カケラの記録 3

 「生検の結果、もう一度詳細な検査が必要となりました。今日から10日後、あらためて検査結果を聞きに来てください」
 夕方、病院からの突然の電話に、ぽかんとしてしまった私。
 すでに帰宅していた夫に、言われた内容を復唱するうちに、これは只事ではないことがあったということなのか、と思い至った。その瞬間、一気に不安が込み上げてきた。手にしていたスマートホン、検索ボックスに関連ワードを入力し、調べ始めてしまった。
 検査の時に医師に受けた説明から、今回切除された組織片がどこにあったものかもわかっていた。私の場合は、大半のケースで見つかる場所とは違う箇所にあったようだった。
 私は専門家ではない。またネットに書いてあるケースと自分は違っており、人によってさまざまなケースがあるはずなのだ。ただの憶測なのに、知りたくないことを見つけてしまう。むしろ、知りたくないことを知ろうとしてしまう。そういう心の動きはなんなのだろう。
 ふと、自分を進んで不安にがんじがらめにしようとしていることに気付いた。もうやめたやめた。スマートホンをテーブルに置いた。
 夫はそれを見て、穏やかな声で私に、
「念のために詳しく調べてくれるんやって。腫瘍マーカーでてなかったんやし」
 大丈夫やって、といつもの、なんてことない口調で言った。そうか、そうやね。今度こそそう思い込もうとした。
 それでも時間を置くと、抑えきれない不安がぐうっと込み上げてきた。もしなにか病気が見つかったら? 娘になんて言ったらいいか。またきっと母は悲しむだろう。家族に、友人に、なんで説明したらいいんだろう。
 暴走する不安と、夫の「大丈夫」の言葉が、交互に頭の中に浮かび、喉の奥から込み上げてくる不安がそのまま固まって、何かが詰まったような気がした。
 そんな時。いつも話を聞いていただいてきた先輩に、別の要件でご挨拶する場面があった。まったく別の内容を話していたはずが、私の表情を見て、何か察してくださったのかもしれない。
 あなたはどう?元気? 優しいお声で不意に尋ねられて、言うつもりではなかったのに、ふと口にしていた。
「実は、精密検査の結果を待っているところなんです」
 口をついて出てきた、不安な気持ちをそのまま打ち明けてしまった。するとその方は、それはそうよ!とそのまま受けとめてくださった。不安感を否定せず、打ち消さず、丸ごと聞き入れられたことに安堵して、急に涙が溢れてきた。
 その上で、まだ何もわかっていないし、見つかったとしても早い段階のはずだから、結果的にこれでよかったと言える形になるはず。そう順々と励まされて、そうだ、その通りだ、と心から思えてきた。大きく息をついて先輩の言葉に頷くうちに、涙が止んで、心が軽くなった。
 これでよかった。そう言える結果になる。そう信じよう。(つづく)

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