カケラの記録 4

 検査結果は10日後。その日、私は遠方に出かける予定だった。離れて暮らす娘の大学祭に、夫と行く予定にしていたのだ。
 娘は娘で、秋学期が始まって多忙な様子だったが、来年度のことについて相談事がいくつかあった。だから予定を変更せず、行ってやりたいと考えていた。
 病院に確認したところ、検査結果が届くのはちょうど10日後というわけではなく、その前日か前々日のはずだが、確定的には言えないので来院の前に電話で確認してください、と伝えられていた。
 不安な気持ちが落ち着いて以来、慌ただしい日が続いてはいたが、その日その日の充実度が変わってきた。何があろうと悔いがないようにしたい、とお腹に力が入るような覚悟が決まると、物事の捉え方や人との関わり方が変わってきたのを感じた。
 再検査の報があったはじめ、娘に知らせることは見合わせていた。余計な心配をかけまい、娘まで不安がらせることはない、と考えたからだった。でも、途中で考え直した。私が不安がり過ぎてそれを娘に押し付けることは良くないけれど、きちんと検査をして、必要があるなら早めに治療をして、生き抜いていくことができるのなら。そう考えられるようになったら、それを娘に、体験的に教えたいと思った。その体験が、いつか彼女が、彼女自身の身を守ることになるかもしれないからだ。
 日常はLINEの文字だけのやり取りだけど、電話で伝えたいと思い、都合を確認して電話で話した。娘は冷静だった。私の話を聞くなり、夫と同じトーンで、
「よかったやん。詳しく調べてもらって、なんかあっても、早く見つかったら早く治せるってことやろ。大丈夫やって」
 一時は不安にがんじがらめになった私より、ずうっと大人びた言葉つきで、私を励ますのだった。そして明るい口調で、大学祭に訪れる場面でのことを話し始めた。前向きに物事を捉えようとする、娘なりの配慮だと感じれた。
 気付かない間に、娘は娘で成長していることが伝わってきた。ありがたかった。(つづく)

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