カケラの記録 5
そして迎えた検査結果を聞く日。朝、念のため電話で検査結果が届いていることを確認し、病院へ向かった。不安はなかった。
午前診、待合室に患者さんは多かった。ずいぶん待って、私の番になった。医師は、生検の報告書を私に示しながら丁寧に説明してくださった。
切除した2つ組織片のうち、1つは良性。もう1つの、少し大きかった方が、中にガン細胞が点在している状態。
「ガンになった瞬間を切り取った、ってことね」
とおっしゃった後、「いずれにせよ、初期ガンということです」とはっきり言われた。
ただ、断面に浸潤の跡がなくきれいに取り切れたので、これ以上の治療は必要ないこと。もう一方の、良性だった方は少し組織を残しているので、経過観察するために1年後に再検査、ということだった。
本当に驚いた。腫瘍マーカーにはでてませんでしたよね、とお尋ねすると、そういうことはあります、と答えられて、また驚いた。
「腫瘍マーカーは参考にしますが、それだけでは判断できないんです」
と重ねて言われ、狐に摘まれたような気持ちになった。私たちが当てにしていた数字とは、いったい何なんだろう。
いずれにせよ、早く見つけてよかったということか。いや、ただ早いだけでなく、このタイミングでなくては切除してもらえたかわからない。ある程度の大きさがあったから、見つけてもらえたし、切除できたのだろうから。
会計が終わり、病院を出て、じわじわ湧き上がってきたのは、不思議な興奮だった。
ああよかった。生かされた。
見えないものでわが身を守られたように感じた。この安心感を、周囲の人に分け持てることへの喜びに満たされた気がした。報告したい人の顔が、たくさん思い浮かんだ。
ずっと喉の奥に固まって詰まっていたものが溶け消えて、深く息が吸えるような感覚に、何度も深呼吸した。胸の奥まですうっとする。大袈裟なようではあるけれど、自分が生物として生きている実感が、これだと感じた。
娘と夫に、短く「今のところ大丈夫です。守られました」とLINEした。授業中だろうに、娘のスタンプが即座に届く。職場にいるはずの夫からも「よかった」と短いメッセージが届いた。家族にこんなに大切に思われていること、ああ幸せだ。
安堵感に満たされながら帰路に着いた。(終わり)