か、ゲームプレイで得られる心地よさも広くウケるものかということがマスアピールという一言の裏に込められています。補足を列挙すると以下です。
・数百万DL以上を目指すのが基本となる以上、特定のターゲットのみに限定したものではなく、マスアピールであることが必要
・ターゲットを限定しないビジュアルで。とはいっても、それは全てをキューブにせよという話ではなく、特定の人たちだけしか理解できないかもしれないようなものは避ける、という意味合い
・広く魅力が伝わるものでない場合は、広告でのユーザー獲得数減少・獲得単価上昇に繋がり、ランキングで上位に来る可能性を低くしてしまう
・特定の性別や文化に向けた要素を強くすることで興味を持つ人を限定的にしてしまわないように注意が必要
・広く受け入れられるビジュアルはどういうものか、ヒットタイトルにおけるビジュアルを参考にするのも良い
・その瞬間のためにプレーし続けるというものが何か。ゲームプレイそのもののなかにある心地よい瞬間なのか、またはゴールで感じられるものなのか
2' 一口サイズのゲームプレイ - ただし簡単になりすぎない要素も必要
以下、2つ目の原理原則についての補足です。
・シンプルながらも小気味よさを感じられるメカニクスのものを
・レベル制で、短いセッションでプレイできるものを
・ちょっとしたすきま時間でもプレイできるように、縦型で、片手で操作できるものが望ましい
・何をすればよいゲームなのかを瞬時に理解し、操作できるものを
・気軽にサッとプレイできるもの、ただ、同時に簡単すぎないように
例えば「PLANK」でいえば、ホールド時間に応じて伸びていく板を ちょうどいい長さで指を離して渡れる道を作れるかという部分がシンプルながらも簡単すぎないようにしている要素になります。
3' ついついまた起動してしまう中毒性 - コンスタントに成長を感じられる要素を
以下、3つ目の原理原則についての補足です。
・どんなゲームでも、プレイヤーが継続する理由・要素は何かを突き詰める必要はある
・その際、成長を感じられるというのは1つの大きな要素になりうる
・ことハイパーカジュアルにおいては、その成長は時間がかかり過ぎるものではダメ
・シンプルなものでもプレイヤーが変化や成長を感じるのに役立つ
・その先を体験してみたいと思えるようなゲームの深みの要素や世界の広がりを作ること
例えば「Jetpack Jump」であれば、遠くへ飛べるようになることで周囲の風景が変わっていくことと、ジャンプ力などをアップグレードしていく要素を通じて、プレイヤーは成長を感じられるし、それがゲームを継続する理由になっています。
「Clean Up 3D」でいえば、周囲のものをどんどん吸い込んで巨大化していって、ゆくゆくは家から飛び出し、車やビルまでも吸い込んでいくというゲームの進展が成長を感じられる要素であり、ついついまたやってしまうという要素になっています。
その他、パブリッシャーへのコンタクトという点で考慮したいこと
Kwaleeはパブリッシング事業もやっていますので、パブリッシャーへのコンタクトという観点および開発過程という観点で、以下のような点にも留意するといいと触れています。
<パブリッシャーへのゲーム提出時にやってほしいこと>
・15分ほどのゲームプレイができるところまで出来上がっているならプロトタイプでも送ってほしい。ステージ数でいえば20くらい。
・パブリッシャーへのコンタクト時は、10-15秒の動画提出もすると目に留まりやすくなる。
・ゲームプレイそのものとして視覚的に何かしらのインパクトが即時に伝わるものを。ハイパーカジュアルのタイトルが生きるか死ぬかは、短時間の動画広告でも魅力が伝わるゲームかどうかなので。
<開発において、やらないほうがいいこと>
・上記規模のプロトタイプとして数週間を超えて時間をかける開発
・広告、IAPの実装に時間を費やすこと(パブリッシャーに提出するプロトタイプ段階においては)
・みんなが自分と同じくらいうまくゲームができると思わない
・難易度が急激にあがる作りにしない
・アセットストア等で買えるものは作らない、時間をかけないために
以上、Kwaleeにとってのハイパーカジュアルの原理原則と留意点です。
特にパブリッシャーへのコンタクトを考えていない場合でも、こういった原理原則や留意点が開発時の見直しの参考になれば幸いです。
参照:
「What Makes a Hyper-Casual Game?」(Kwalee)
「Why we share profits with our entire team」(Kwalee)
「How to get your game published - Kwalee guide」(Kwalee)